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ヒロガルセカイ。

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柊リンゴ

柊リンゴ

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2016/07/02
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彼は僕が知らない場所でまだ見たことの無い顔をしているのだろう。
夜空が白々と明けていく、そんな1日の始まりを僕は受け入れ難かった。
こんな日曜日は初めてだ。


颯秩がバーで働いているのは衝撃だった。
真実かどうかさえ確かめようがない、僕もまだ学生だからだ。
級友の情報も出所が確定的な根拠が伝わらなかったが、
火の無いところに煙は立たない。
たとえ、バーでなくてもそれらしい系統のバイトをしているのか。
そう考えるのが自然か。

しかし、そもそもバーとは一体どんな場所なのだ。

級友達が休み時間に話している『絶対行ってみたい、ガールズバー』と同様か?

ガールズバーを検索すると誤ってクリックしたらお金を要求されそうな雰囲気だ。
メイクを駆使して体を磨き上げ、甘い蜜を振りまく女の子がそこかしこに存在するが、
こんな感じの子は少なくとも僕の街では見かけない。
どういう所に生息しているのだろう。

だが、これは危険な香りがする。
直感が否めない。


颯秩も何処の馬の骨かも知れない酔客に絡まれたりするのではないか?
バーがどんな所か知らないが、ただ漠然と風俗営業の匂いがするのだ。

僕が触れたいと、掴みたいとさえ切望する颯秩の髪を酔客が撫でるのではないのか。

許し難い。
まず間違いなく颯秩が自ら志望して働いているのだろうが、認めたくない。
おそらく営業笑いを浮かべ、酔客の手を取り、愚痴を聞いてあげたりするのだろう。

なんだ、一体、バーはどんな場所なのだ?


眠れない一夜を過ごすと頭は妙に冴えて神経が高ぶるものらしい。


「急になんだ?」
僕には10歳も年の離れた兄がいる。
高校生がバーへ出向くのは法に触れるが、父兄同伴なら如何だろう。

「ちょっと社会勉強したいんだ」
「どういうことだ」
「バーに連れて行ってほしいんだよ。あ、お酒じゃないよ。
お店の雰囲気とかさ、僕は将来インテリア関係の仕事に就きたいから知りたいんだ。
大人が時間を贅沢に使う空間はどんな演出をしているのか気になるんだよ」

我ながらよくぺらぺらと話せるものだ。

「そこまでおまえが言うなら、行きたい店でもあるんだろう?」
釣れた。
「場所がわからないんだ。でもイタリアン系のお店があるらしくて、感じが良さそうかなと」

「隣町にあるバーじゃないか? この街は治安を重視してお酒を出すお店は勿論、
風俗営業もかなり規制されているからな。
ああ、言っておくけど多分そういう店は日曜日が定休日」

なんだそれ。

「明日、学校が終わってから着替えて隣町の川沿いにあるコンビニの前で待ってろ。
母さんには内緒だぞ。面白そうだから連れて行ってやるよ」
兄は堅物そうに見えて、気まぐれな面がある。
上手くそこを突けた。
今日はどうしようもないが、明日か。
学校でも会えるけれども確かめたくて仕方がない、落ち着かない。


ベランダに佇み、星はあんなに遠くで光っていたのかとしみじみ感じた。
何も出来ないもどかしさと焦りは僕を眠らせなかった。



朝の光を待ちわびた。
自転車を漕ぐ時さえ緊張して、いよいよかと震えそうだ。
教室で見かけるその顔が素なのか、それとも今夜見る顔が真実だったりするのか。
夕刻になると兄に言われたとおりに着替えた。
姿見に映る自分の姿はどことなく滑稽だ。
着慣れた服なのだが、落ち着かないせいだろう。

まるで偵察だ。
その自覚があるからこそ己の間抜けさが情けない。





マンガで見かけたことのある銀色の杭で打たれた大きな酒樽以外に看板らしき目印が無い。

僕はカフェみたいに机くらいの大きさの黒板に、
白いチョークでメニューが手書きされているのかと思ったが、
人を拒むのか一見さんお断りな空気。

こういう場所で大人は世俗を忘れてお酒という快楽に身を預けるのかな。
矢張り僕には早すぎたお店だ。
しかし気になるのだから1歩進むしかない。
無理なお願いだが、僕は見るからに高校生だけど干渉しないお店でありますように。

どうしても会いたいんだ、颯秩に。


店内は照明が暗く、テラコッタの色をした椅子が小さく丸いテーブルを囲んでいる。
それが3つか。
奥行きの無い鰻の寝床のような狭苦しさ。
大人とは、こういう場所で現実逃避したりするものなのか。
まだ開店まもなくだからか出迎えの店員が来ない。
掃除でもしていて気付かないのかな。

「いらっしゃいませ」

慌てもせずに店員が2人揃って現れた。

そのうちの1人は僕の目当てだった。


颯秩は僕を見て「あ」と言わんばかりに口を少し開けた。

そんな颯秩を横目で見た店員が肘で突き「2名様ですね。テーブル席がよろしいですか」
すらすらと流れるような接客だ。
見るからに学生の僕に動じない。

「いや、カウンターで。今日は長居しないから」
「それは残念ですね。どうぞ、カウンターへ」
ん?
兄はよくこの店へ来ていたのか。
「ここはカウンターの方が落ち着くぞ。テーブル席が狭苦しいからな」
「よく来るの?」
「たまにね。家にお酒が無いから飲みたいときに」
そういうものか。

「当店は軽いお食事も用意できますが、如何します?
例えば牛肉のハラミをグリルしたファヒータとか」
店員が他にもパスタの名を挙げたが食欲は無い。
それどころでは無いのだ。
僕の目的は食事では無く、
今朝も教室で数名の級友と楽しそうに笑い合い、
窓から入る新緑の風に涼しそうな表情をしていた彼だ。

「失礼します」
その颯秩が僕の前に再び現れた。
照明のせいでどんな顔つきなのかわからない、
しかし着ている白いシャツが反射板のような効果で何とか拝めそうだ。
食い入るように見つめた。
頼んでいないグラスを片手にしている。
何だろう。
それより僕がここに来た事実をどう思っているのか。

「ウーロン茶になります」
長い中指と人差し指を添えて僕の前へグラスを押すように置いた。
そして何やら含み笑いをする。








●風呂敷●

大人として1枚も持っていないのはどうかと思いまして探しています、しっくりくるのを




こういうのも可愛くて良いし、江戸っ子調な感じのもいいなと

あ、すみません
ピクシブ、パスワード受け付けてくれなくて(自分の操作が悪い、確実に)
あの1本で終了です
でも楽しかったです、ありがとうございました





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Last updated  2016/07/05 12:35:33 PM
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