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「禁じられた歌声」(原題:Timbuktu)は、2014年公開のフランス・モーリタニア合作のヒューマン・ドラマ映画です。アブデラマン・シサコ監督/共同脚本、イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トゥルゥ・キキら出演で、アフリカのマリ共和国の美しい古都ティンブクトゥを舞台に、イスラム過激派に占拠された街の人々の苦しみと抵抗を描いています。2015年のセザール賞で最優秀作品賞、監督賞、脚本賞など7部門を受賞、同年のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品です。
「禁じられた歌声」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:アブデラマン・シサコ 脚本:アブデラマン・シサコ 、 ケッセン・タール 出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ(キダーン) トゥルゥ・キキ(サティマ) アベル・ジャフリ(アブデルグリム) ファトウマタ・ディアワラ(ファトウ) イチャム・ヤクビ(ジハーディスト) ケトゥリ・ノエル(ザブー) ほか 【あらすじ】
【レビュー・評価】 イスラム過激派に占領され、支配されるマリ共和国の古都の日常、シャリーアによる裁きの恐怖、それに屈することなく自由を求める人々の心を描いた、感動的なヒューマン・ドラマ映画です。 イスラム過激派に支配されるマリ共和国の人々の日常と恐怖と抵抗を描く アフリカ大陸で活発化するイスラム過激派 イスラムの世界を描いた映画は、アフガニスタン、イラン、トルコ、レバノン、イスラエル、ヨルダン、サウジアラビア、パレスチナなど、西アジアの国々を舞台にしたものが多いですが、本作のアフリカのマリを舞台に隣国のモーリタニアで制作された作品です。アフリカのサハラ砂漠以南の地域における宗教的慣習は、個人の精神性を重視するイスラム神秘主義に基づいており、西アジアのイスラム原理主義の国に見られるような厳格な慣習とは異なった独自の伝統文化があり、イスラム過激派の影響を比較的受けにくいとされていました。しかしながら、
イスラム過激派の支配下における人々の暮しを描いた作品には、タリバン支配下のアフガニスタンを舞台に少女の運命を描いた「アフガン零年」(2003年)などがあります。アフリカに関するものでは、ケニアの首都ナイロビに潜む過激派組織を遠隔地よりドローンで偵察、英・米・ケニア合同でテロリスト捕獲を試みる「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(2015年)がありますが、支配されるアフリカの人々の生活にこれほど密着したものは本作が初めてでしょう。 事実に基づくエピソードを紡いだドラマ アブデラマン・シサコ監督はモーリタニアのキファに生まれ、子ども時代をマリのバマコで過ごし、19歳でロシアに渡って映画を学び、さらにフランスでも20年ほど暮らしたというグローバルなバックグラウンドの持ち主です。2012年、マリ北部のアゲルホクという街で、子持ちの事実婚カップルが神の前で結婚していなかったという理由で石打ちの公開処刑に処されます。これはイスラム過激派のジハーディストらに占領されたマリ共和国で行われた、シャリーアに基づく初めての残酷な処刑となりました。この事件にショックを受けたシサコ監督は、彼らの暴挙を人々の良心に訴える為に映画を制作することを決意します。 ドキュメンタリーの制作を考えた彼は、事前調査の為にジャーナリストを雇い、マリ共和国の古都ティンブクトゥに送り込みますが、ティンブクトゥの人々は自由に話すことができませんでした。ジハーディストはプロパガンダの為にインタビューされたがりましたが、これではミスリーディングなドキュメンタリーになりかねないと、シサコ監督は断念します。2013年、フランスが軍事介入し、占領されたマリ北部の街はジハーディストから奪還されます。シサコ監督自身もティンブクトゥ入りし、実際に人々に会って支配下で起きた話を聞きます。さらに、他の街での出来事を加え、
キダーンを演じたのはマドリッドをベースに活動するミュージシャン、サティマ役はモントリオールに住む歌手のトゥールー・キキ、娘役は難民キャンプで会った12歳の少女と、主要なキャストはすべて素人ですが、逆に日常感が醸し出される効果的な演出となっています。一方、運転できないジハーディスト、踊るジハーディスト、魚売りの女性、気の触れた女性にはプロの俳優が起用されています。フランス軍が解放した後も自爆テロが起こるなど、ティンブクトゥが安全ではなかった為、撮影はモーリタニア国内で行われています。 因みに、宗教法であるシャリーアで人を裁くというのは日本の感覚では信じがたいのですが、大雑把に言ってアフガニスタン、イラク、パレスチナ、マレーシア、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、エジプト、インドネシア、ヨルダンといった国々では、シャリーアへの志向が強いようです。また、異教徒でもシャーリアに準じて罰せられる国がありますので、イスラム圏を訪問する場合は、事前に調べておいた方が良いでしょう。 過激派の支配に屈しない心 冒頭、過激派組織の旗を立てたピックアップ・トラックから、ジハーディストたちが機関銃を撃ちながらガゼルを追い詰めるシーンがあります。彼らはガゼルを殺さずに疲れさせようとしますが、これはシャリーアを盾に人々を追い詰め、恐怖で支配しようとする彼らの姿を暗示するかのようです。本作には、日本人も犠牲になった2016年のダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件のような襲撃シーンもなければ、斬首による残酷な処刑シーンもありません。シャリーアに基づくムチ打ちや石打の刑のマイルドな描写はありますが、むしろ身近なエピソードを積み上げた本作が醸し出すのは、
2015年のセザール賞で本作が最優秀作品賞、監督賞、脚本賞など7部門を受賞する快挙を成し遂げたのは、イスラム過激派がパリの風刺週刊紙出版社シャルリー・エブドを襲撃し、12人を殺害した事件のわずか一ヶ月半後でした。この事件の後、銃撃された新聞社の前には献花・献火する人々が相次ぎ、フランス各地で数万人規模の追悼集会が行われるなど、大きな追悼のうねり中で、「Je suis Charlie」 (私はシャルリー)というスローガンが一気に広まりました。これは犠牲者への連帯、表現の自由の支持、武力行為への静かな抵抗を意味し、人々の共感を一気に得たものでが、イスラム過激派の支配下で歌や球技が禁止されても、
イスラム神秘主義の聖職者と過激派の問答 本作のもうひとつの見どころは、信心深く、高潔で誠実なイスラム神秘主義の礼拝指導者と、この街を占領しにやってきた過激派のジハーディスト達の問答です。彼らの
イブラヒム・アメド・アカ・ピノ(キダーン) イブラヒム・アメド・アカ・ピノは、マドリッドをベースに活動するミュージシャン。キダーンはトゥアレグ族だが、トゥアレグ族出身のプロの俳優が見つからなかった為、演技は素人の彼が起用されたが、逆に素人っぽさが日常感を醸し出している。 トゥルゥ・キキ(サティマ)トゥルゥ・キキは、モントリオールに住む歌手。サティマはトゥアレグ族だが、トゥアレグ族出身のプロの女優が見つからなかった為、演技は素人の彼が起用されたが、逆に素人っぽさが日常感を醸し出している。 アベル・ジャフリ(アブデルグリム) アベル・ジャフリ(1965年〜) は、チュニジア出身のフランスの俳優。「とまどい」(1996年)などに出演している。 ファトウマタ・ディアワラ(ファトウ) ファトウマタ・ディアワラは、マリ共和国出身の歌手、作詞作曲家。現在はフランスに住む。本作の他にも「Mali Blues」(2016年)などの映画に出演している。 ケトゥリ・ノエル(ザブー) ケトゥリ・ノエルはハイチ出身の振付師。マリ共和国のバマコに、15年以上住んでおり、ダンス教室を開いている。 アデル・マフムード・シャリーフ(イスラム神秘主義の礼拝指導者) 【動画クリップ(YouTube)】
【関連作品】 イスラム世界を描いた映画のDVD(楽天市場) 「マルコムX」(1992年) 「ビフォア・ザ・レイン」(1994年) 「運動靴と赤い金魚」(1997年) 「少女の髪どめ」(2001年) 「アフガン零年」(2003年) 「パラダイス・ナウ 」(2005年) 「ペルセポリス」(2007年) 「灼熱の魂」(2010年) 「壊された5つのカメラ パレスチナ・ビリンの叫び」(2011年) 「別離」(2011年) 「少女は自転車に乗って」(2012年) 「オマールの壁」(2013年) 「歌声にのった少年」(2015年) 「裸足の季節」(2015年) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018年05月26日 09時05分14秒
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