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ヒロガルセカイ。

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柊リンゴ

柊リンゴ

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2008/11/17
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そっと枕元に手を伸ばし、シーツに顔を埋めて悠弥さんの温もりを感じようとした。

「ゆ、やさん……」
 
 今朝もここに寝ていたであろう、悠弥さんの姿態を思い描く。
何を着て寝ているのだろう。
そして仰向けなのか、うつ伏せなのか。

 シーツにキスをすると体のどこかがズキンと痛む。
それは平常時の体温を越えてより熱く、僕をじわじわと急きたてる。

(痛い……)
 
 それがどこかはわかっていた。
僕はそこに手を伸ばし、ジーンズの上から突き出ようともがく物を片手で覆う。
堪えようとして息を止め、静かに吐き出す。
しかし再び息を吸うと悠弥さんの香りが鼻腔から体に流れ込む。
僕の自身は敏感に反応して嬉しがり、屹立してしまった。

「悠弥さん……」
 
 助けを求めるのか懇願なのか呟く僕にもわからない。
確実にいえるのは悠弥さんの姿を脳裏に描くと「欲しい」と答えが出てしまう。
 
 悠弥さんのベッドで僕は自分の淫らさを恥じた。
男の匂いや欲に駆り立てられた者を嫌悪して、代価で取引する行為を屈辱として拒んできたのに、僕は自らの自身の目覚めを知った。
 
 下着の中に差し込んだ手は切り揃えた茂みを抜け、固く屹立した自身を捕らえる。

「……ア、い、いやぁ……」
 
 なんとしたことだろう、僕は自分が嫌悪している男の匂いを自らまき散らそうとしているのだ。
それも心惹かれる悠弥さんを想像の上とはいえ汚そうと、最早先端を濡らしていたのだ。

「クウゥ……」
 
 自分の声とは思えない鼻にかかった甘い声が漏れた。
額から汗が流れ、僕の髪を頬に張り付かせる。
唇にも触れたそれは自由に動けない僕の濡れた心の縮図だ。
雄は放出を求めて疼き、脳に動けと指示を出す。

(止まれない!)
 
 汗ばんだ僕の肌は熱を帯び、そして刺激を求めていた。
僕は悠弥さんを求めているのだ。
心を預けたい人に、僕はこの体も繋がりたいと切望していたのだ。

(知られたくない、こんな思いも知られるわけにはいかない!)
 
 拒絶されるのが怖い。
荒い息を吐きながら、それでも股間を落ち着かせようと震える。
しかし焦っても自身は静まらない。本能に反した僕に怒張していた。
 
 こうしている間にも悠弥さんがいつこの部屋にくるか知れたものではない。
こんな姿を見られでもしたら……。
 
 慎重にジッパーを上げる。
一安心したが、うっすらと出来た染みを見て心臓が跳ねた。
羽織っていた薄手のカーディガンを脱ぎ、それを抱えて前を隠しベッドから降りた。
やや前屈みになりながら、よろよろとドアの前まで行き階下の様子を探ると話し声が聞える。

 今のうちに挨拶をして帰ろう。
しかし上気した頬が熱い。
この狂おしい欲情に気付かれなければ良いのだが。
 
 ゆっくりと階段を下りると悠弥さんの明るい声が聞えてきた。お客様がお見えなのか。

「お誕生日おめでとう。十一月には七五三のお参りだね」
「いやあだ、この子ったら照れちゃって! まだ七つなのにませているでしょう、悠弥くんが好きなのよ。この間もピアノの発表会に素敵な花束を届けてくれたでしょう。もう、喜んじゃって。ねえ、お参りの時の髪は悠弥くんにお花を飾って貰おうね?」
 
 親子連れのお客様か。
お母さんらしい女性の声も楽しげで、悠弥さんがお客様にいかに慕われているかわかる。

「お化粧をして晴れ着を着るのかな」
「そう、それが舞妓さんみたいに振袖に結び帯をして、ぽっくりも履かせたいのだけど、 どうかしら。似合いそう?」
 
 そんな事は身内に聞けば良いだろうに。
女性の裏返った声とこの和やかな雰囲気に、顔を出しづらくなり階に座った。

「きっと似合うよ」
「……ママー!」
「あららら、この子ったら! 悠弥くんに見つめられて恥かしい?」
(良いなあ)
 
 僕にはほど遠い暖かな家庭の雰囲気が垣間見られた。
こうして階に座って膝を抱えている僕と、姿は見えないがさぞや嬉しがっているお嬢さんは産まれた場所も育ちが違う。
だから珍しい舞妓さんの格好をして飾りたいのだろう。

(僕は毎晩させられている。しかもその姿を誰にも見られたくないとさえ思っている)
 
 話し声を聞いていると自分が世間とは違う異端の者と思い知らされる。
それに悠弥さんは僕だけに優しいのではなくて、お客様にもやさしいのだ……。

 へこんでいたら萎えてしまい落ち着いてきた。
出るなら今だろう。僕は階段を静かに下りて店に顔を出し、接客中の悠弥さんにお辞儀をしてようやく店のドアにたどり着いた。

「また、おいでね」
 手を振る悠弥さんに再び頭を下げて店の外に出た。
しかし自動ドアがなかなか閉まらない。
お蔭で僕が店先を離れていくのにも関わらず、店内の話し声が漏れ聞えた。

「可愛い子ねえ、まだ高校生くらい? 悠弥くんのお友達かしら」
(友達。そう紹介して貰えるのだろうか)

「ふふ。大事な子です」
(え?)
 
 どきんとして足が止まった。
恐る恐る振り返るが丁度ドアが閉まっていた。
もう会話の続きは聞けない。
店先に日差し除けもかねて育てられている朝顔の蔓を通りすぎながら、ため息をついた。

(大事な子。どんな意味だろう。期待してはいけないな、だって僕は……)

 見上げた空の夏の日差しが眩しい。
足早に路地裏へ入り、両堀の上を野良猫が陣取る小道を歩く。
今日も猫は僕に警戒を解かない。
その痩せた背中の毛を逆立てている。


「夏蓮さん、そろそろ帰りませんと」
 いきなり背後から声を掛けられて驚いた。
 振り返ると牛若楼の使用人の大男、桔梗が突っ立っていた。

「どうしてここにいるの?」
「はあ、そういわれましてもね。俺はあなたのお目付け役ですから」
 
 お祭りでもないのに浴衣を着ている百八十センチを越えた大柄の男は目立つ。
筋骨隆々の体格の良さを見込んで婆様が僕のお目付け役を命じたのは良いが、平日の昼間に浴衣を来た大柄の男と並んで歩いたら人の眼につきやすい。
万一素性を問われでもしたら僕の恐れている事が露呈してしまう。

「婆様から、散歩をするのは構わないが牛若楼の大事な姫に何事かあってはならないと、言われていますので」
 でも少しは僕を気遣ってほしい。

「離れて歩いてくれる?」

「はあ、夏蓮さんがそう言うのなら従います。だけど少し急いでくださいねえ? 今宵は上客が見えるので、夏蓮さんには大門が開く時刻から早々に二階の座敷へあがるように婆様から伝言がありましたので」
 大門が開くのは午後三時だ。そんな早くから客人はまず来ないものだが。

「……誰が来るの?」
「さあ、忘れました」
「え?」
 

 子供のお使いではあるまいし、忘れたで澄まさないで。
きちんと内容を聞いて伝えてこそ伝言が成り立つのに。
桔梗の年は二十代と聞いているがその割に頭が回らない欠点があると見た。
悪い人では無さそうだが。

「夏蓮さん、日焼けをしてしまうから上着を羽織ってください。俺が叱られるので」

「うん」
 ボーダーのタンクトップの上に手にしていたカーディガンを羽織った。
染みが丁度隠れる丈だったので安心した。

「後ろから見ると女の子ですねえ」
「嬉しくない」
 
 細い道を抜けて掛橋の袂まで来た。
泥と化した水面を見ると複雑な想いにかられる。
今からまた泥の中に戻るのだ。
それが自分の変えられない生き方なのだろうか。


6話に続く






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Last updated  2008/11/17 03:28:38 PM
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