森見登美彦 著 《 夜は短し歩けよ乙女 》 角川書店
森見さんの妄想、大爆裂!!森見さんの著書は《四畳半神話大系》《有頂天家族》《きつねのはなし》と、四冊目になるなぁ・・・。最初に強烈な《四畳半神話体系》を読んでしまったので、あとはどんな妄想がやってこようと平気平気。基本的に私個人に妄想癖があるので、とても親しみがもてると行ったほうが良い。森見さんは奈良県出身。多分学生時代を京都大学でお過ごしになって、吉田山とか北白川とかその辺りでお住まいだったんだろうと推察される。前出の《四畳半神話体系》もこの《夜は短し歩けよ乙女》も学生生活を描いてあるものなのだけれども、この感じがあまりにも自分の学生時代を思い出させるので、可笑しくて仕方が無い。貧乏学生の生活の基盤と言ったら、今の学生さんではあまり無いだろうと思われる、共同トイレ共同の炊事場の四畳半なのだ。風呂が付いているところなんて滅多に当たらない。本棚と小机とカラーボックスの上に乗っている炊飯器とその下のオーブントースターと、蒸し暑い夜には窓を開け放って、電球に寄ってくる蛾がはためくのを万年床で眺めながら、青年はひたすら悶々と自分の将来に不安を感じ、今この万年床にいる意味を問い、青雲の志とは裏腹におねえちゃんのおっぱいなんぞを想像する自分を嫌悪し、日々の学業に流れ、バイトに精を出し、風邪をこじらせたら一人で死んでしまうのではないかと突如として寂しくなる、そんなムンムンとしたものが熱気と湿気を帯びて生まれた妄想なのだ・・・・。森見さんの話には登場人物が重複するところが多い。それぞれのキャラ設定として少しづつ違うこともあるのだが、これは学生時代に知り合った人たちがモデルなのかと思わせる愛着を感じる。読んでる方もこれは結構親しみやすい。でも一環している彼の趣味は“黒髪の乙女”なのだ。そしてそれは散々悶々としたあげくHappyEndに向かっていく。あー、これはネタばれかな?すいません。でもその過程がとてもかわいらしいので、そこんところに重きをおいて読んでくだされ。森見さんの文体の特徴というのがある。尋常ではないのだ。読んでいるうちにその妄想的文体に竜巻の様に巻き込まれて楽しめる。かと言って、はちゃめちゃではない。独特の美しい表現があるのでハッとする事が多い。しかも古すぎて逆に新鮮な新しい文体なのだ。読んで頂くとわかる、至るところに夏目漱石的な熟語が現れて可笑しい。しかもこの人の美意識は独特で、恥の概念は自虐的と言っていいほど可愛らしい。この独特さがある種の人々から指示されるのだろうなっ。私もその一人だけど・・・。とにかく、日常の生活が灰色になってきていると思う方は是非お読みくだされ。“おともだちパンチ”をくらって、何だかへんな勇気が貰えます。お奨めいたします。ご存知の方も多いと思いますが、森見さんの作品は学生時代ものだけではなく、“有頂天家族”や“きつねのはなし”の様に、同じ京都は舞台ですが、全く違う良さのあるものもありますので、是非そちらもお読みください。では、次回の感想は《走れメロス》を読んだ後で・・・・。