テーマ:ねぇ?マスター(348)
カテゴリ:BAR
ウイスキーに氷はつきもの。オン・ザ・ロックや水割りも、氷一つで味がかなり変わる。
だから、いいBAR(バーテンダー)は氷にこだわる。 最近は、コンビニでもボール状の氷や、板状の氷も比較的簡単に手に入るようになったが、 やはり、プロがこつこつと削ってくれた氷で飲むウイスキーの方が、断然旨い。 氷と言えば、やはりいまは無き神戸のBAR「ルル」のマスター長原さんの 「氷切り」のパフォーマンスを思い出す。客の目の前で、縦横が30cm×50cmくらい、 厚みが20cmくらいの大きな氷を、包丁で切れ目を入れ、均等にどんどん割っていく。 最終的にはタンブラーやロックグラス1個にちょうどおさまるくらいの氷に仕上げる。 その手つきの鮮やかさと言ったら、絶品の技だった。 あの氷切りのショーが見たくて、「ルル」に通う常連客も多かった。 氷一つとっても、そのBARの個性が出るから面白い。オン・ザ・ロックの氷も、 あるBARは、アイスピックで削ってボール状にした氷を使う。 別のBARでは、四角い大きなサイコロ状の氷を使う。あるいは、 不均等な大きさのブロック状の氷を、何個か入れるBARもある。 形はともあれ、ウイスキーを注いだ瞬間に起こる、 あのシャキーンという氷に亀裂が入る音は、なんとも言えないくらいいい音だ。 アイスピックで丸くボール状に仕上げるのは、修業中の若いバーテンダーにとっては必須科目。 何個も何個も作り上げていくのは、手が冷たくなって大変だろうが、 僕はいつも、心の中で「頑張れー!」と応援している。 水割りやジン・リッキーなどのときの氷は、やはりタンブラーの内径ぎりぎりの、 直方体のものがいい。「氷が大きい分、酒が減るんじゃないか」と昔は思っていたが、 あるバーテンダーが「量は同じですよ、ほらっ」とメジャーできちんと 計って見せてくれて、大きな誤解であることがわかった。 氷も、ある地域の水で凍らせた氷でと、とことんこだわるBARもある。 「阿蘇の伏流水で作った氷なんです」と言われると、確かに、 同じ水割りでも、なんとなく美味しいような気分になる。 ただ、申し訳ないけれど、僕自身のなかでの最高のオン・ザ・ロックの氷は、 プロがつくった氷ではなかった。徳島のBARでのこと。マスターが、 冷凍庫の保冷箱から大事そうに取り出した四角い氷を、グラスに入れ、ウイスキーを注いだ。 そして、「**さん、氷に耳を近づけてごらん、面白いから」と言う。 僕は、ウイスキーに浮かぶ氷にそっと耳を寄せた。するとどうだろう! 聞こえる! シンセザイザーの電子音楽のような美しい調べが…! 何なんだこの氷は? その氷は、南極大陸の地下深くから切り出されたもの。そのBARの常連さんに、 観測船「しらせ」の関係者がいた。その方が徳島・小松島港に寄港した際、店に寄って、 マスターに「これ、お土産」と持ってきてくれたのだという。 (南極の氷を、日本国内に持ち込んでいいのかな?)。 氷から聞こえた音は、長い間、氷の中に閉じこめられていた大気が、 眠りから覚め、はじける神秘的な音…。その日、僕も含めた幸運な客は、 その何千年(何万年?)かの眠りについていた貴重な氷で、ウイスキーをしみじみ味わった。 プロの氷屋さんも、最高のバーテンダーも、南極の氷にはちょっと降参だろう。 そんな至福の瞬間もただし、氷が溶けるまでの約1時間くらいで終わってしまった。 あーっ、残念!(と波田陽区風に…)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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