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悠久の海 ブログ

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2008/11/16
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カテゴリ:オリジナル小説
「最後の涙雨 -下-」

夢のような出会いだった。
あれほど美しい人と話すことができるのが幸せだった。
クレイは雨が降るたびあの湖へ向かう。
時々笑いかけてくれるようになった彼女が嬉しかった。
三人だけの秘密の出会い。
しかし、やがてホミンは湖へ行くのを止める。
クレイはその理由は気にならなかった。
湖では二人だけの時間が流れた。

やがて少年は大人へと成長する。
水の精はその姿を変えることなく、彼を迎えた。

「あら、雨が降ってきた!」
もうすぐ夜になろうかという時、友達の声にホミンは空を見上げた。
あの人が泣いているのね。
「どうしたの?濡れるよ、ほらこっち。」
ミーネに腕を引っ張られ、木陰で雨宿りをする。
「まーたクレイはどっか行ってるんだろうなー、時間があれば雨の時はいっつもどっか行くんだから」
「うん、そうだね。」
さすがに働き出した今は昔ほどではないが、きっとクレイはランダのところへ行っている。
慰めを必要としない水の精の元に。
何年経っても変わらないあの美しさ、成長していく自分との差に、ホミンはランダの所へ行くのを止めた。
本当は二人っきりにしたくない気持ちもあったが、いたたまれなさが勝ってしまった。
自分は完璧に負けたのだ。
「ちょっと、どうしたのよ暗い顔してさ。」
ミーネが顔を覗き込んで来る。
「そお?そんな事ないよ。」
にっこりと笑ってみせる。笑顔には自信があった。
感情豊かになる事、それくらいしか対抗手段がなかったから。
「雨止みそうにないね、私の家の方が近いからそこまで走ろうか?」
二人は子供っぽい歓声をあげながらミーナの家へと走った。

「ほらタオル。」
ひっ詰めて上げていた髪を解き、タオルを受け取る。
「私さ、ずっと思ってたんだけど、髪下ろしたほうが可愛いよ。これから降ろしたら?」
「えー、あんまり降ろすの好きじゃないからいいよ。」
本当は降ろしたかった。髪を伸ばし始めたのはあの人のようになりたかったから。
結局似ても似つかない自分が惨めで、降ろす事はしなくなったが、短くしないところに未練がある。
髪を拭く前に、髪を止めていたバレッタを丁寧に拭った。
「それ、クレイに貰ったって言ってたやつ?」
無意識の行動だったので、見せ付けるような行動に反省する。
「え、うん。せっかく貰ったから……。」
貰ったから、の後の言葉が続かない。
そう、クレイはいつも私に気を使ってくれる。
誕生日にはいつも何かくれるし、村の祭りではいつも私を誘ってくれる。
だから分からなくなる。
そこかしこにある未練を捨てきれない。
雨は止んでいた。

闇が包む道を家へと向かう。
「ホミン?」
振り向くまでもない、クレイの声だった。
「今日も、行ってきたの?」
知らず知らず声に棘が混じる。
「ランダのところ?そうだよ。」
何の悪気もない声、それを求めるのは分かっているけど表情が暗くなる。
何を勘違いしてか。
「ひょっとして冷えた?ちょっと待ってて。」
違うと言う前に、露天へ走っていく。戻ってきたその手には温かいスープがあった。
「はい。」
そう、この優しさがあるからクレイを諦めきれないんだ。
「ありがとう。」
心からの笑顔を浮かべた。すぐさまスープに目を落としたので、ホミンはクレイの照れた顔を見逃した。
「今帰りだろ?暗いし送ってくよ。」
クレイはそっとホミンの背に手を回した。

その背中に感じた手に押され、ホミンの中でもう一度勇気が芽生えた。

自分の役目に対し、使命感はあるが、その他の感情を抱いたことはなかった。
今はこの涙を流す度ある期待が生まれる。かといって、常に雨を降らせるわけにはいかない、世界のバランスがある。
だから雨を降らせるたびに来て欲しかった。大人になって役目があっても。

今日は来るだろうか?
前回も、その前もクレイは姿を現さなかった。
湖に写る無表情の自分の顔を見る。
クレイは私の表情が変わるようになったと言う。
私が笑うとクレイも喜ぶ。
もっと笑えるようになるのはどうしたらいいんだろうか?
クレイはホミンのように笑えたらといつも言う、どうしたらあの子を超えられるのだろうか?

「ランダ。」
ああ、来た。
「クレイ、待っていた。」
「ごめん、最近は仕事が忙しくて。」
「それは分かっている、でも待っていた。」
率直な言葉にクレイは苦笑した。表情の変わりに語彙が豊かになってきたような気がする。
ランダを変えたのが自分だと思うと、彼の中に何ともいえない満足感が満ちてきた。
「そっか、なるべく時間がある時は来るよ。」
その言葉が嬉しかった、嬉しかったのに満面の笑みを浮かべられない。
何故自分は水に生まれたのか、表情豊かな風に生まれたかった。
自分に笑いかけるクレイの表情が愛しくて、躊躇うことなく手を伸ばした。

自分は醜い人間だと思った。
だって、人と水の精でしょう?いつかはその関係が壊れる日が来る。
そんな事を考える自分が嫌だった。
その日を待って、何も行動せず、負けたと逃げている自分は卑怯だ。
だから、あの手のぬくもりを支えにして、もう一度向き合ってみたい。
あの人の前に立って、逃げ出さない自分でありたい。
逃げたくない逃げたくない逃げたくない。
森の中を、私はまとめ上げてる髪を解きながら駆け抜けた。
大丈夫、大丈夫大丈夫。
そして、私は何年ぶりかにランダとクレイを見た。

「ホ……ミン?」
最初に気づいたのはランダだった。
ホミンはすぐさま後悔した。何故大丈夫と思ったんだろう?寄り添う二人を見なかったら、希望だけは持っていられたのに。
「え?ホミン。珍しいな、ここに来るなんて。」
クレイは相変わらずの口調で言う。きっとクレイにとっては何でもない事なんだ。
悔しかった、自分が惨めで惨めで、涙が出てきた。
きっとくしゃくしゃにゆがんでいるはずだ。
よりによって、あんなに美しい涙を流す人の前で泣くなんて。
「ホミン、どうしたんだ?」
クレイがあわてて声をかける。
「……って。」
「え?」
「私だって側にいたのに。ずっとずっとクレイの側にいたのに!!」
なんて醜いことを言ったんだろう。
ホミンはいたたまれなくなって、今来た道を駆け出した。
「ホミン、ちょっと待っ……。」
クレイは激しく動揺した。
ランダは始めて見るクレイの様子に驚いた。それは自分の前でいつも微笑みかけてくれる彼ではなかった。
「クレイ……?」
泣かせてしまった。自分のせいだ。ランダの声すら耳に入らなかった。
クレイは気づいていた。
湖にいない、普通に生活する時間、それはホミンとの時間だった。
いつもまとめている髪を下ろしてここに来たホミン。
クレイは駆け出した。
「クレイ!」
走り去るクレイを呆然とランダは見送った。
分からない、いや、自分に声をかけてきてくれた時も、私が涙を流していた時だった。
だからホミンを追いかけたのだろうか?
「ランダ、それは違うよ。
……おいで。」
気づくと側にニューザがいた。
「どこへ。」
「いいから。」
彼に連れられ、湖を離れる。初めてのことだった。
ミューザが目指したのは森の途中で抱き合うクレイとホミン。
幸せそうに涙を流すホミンの何と美しいことか。
自分の乾いた涙とは大違いだ。
ランダの瞳に自然と涙が浮かぶ。
「ランダ、それが泣くという事だよ。」
両手で顔を覆って泣くランダを軽く抱き寄せる。
その涙に誘われて雨が落ちてくる。
「あの少年がお前に教えてくれたんだ。
 ……本当は俺がその役目を負いたかったんだがな。」
ハッとランダは顔を上げる。
今のランダにはその意味が理解できた。
「さあ、それ以上の涙を流すならこの地を離れないと。」
そうしなければ、感情で流す涙で雨が溢れてしまう。
ミューザは自分の指を軽く噛み切り、一滴、地面に血を落とした。
その瞬間大地に癒しの波が走る。
ただ土に触れるだけで大地に恵みをもたらす土の精、大地に染み込む血を落とすことにより、永きに渡る恵みがもたらされる。
水の精が去る事による害を、少しでも埋めることが出来るだろう。
「ランダ、俺と行こう。」
ミューザがそっとランダに手を伸ばす。
「……はい。」
その手をしばらく見つめ、ランダはゆっくりと微笑んでその手を取った。

今、ランダの瞳に流れる涙、それがこの地に流れる

最後の涙雨

-完-

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Last updated  2008/11/16 11:30:58 AM
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