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ヒロガルセカイ。

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柊リンゴ

柊リンゴ

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2016/06/11
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彼の名前と容姿しか知らない。
声だって、今日初めて間近で聞いたようなものだ。
級友なのは知っている、数人とつるんでいる姿が結構目立つから。

背が僕より5センチくらい高いせいだろうか。
男として自分より身長のある人には羨望のまなざしを送ってしまうものだ。
いや、目立つのは彼の風貌だろう。
どことなく品がありそうな佇まいなのに空気を変えてしまう行動を時にはとるのだと知った今、
僕は彼に興味を持った。

「まるで初対面な顔をして俺を見ていない?」
真正面に腰かけた翌檜が楽しそうに微笑む。
「は」
「話した事無いものね。俺は見ていたけど」
「え?」
見ていただって?
僕を?
箸で1口大にしたお弁当の甘い卵焼きを口元へ運ぶ前にこぼしそうだ。

食欲がみるみる落ちていく。
今日は食べきれそうにない、どうしたものか。

「立葵ってさ、入試の成績が良かったのか、
担任に初日、生徒会役員候補に選ばれたじゃん。
それを起立してまで一方的な決めつけだと退けて。
思春期にありがちの反抗的な奴かと思いきや、授業中に自ら挙手して正解を言い当てたり。
マッシュボブの中性的な髪型している割に男気あるなと」

これは昔のバンドの髪型を真似たのだ。
僕だけだなと悦に浸っていたら、登校時に他校の制服を着ながら同じ髪型をしている人がいて。
なんだか釈然としなくて外はねしやすいように再度アレンジカットをしてもらったのだ。
今は納得しているので、髪型のことを言われると悪い気がしない。
ただ。

「男気と髪型は関係あるの」
「知っているんだ。左耳、ピアス開けただろう。
今、髪で隠れているしシリコンピアスだから滅多に気付かれないね」

これは驚いた。
どこまで僕のことを知っているのだ。
確かにピアスを開けて1か月は18金のピアスを入れなければならず、
誰かに見つからないかひやひやしながら過ごしたが、この髪型のおかげで誰にも咎められなかった。
1か月過ぎたそれからは穴がふさがらないよう、目立たないようにシリコンピアスをつけているのだが。
まさか、気づかれていたのか。
しかしどうして黙っていたのか。
翌檜の心の内が読めない。

「スリルだね。見つからないようやり過ごすなんて面白い。
あ、左耳ってあれでしょう。勇気の印。
見つかれば校則違反、それをかいくぐる、だからスマートで男気がある」

勇気の印、そうなのだ。
僕は両耳にピアスを開けずに左だけにしている。
勇気の印とネットか何かで知ったからだ。

僕は迷わず恐れず自分の体に穴を開けた。

勇気が欲しかったのだろうか。
開ける前と開けた今で、何か違うだろうか?
何も変わらない気がする。

いや、僕が変わろうとしないのだ。


「あ、目が黒い」
肩肘をついた翌檜が僕をまじまじと見ている。
「皆そうだろう」
「俺は色素が薄いから薄い茶色なんだ。カラコンじゃないよ」
思わずその瞳を見てしまう。
言われてみれば確かに飴玉のように透明感がある。

「綺麗」
「ありがとう。気に入っているんだ」
ふふ、と笑う表情が心地よい。
こんな級友がいたのか。

翌檜は両手を組んで指を絡ませ「ん-」と背伸びをした。
無防備だ。
初めて会話をする相手の前でそれは無いだろう。

「まだ警戒する?」
「いや、だってさ」
「立葵は自己主張が強いな。個性がある。
ま、今知っているのはそんなところ。
あ-、あとお弁当がいつも豪華」


「随分誉めてくれるんだね。でもこの塩梅だけど」
周りに友人はいない。
それが現実。

多分、僕は彼・翌檜の言うとおり主張が強すぎて存在が鬱陶しいのだ。
扱いずらいのだ。
わかっている、だけど自分では間違った道を歩いていないと思う。
ひとりでも生きていける。
解り合える友人なんて。
僕の思いを受け止めてくれる友人なんて。


「愛情こもっているから美味しいんだなあ、この唐揚げ」
「えっ」
いつの間に食べたのだ。

「お母さんに感謝しろよ。無理して作っているんじゃないぞ、この味は。
胃にもたれないように薄味で十分な油切がしてあるし、鶏皮もとってある。
子供を思う親の愛情の懐の深さを知ったよ」

翌檜が僕の心を見透かすように顔を近づけて諭した。
それは5秒にも満たない、だけど僕は無意識に息を止めていた。

「ごちそうさま。お母さんによろしく」
立ち上がる翌檜を僕だけでなく教室中が見守っている空気を感じる。

「翌檜」
「なに?」
「僕のことを、……どこまで知っているんだ?」

「ん? そうだな、あとは部活に入っていないことくらいかな。俺もそうだし。
立葵に対して残念ながら特定の興味は今のところないかな。
ああ、甘いものが好きなら帰りにおごるよ。唐揚げのお礼に。
結構並ぶけどレアなクレープ屋さんがあるんだ」

「答えをはぐらかされている気がするんだけど」
「さすがだね。だけど人の好意は素直に受け取りな。
立葵、いや、壬。おまえ、きっと変わるよ」


生徒会役員でも友人でもないのに、どうして僕に構うのだろう。
どうして唐揚げを食べてくれたのだろう。
椅子の脚を蹴って空気を変えてまで。









●お久しぶりの方も●

こんにちは
先ほど書き忘れてすみません
数年ぶりにBLを書いています
相変わらずの書き物ですみません

葛藤する主人公って初めてかな
恋とか愛とか大事です
マイペースに続けられたらと思います

あ、相変わらず夜空が好きです
満月も好きです










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Last updated  2016/07/01 11:14:22 PM
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