ジャズダンス初舞台
10月1日にジャズダンスの初舞台があった。初めての舞台だった。胃が痛くなったけど、終わった後、おもしろかった~と感じることができた。なによりもいちばん恐れていた振りを間違えて頭が真っ白、いわゆるパニック、stage fright状態にならなかったのは、孤独な自己練の成果だと自負しよう!!踊っている間は、自分で言うのもなんだが結構冷静で、後ろから「もっと中!」「戻れ!」と隊形移動の後の立ち位置を教えてくれる先輩ダンサーの声がはっきり聞こえて、ちゃんと体がそっちへ動いた。まぶしくて客席は見えなかったけど、下は向かなかった。ライトに照らし出される自分の姿もしっかり確認できた。すごいぞ、自分!(ちなみに本番のリハーサルはなく、一発勝負だった)今でも舞台の上での一瞬一瞬を結構クリアに覚えている。 私はたった1曲踊るだけだけど、それでも振り入れの時期は人目も構わず、電車を待つ駅構内だろうが路上だろうが、娘の三者面談の順番を待つ中学校の廊下だろうが、仕事先の英語教室だろうが、外国人講師との待ち合わせ場所だろうが、場所と時間が許す限り音楽を耳に振りを体に覚えこませる努力をした。あまりに踊りに夢中で到着した外国人講師にまったく気付かなかった私に彼はあきれていたっけ。ふん、乗りの悪いヤツ。一緒に舞台に立つ仲間は、ダンス歴10年以上だったり(テレビに出て歌手の後ろで踊ってる人もいる)、ダンスのインストラクターさんだったり、とにかくツワモノぞろいだ。この年になってダンスをイチから始めましたというまったくズブの素人の私が彼らと踊ってそれ相応に見劣りしないように本番をこなすには、周りの“奇異な目”など構っている余裕はなかった。じろじろ見られて恥ずかしいとか思っている余裕はまったくなかった。『無我夢中』という言葉は、この時期の私のためにある言葉だった。会員になっているスポーツクラブでも、スタジオのプログラムがない時間を見計らい出向いては鏡の前で踊っていた。あまりにストイックに映ったのか、エアロビのインストさんから「ダンスを教えられているんですか?」と訊かれたこともある。いや、いや、教わってるんです。9月の半ばに風邪を引き、大事な振り入れの最中に2週間ほど練習にいけない時期もあった。自分がいちばんできないのに、こんな大事なときに練習にいけないなんて……。正直すごく焦った。ああ、どうしよう、どうしよう!でも私はひとりじゃなかった。先生がいた。一緒に踊る先輩ダンサーたちがいた。「大丈夫。ここまでできてるんだから途中の振りいれはまだ間に合うよ。今の風邪は長引くから、今はしっかり休みなさい。そして元気になって戻ってきなさい」先生の言葉に、ありがたくて涙があふれた。先輩たちの言葉に勇気付けられた。なんとか仕事だけは休まず風邪を治し、練習に復帰したのが本番3週間前。みんなとの練習は多くてもあと6回。このころから衣装を着ての練習になった。衣装を着ると踊るときにものすごくナーバスになる。ジャンプしてから180度開脚で低い位置まで体を落とし、片足を抜いて横になってのロンデジャンから1回転しながら立つというところで(回転は私だけどの回転も1回転で許されていた。だってピルエットで2回転、3回転なんてできないんだもん)、初めのころは衣装の裾を踏んづけたり絡めたりしないか、そのことばかり意識がいってしまった。当然、みんなより踊りが遅れてしまう。ああ、ヤバイ。いちばんヤバかったのは途中に入るヒップホップジャズのような振りだった。わずか2エイト分しかないのだが、この際、長さなんて関係ない。まったく体が動かないし、リズムが取れない。いったいどうなってるの? なんでみんな、あんなふうに体が動くの?このときは正直泣きたくなった。でも、「心配してる暇があったら、ひたすら練習だろ」というダーリンの言葉に励まされた。「マミー、がんばれ~。応援しに行くからね」という娘と息子に元気をもらった。そうだ、私ったらなに気取ってるんだろう。私はもともと踊れないんだ。今できなくたって誰も責めない。それより次の練習のときに分からないところを訊いて、とにかく練習しよう! できる限りのことをして体が動けばいいじゃないか!こうして、とにかく時間を見つけては踊り続けた。これだけやったんだという自負がどこかにあったんだと思う。本番当日、気持ちは高ぶっていたが、反面、どこか心が凪いでいた。ここまで来て今まで以上の出来で踊ろうなんて土台無理な話。今までと同じように踊れればいいじゃん。右と左を間違えて動かないように(左右対称の振りが多かった)、反対に足を出さないように、ポイントごとにきめて、できるだけ全体の空気を感じながら踊ろう!音楽を感じて、そう、楽しもう!! 歌いながら踊ろう! ――こうして出番になった。舞台の上での3分弱、前述したように冷静で、結構楽しかった。でもやっぱり緊張してたんだなあ。フィナーレで手を振る場面になって、安心したのか急に横腹が痛くなってきた。その日の夜と翌日は胃がきりきり痛かった。でも、やり遂げたという安堵感がなによりも心地よかった。すごく幸せな気分だった。終わってから楽屋でメイクを落として着替えてるとき、先生と目が合って嬉しそうに微笑んでくれたのが、なによりだった。先生、きっと心配してくれてたんだろうなあ。そんな先生からのメッセージカード。「ピンクさん!おつかれさまでした!! 体中からカウントがこぼれ落ちそうでしたが、良く踊れてましたよ努力したものネ慣れないはじめてのことばかりでしたが、舞台までの段取りが覚えられたから次回はもっと楽しめますよ」先生、ありがとう。先生にそう言ってもらえるのが、いちばん嬉しいです。来年はもっと上手になって踊りたいなあ。だから明日からまた練習するのだ~。