にゃあ君はお客さまが苦手
我が家にはお客さまが来ることは滅多にない。玄関先に人が来て立ち話をしているだけで、にゃあ君は落ち着かない。宅配便も赤い羽根共同募金の集金も、にゃあ君は大の苦手だ。しかし、年に数回、様子を見に父が泊まりがけで遊びに来ることがある。
父から電話があった。幸い休みで家にいるので、父とにゃあ君ふたりきりのご対面にはならずに済みそうだ。
翌日、何も知らないにゃあ君は、いつものように椅子の上で丸まって昼寝をしていた。玄関口で父を迎え、にゃあ君を驚かせないように先に部屋に入る。
「にゃあ君、今日はお客さま。ママのお父さんですよ~。」
にゃあ君は異変をすぐに感じ取った。父が玄関で防寒着を脱いでいる間も、にゃあ君は落ち着かない。目を見開き、カサカサ音のする方を見つめている。どんな些細な音も聞き漏らすまいと、耳をピンと立て、音のする方へ向けている。
リビングに父が入る。と、その時、にゃあ君はものすごい勢いで椅子から飛び下り、庭への戸口へと駆け寄った。戸は閉まったままなので、逃げようがない。カーテンの前で、あたふたしている。父がにゃあ君に近付き、笑いかける。にゃあ君は目を合わせようともしない。怯えた目つきで何とか部屋から出ようとし、カーテンを引っ掻き始めた。
「にゃあ君、大丈夫。お父さんは怖いことなんかしないから。」
優しく言っても、逃げるのに必死のにゃあ君には通じない。慌てふためき、カーテンを上り始めた。あっという間にカーテンの上まで達し、ふぎゃふぎゃ鳴きながら床から2メートルほどのところでぶら下がっている。何とか爪が引っ掛かってはいるが、布が切れて落下したら大変だ。
もがくにゃあ君を後ろから抱え、やっとの思いでカーテンから引き離したが、目はキョトキョト、体はブルブル震えている。こうなったら出してやるしかない。
「わかった、わかった。今出してあげるから。」
戸を開けると、にゃあ君は庭に飛び出した。その後、テラスでうろうろしていたが、どんなに呼んでも決して中に入ろうとしなかった。
父が滞在していた二日間を、にゃあ君はずっと外で過ごした。テラスにはカーテンの付いたハウスがあるので寒さ対策は万全だが、何だかにゃあ君に申し訳ない。にゃあ君は時折、様子を窺いに戸口に近付くが、父の姿を認めると、また離れて行ってしまう。
結局、にゃあ君は父が帰った日の晩になり、ようやく室内に入って来た。