その他もろもろ ~雑誌『NHK短歌』2007年9月号より
雑誌『NHK短歌』2007年9月号から、私の注目したその他もろもろの歌にコメント。まっ白い腕が空からのびてくる 抜かれゆく脳髄のけさの快感加藤克巳(かつみ)『螺旋階段』 朝の頭のスッキリした気分を、「まっ白い腕が空からのびて脳髄が抜かれていく」と形容した歌だが、これは昭和十二年刊の処女歌集の作品だそうで、まだ古びていないのがすごい。幾本もの管につながりしろじろと繭ごもる妻よ 羽化するか、せよ。桑原正紀(まさ き )『妻へ。千年待たむ』 五十代半ばの若さで脳内出血に倒れた妻。検査機器や点滴の管などにつながれて集中治療室に横たわる、発病直後の緊迫した状況。「せよ。」という命令形がすごくいい。強い語調と裏腹に、回復をひたすら願う切ない祈りにも似た強い思いが背後から伝わってくる。ことごとく金出(きんいだ)すべし 亡き夫のかたみと残る眼鏡もペンも伊東かう『アララギ』 昭和十六年には金属類回収令が出され、全てを軍需物資にするために供出させた。この歌には私物が具体的に例示されているので、本人の個人的な気持ちが十分に反映されている。これで戦争に勝っていればまだしも、負けてしまったので結果は残酷である。国家が一か八かの賭に負けて、国民全体が全てを失ってしまった。ほろびたる言語を恋えば霧多布の岬をたちまち濃霧が閉ざす久々湊 盈子( く く みなとえい こ )『あらばしり』 ほろびたる言語とはアイヌ語のこと。もはや見つけられないことを濃い霧に喩えており、もどかしさや哀しさをうまく表現している。母ひとりいなくなりたる空間に臆病風の吹きつのりくる沖ななも『三つ栗』 母だから……という要素もあるかもしれない。母は何となく守ってくれそうな感じのする存在である。少なくともイメージの中では。早生(はやなり)の津軽のりんごかたく酸(すゆ)し噛みて亡き吾娘(あこ)のごとしと思ふ五島 茂「夏りんご」『気象』 (一九六〇年)吾娘の世界に立入れぬまま逝かしめぬ 火葬場の口の見えくる夜あり五島 茂「夏りんご」『気象』 (一九六〇年)大野道夫の解説: この「夏りんご」には「七月二十二日より二十九日まで弘前大学文理学部に集中講義に赴く。ひとみを喪ひてより満半年なり。」という詞書があり、娘を亡くしてまだ半年の悲痛な心情が背景にある。 一首目は、弘前で〈早生の津軽のりんご〉を噛んで〈亡き吾娘〉を思い出している。その死は思想と恋愛について悩んだ末の自死だと伝えられている。そのような背景で読むと、〈かたく酸し〉が一首のなかでさらに生き生きと伝わってきて、「夏りんご」のなかでも白眉といえる。 娘の心の世界の外側に立ったまま、ただ傍観しているしかない父。なんとコメントしていいやら、言葉が見つからない・・・。(u_u;《『NHK短歌』のホームページ》人気blogランキング↑この記事が面白かった方、またはこのブログを応援してくれる方は、是非こちらをクリックしてください。「p(^o^) 和の空間」の Window Shopping<日本人なら“和”にこだわりたい> 《「天皇はどこから来たか?」連載中》 私の第2ブログ「時事評論@和の空間」と第3ブログ「浮世[天(あめ)]風呂 @和の空間」もよろしく。ついでにこれも→(笑)無料メルマガ『皇位継承Q&A』登録はこちらから 目次 ブログ散策:天皇制の危機 も合わせて御覧ください。