◆プロなら知っておきたい「知られざるカクテル」<下>
※原則、年代順に紹介しています。レシピは標準的なものです。★印は近年においても欧米のバー・シーンでは頻繁に登場する、とくに重要なカクテルです。
★エスプレッソ・マティーニ(Espresso Martini) (1983年、考案者=ディック・ブラッドセル<Dick Bradsell>)
ウオッカ40ml、エスプレッソ・コーヒー20ml、コーヒー・リキュール10ml、シロップ1tsp。シェイクしてカクテルグラスに注いだ後、表面にコーヒー豆2~3粒を浮かべる
※1983年、当時ロンドン「ソーホー・ブラッセリ―(Soho Brasserie)」に勤めていたディック・ブラッドセル氏(1959~2016)が考案した。当初は、裏メニューとして「ウオッカ・エスプレッソ」の名前で提供されていたが、90年代末、ブラッドセル氏が移籍した「マッチ(Match)」というバーで初めて「エスプレッソ・マティーニ」の名でオン・メニューとなり、幅広く知られるようになった。その後米国の大都市のバーにも伝わり人気が定着した。近年、欧米の人気カクテル・ランキングでは常に上位にランクされている。
ブラッドセル氏は、1980~90年代に活躍し、数多くの「モダン・クラシック」カクテルを遺したことで知られる。
ロシアン・スプリング・パンチ(Russian Spring Punch) (1986~87年頃、考案者=ディック・ブラッドセル)
ウオッカ45ml、クレーム・ド・フランボワーズ7.5ml、カシス・リキュール7.5ml、レモンジュース23ml、シロップ7.5ml、生ラズベリー6~7個。シェイクした後、氷を入れたタンブラーに注ぎ、シャンパンで満たす
※ディック・ブラッドセル氏(上記45の説明ご参考)が、1986~87年頃、当時バーテンダーとして働いていたロンドンの「ザンジバー(Zanzibar)」で友人のために考案したと伝わる。
★トミーズ・マルガリータ(Tommy’s Margarita) (1987~88年頃、考案者=フリオ・ベルメイヨ<Julio Bermejp>)
テキーラ40ml、アガヴェ・ネクター(シロップ)15ml、ライム・ジュース15ml(シェイク)、塩でスノースタイルしたロック・グラスに注ぐ
※サンフランシスコのメキシカン・レストラン「トミーズ(Tommy's)」のオーナーで、“テキーラ・マスター”の異名を持つフリオ・ベルメイヨが、1987~88年頃考案したと伝わる。「マルガリータ(Margarita)」のバリエーションだが、マルガリータがホワイト・キュラソー(コアントロー、トリプルセック)を使うのに対して、このカクテルではアガベ・ネクターを使う。ロック・スタイルで味わうことも多いが、ショート・カクテルでも提供される。「アガベ・ネクター」はアガベ・シロップとも呼ばれる
フレンチ・マティーニ(French Martini) (1980後半~90年代前半、考案者は不詳、ディック・ブラッドセル考案説も)
ウオッカ60ml、ラズベリー・リキュール15ml、パイナップルジュース45ml(シェイク)
※ロンドンもしくはニューヨーク発祥。1997年の「Class Magazine」誌によれば、Chambord社のキャンペーンのために考案されたという(「Keith London」発祥説も)。
セレンディピティ(Serendipity) (1994年、考案者=コリン・ピーター・フィールド<Colin Peter Field>)
カルバドス45ml、アップル・ジュース45ml、シュガー・シロップ7.5ml、生ミントの葉5~6枚、シェイクした後、氷を入れたタンブラーに入れ、シャンパンで満たす
※パリのリッツホテル(The Ritz Hotel)内「ヘミングウェイ・バー(Hemingway Bar)」のチーフ・バーテンダー、コリン・ピーター・フィールド氏(1961~)が、常連客のためにオリジナル・カクテルをつくったところ、予想を超える美味しさに感激したその客が「Serendipity!」(直接の意味は「素敵な偶然に出会うこと」)と叫んだことから、その言葉がそのままカクテル名になったという。
★ジン・ジン・ミュール(Gin Gin Mule) (2000年、考案者=オードリー・サンダース<Audray Sannders>)
ジン(タンカレー)50ml、ジンジャー・ビア30ml、ライムジュース20ml、シロップ15ml(シェイク)、フレッシュミントの小枝=飾り
※ウオッカ・ベースの「モスコー・ミュール」のジン・バージョン。サンダース氏は当時ニューヨークの「Beacon Bar」のバーテンダー。オリジナルレシピではホームメイドのジンジャービアが使われているが、通常の缶入りジンジャービアでも構わない。このカクテルは、後にサンダース氏が独立・創業したバー「ペグー・クラブ(Pegu Club)」の看板カクテルにもなった
★ポーン・スター・マティーニ(Porn Star Martini) (2002年、考案者=ダグラス・アンクラーー<Douglas Ankrah>)
ウオッカ40ml、パッションフルーツ・リキュール15ml、ライムジュース20ml、ヴァニラ・シロップ15ml、パッションフルーツ・ピューレ30ml(シェイク)※小ぶりのタンブラーに入れたシャンパンを別にサーブ
※アンクラー氏は当時ロンドン・ナイトブリッジ「タウンハウス・バー」のバーテンダー。その奇抜な名前もあって、英国内のカクテル・バーで人気を集めるようになり、現在では「モダン・クラシック」の一つとして定着している。ちなみに、2019年には英国内最も飲まれたカクテルだったという。
アンクラー氏がなぜこんな名前(Porn Star=ポルノスター)を付けたのかはよく分からないが、生前(同氏は2021年に死去)のインタビューで「だって、パーティーのスターターとしては、とてもセクシーで、楽しい、気取らない究極のドリンクだろう?」と語っていたと伝わる。
リボルバー(Revolver) (2004年、考案者=ヤン・サンター<Jon Santer>)
バーボン(銘柄は「Bulleit」を指定)60ml、コーヒー・リキュール15ml、オレンジ・ビターズ2dash、オレンジ・ピール(シェイク)
※サンター氏は当時サンフランシスコ在住のバーテンダー。有名なカクテル「マンハッタン」のバリエーションとして考案したという。その後、ニューヨークの有名カクテルバーのメニューにも取り入れられ、幅広く普及するようになった。
「ブレイト(Bulleit)・バーボン」は1997年に復活したブランド。「リボルバー」とは回転式拳銃のことだが、ベースのバーボンの銘柄「Bulleit」と音の響きが似ている「ブレット(Bullet=銃弾)」からの連想で、この名を付けたのかどうかは、調べて限りでは分からなかった。
オールド・キューバン(Old Cuban) (2004年、考案者=オードリー・サンダース<Audrey Sanders>)
ラム45ml、ライムジュース23ml、シロップ15ml、ビターズ2dash、生ミント(シェイク)、シャンパンで満たす
※オードリー・サンダース氏は、米国の伝説的バーテンダーで著述家のデイル・デグロフ氏の弟子にあたる。サンダース氏自身も、現在ではニューヨークを中心に活躍する著名な女性バーテンダーで、数多くの「モダン・クラシック」を考案している。
スパイシー・フィフティ(Spicy Fifty) (2004~05年頃、考案者=サルバトーレ・カラブレース<Salvatore Calabrese>)
ヴァニラ・ウオッカ50ml、エルダーフラワー・コーディアル15ml、ライムジュース20ml、ハニー・ジンジャー・シロップ10ml(シェイク) ※あらかじめ底に唐辛子1個置いたグラスに注ぎ、最後にレッドホット・チリペッパーを少し振る。
※カラブレース氏は当時ロンドンのバー「フィフティ」のバーテンダー。
★ペニシリン(Penicillin) (2005年、考案者=サム・ロス<Sam Roth>)
ウイスキー60ml、レモンジュース15ml、ジンジャー・ハニーシロップ15ml、1tsp、アイラ・シングルモルト(できれば「ラフロイグ=Laphroaig」で)1.5tsp(シェイク)
※「ペニシリン」は2000年以降に誕生した「モダン・クラシック」の中でも、群を抜いて知名度を獲得し、人気カクテルとなった。ロス氏は、当時ニューヨーク・マンハッタンの人気カクテルバー「ミルク&ハニー(Milk & Honey)」のバーテンダー。現在はブルックリンでバー「ダイアモンド・リーフ(Diamond Reef)」を営み、フローズン・バージョンも提供しているという。
ジンジャー・ハニーシロップは、サントリー社のプレミアム・シロップ「和 tsunagi 生姜」で代用することも可能。
ペーパー・プレーン(Paper Plane) (2008年、考案者=サム・ロス)
バーボン、アペロール、ビタースイート、レモンジュースを各4分の1ずつ(シェイク)
※サム・ロス氏が2008年、「店のオリジナル・カクテルをつくってほしい」と依頼してきたシカゴの友人、トビー・マロニー氏(バー「ヴァイオレット・アワー(The Violet Hour)」オーナー)のために考案した。カクテル名は、英国の世界的ラッパーM.I.A.の曲名から名付けたという。ちなみに、当初はアペロールではなく、カンパリを使っていたが、その後「甘さと苦さのバランスがよくない」と感じたロス自身がアペロールに変えたという。
★メスカル・ミュール(Mescal Mule) (2008年、考案者=ジム・ミーハン<Jim Meehan>)
メスカル45ml、ジンジャー・ウォート【注参照】30ml、ライムジュース23ml、パッションフルーツ・ピュレ23ml、アガヴェ・シロップ15ml(シェイク)。飾り=キュウリのスライス3片、砂糖漬けの生姜
※ジム・ミーハン氏は当時ニューヨークの超人気バー「PDT(Please Don't Tell )」のオーナー・バーテンダー。「メスカル・ミュール」は数多くの「モダン・クラシック」を考案してきたミーハン氏の代表作の一つ。「ソンブラ・メスカル」の創業者のために捧げられたという。
ミーハン氏はクラシック・カクテルへの造詣が深いことでも知られ、彼が近年に出版した「PDTカクテルブック」と「バーテンダーズ・マニュアル」は「21世紀のサヴォイ・カクテルブック」とも称されている。現在はオレゴン州ポートランドのジャパニーズ・レストランバー「TAKIBI」で、バー部門の責任者として活躍している。
【注】ジンジャー・ウォートは、水、生姜のみじん切り、キビ砂糖、ライムジュースを煮詰めて漉し、つくる。難しければジンジャー・ビアで代用することも可。
トリニダード・サワー(Trinidard Sour) (2009年、考案者=ジョセッペ・ゴンザレス<Giuseppe Gonzalez>)
アンゴスチュラ・ビターズ30ml、オルゲート・シロップ20ml、レモンジュース15ml、ライ・ウイスキー10ml(シェイク)、「サワー」と言う名が付くがカクテルグラスで提供されるのが普通
※カクテルでは普通は数滴しか使わないビターズをこんなに多く使ったら、とんでもないカクテルになりそうだが、予想は裏切られ、甘酸っぱさと苦さと複雑な香りが”同居”する不思議な味わいに変身する。現在ではIBA公認カクテルにも認定されている。ゴンザレス氏は当時ニューヨーク・ブルックリンの「クローバークラブ・バー」のバーテンダー
(なお、オリジナル・レシピではビターズは「45ml」も使うが、それは150~200mlも入りそうな容量の大ぶりのカクテルグラスで提供することの多い欧米での話。総量70ml前後で提供することの多い日本のバーでは冒頭の分量比で適切と信じる)。
ネイキド&フェイマス(Naked & Famous) (2011年、考案者=ホアキン・シモ<Joaquin Simo>)
メスカル、ビタースイート・オレンジレッド・アペリティーボ、イエロー・シャルトリューズ、ライムジュース各4分の1ずつ(シェイク)
※シモ氏はニューヨークのバー「Death and Co」のバーテンダー。ビタースイート・オレンジレッド・アペリティーボはアペロールで代用できる。
Ve. n. to(ヴェネト) (2021年、考案者=サムネーレ・アンブローシ<Samnele Ambrosi>)
グラッパ45ml、レモンジュース23ml、ハニー・ミックス15ml、カモミール・コーディアル15ml、卵白(シェイク)
※カクテル名はイタリアの「ヴェネト(Veneto)州」に由来。アンブローシ氏は「Riva Bar」(所在地不詳)勤務のバーテンダー。同氏曰く「グラッパをベースにした過去にもない、初めてのカクテル」。
【以下のカクテルについては、まだ情報は不足していますが、近年、欧米のバーの現場ではしばしば目にするものです。詳しいい情報を入手でき次第、改めて追記いたしますのでご了承ください】
イリーガル(Illegal) (2000年代、考案者は不詳)
メスカル30ml、ホワイト・ラム15ml、ファレナム(【注】ご参照)15ml、マラスキーノ1tsp、ライムジュース20ml、シロップ10ml(シェイク)
※【注】「ファレナム」はライム、ジンジャー、アーモンド・リキュールでできたトロピカル・シロップ。オルゲート・シロップで代用できる。
イエロー・スコーピオン(Yellow Scopion) (2000年以降、考案者は不詳)
ウオッカ45ml、パイナップルジュース45ml、ライムジュース0.5tsp、シロップ0.5tsp、アニスシード1tsp(シェイク)
ホアン・コリンズ(Juan Collins)(2000年以降、考案者は不詳)
テキーラ45ml、レモンジュース30ml、アガヴェ・シロップ15ml、シェイクしてソーダで満たす。レモン・スライス=飾り
ブレイブ・ブル(Brave Bull) (2000年以降、考案者は不詳)
テキーラ40ml、カルーア20ml、氷、ロック・スタイルで(ビルド)
エンヴィ・カクテル(Envy Cocktail) (2000年以降、考案者は不詳)
テキーラ45ml、ブルー・キュラソー30ml、パイナップルジュース15ml(シェイク)、マラスキーノ・チェリー=飾り
ブラッディ・マリア(Bloody Maria) (2000年以降、考案者は不詳)
テキーラ60ml、トマト・ジュース120~180ml、スパイス類(シェイク)、レモン・スライス=飾り※レシピから分かるように、ブラッディ・メアリーのテキーラ版。
【謝意】この回の執筆にあたっては、Robert Simonson氏の著書「Modern Classic Cocktail」(2022年刊)から多くの参考情報を得ることができました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
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Last updated
2023/05/16 12:16:02 PM
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うらんかんろ
大阪・北新地のオーセンティック・バー「Bar UK」の公式HPです。お酒&カクテル、Bar、そして洋楽(JazzやRock)とピアノ演奏が大好きなマスターのBlogも兼ねて、様々な情報を発信しています。
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▼Bar UKでも愛用のBIRDYのグラスタオル。二度拭き不要でピカピカになる優れものです。値段は少々高めですが、値段に見合う価値有りです(Lサイズもありますが、ご家庭ではこのMサイズが使いやすいでしょう)。▼切り絵作家・成田一徹氏にとって「バー空間」と並び終生のテーマだったのは「故郷・神戸」。これはその集大成と言える本です(続編「新・神戸の残り香」もぜひ!)。▼コロナ禍の家飲みには、Bar UKのハウス・ウイスキーでもあるDewar's White Labelはいかが?ハイボールに最も相性が良いウイスキーですよ。▼ワンランク上の家飲みはいかが? Bar UKのおすすめは、”アイラの女王”ボウモア(Bowmore)です。バランスの良さに定評がある、スモーキーなモルト。ぜひストレートかロックでゆっくりと味わってみてください。クールダウンのチェイサー(水)もお忘れなく…。
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