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ヒロガルセカイ。

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柊リンゴ

柊リンゴ

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2006/04/29
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引っ越してきた新しい町で、春の日差しに汗を感じながら。
母さんとご近所へ挨拶まわりをしていた あの日。
「つぎは・・秋田さん のお宅ね。」
呼び鈴を鳴らして、母さんがその家の人と挨拶を始めた後ろで。

  お人形が こっちを見てる?

窓からさす日差しで銀色の輪をつくる胸まで伸びた黒い髪。
前髪は目のすぐ上でまっすぐに切りそろえられた。赤い絞りの着物を着た女の子。
こころなしか青白い肌の色。
何か言いたそうに・・口が動いた。
人形じゃない。

「か・母さん。お人形・・。」
うごいた・うごいた、と母さんの肩を、ばしばしたたく。
「これ失礼なことを!すみません、秋田さん。」
「いいえー。今日はお雛さんですから。ふざけて着せていたのですよ。」
ははは・と豪快におばさんが笑う。
「ふざけて?」
母さんも不審に思ったらしく聞いた。
「小町。いらっしゃいな。」

呼ばれて、そのお人形は ぽてぽて と歩いてきた。

「わー。動いてるよ。」
「これ。ひかり。いいかげんになさい。可愛いお嬢さんですね。」
母さんが俺をたしなめながらも、そのお人形を見てほめた。

「いいえー。これは男です。うちの長男の小町です。」

「はっ?」
母さんもびっくりしてるけど、俺のほうがびっくりだ。
同じ男とは思えない。
なんだか違う生き物だよ。
「もう。ふざけてこれの姉の着物を着せていたんですよー。よく似合うでしょ?ははは。」
豪快に笑うおばさんの横で、そのお人形は俺をじっと見た。
「な。なんだよ。」
すこし怖かった。怖気づいた。
「これも長男です。ひかり といいます。10歳です。」
母さんがひきつりながら紹介してくれた。
「あら。小町と同じ年なのね。よろしくねーひかりくん。」
「こ。こちらこそ。あのー本当に男・・ですか?」
「あらー。気にいっちゃった?ははは。」
「あのー?」

「男だよ。残念ながら?」
そのお人形は。かわいい顔して憎たらしい口の利き方をしたんだ。
見透かされた俺のこころのなか。
顔が がーっ と熱くなってしまった。

「あら?どうしたの。ひかり?」
帰りたくて母さんの服の袖を引張った。
それすらも・・・お人形。いや・小町に、見られていた。
「越野さん、明日から小町と一緒に学校へ行ってやってくださいな。
 この辺じゃ、女の子ばかりでね。仲良くしてやってねーひかりくん。ほら。小町。」

「よろしく。越野ひかりくん。」
俺をまっすぐに見つめながら小町が俺の名前を覚えて言った。

本気で、かわいい と思ったんだ。その日から今もずっと。
俺と同じ年で。同じ男の。小町が。

















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Last updated  2006/04/29 05:29:46 PM



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