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カテゴリ:映画・TV
さきほどまでTVで映画『ジュリー&ジュリア』を観ていた。2009年のアメリカ作品、監督・ノーラ・エフロン、主演・メリル・ストリープ、エイミー・アダムス。
実在した料理家ジュリア・チャイルドと、これまた実在の料理人ジュリー・パウエルの物語。原作はジュリー・パウエルの著、『ジュリー&ジュリア』である。 ご覧になった方も多かろうが、・・・1949年のこと、アメリカの外交官夫人ジュリア・チャイルドは、夫の任地パリで洗練されたフランス料理の神髄に出会い、元来食べることが唯一の趣味と言う彼女は、玉葱も満足に刻めないのに、コルドン.ブルーのプロの料理人養成コースに飛び込む。夫に励まされながら次第にフランス料理を極め、ついには『王道のフランス料理』というレシピ本を書き上げる。 一方(この映画の構成のおもしろいところは、この「一方」が、パリのジュリアの時代から半世紀後、例の9.11アタック後のニューヨークの物語)、ニューヨーク市の苦情電話応対係のジュリー・パウエルは人生の目的を見失い、夫の勧めで子供のころから熱烈に憧れていたジュリア・チャイルドのレシピ本を365日間で再現し、ブログにすることを思い立つ。 こうして映画は、二人の女主人公が時代を隔てて一度もまじわることなく、それぞれの人生を交互に展開してゆくのだが、・・・脚本の巧みさで、二つの物語に分裂を感じることなく、私は笑いながら料理映画の幸福感にひたった。 ついでに私のお気に入りの料理映画を思い出すままに少しばかり。 「最後の晩餐」(1973, フランス) 監督・マルコ・フェレーリ、主演・マルチェロ・マストロヤンニ、ウーゴー・トニヤッティ、ミシェル・ピコリ ・・・食と排泄と性と死がテーマ。見所はクッキング・ナイフのすばらしいセット。 「料理長殿、ご用心」(1978年、アメリカ) 監督・テッド・コッチェフ、主演・ジャックリーン・ビセット、ジョージ・シーガル。 ・・・見所は鴨の血抜き器具。 「タンポポ」(1985年、日本) 監督・伊丹十三、主演・山崎努、宮本信子、役所広司。 ・・・日本映画できわめて貴重な食とエロスの映画。見所、役所広司と黒田福美の卵の黄身の口移し。 「バベットの晩餐会」 (1987年、デンマーク) 監督・ガブリエル・マクセル、主演・ステファーヌ・オードラン、ジャン=フィリップ・ラフォン。 見所、村人が初めて食べる最高級のフランス料理に次第に顔が紅潮し、幸福感に満たされてゆくところ。 『コックと泥棒、その妻と愛人』 (1990年、イギリス) 監督・ピーター・グリーナウェイ、主演・リシャ−ル・ボーランジェイ、マイケル・ガンボン、ヘレン・ミレン、アラン・ハワード。 見所、グリーナウェイ監督のいつもながらの怪作。金と食欲と性欲に溺れる人間をシニカルに描く。ジャンポール・ゴルチエが担当した衣装も見物。 料理映画と括ることはできないが次の作品もあげておこう。 「サテリコン」(1970年、イタリヤ) 監督・フェデリコ・フェリーニ、主演・マーティン・ポッター、ハイラム・ケラー。 料理映画としての見所は、トルマッキオの宴会のシーン。ローマ貴族の食事の退廃を活写している。その料理にも注目。 「ショコラ」(2000年、アメリカ) 監督・ラッセ・ハルストレム、主演・ジュリエット・ビノシェ、ジョニー・デップ。 ・・・見所はキリスト教におけるチョコレートの扱い。映画には出てこないがキリスト教におけるコーヒーの扱いを合わせて考えるべき。 この映画に唯一名前で呼ばれるのが「ヴィーナスの乳首(Nipple of Venus)」というお菓子。チョコレートでできた紡錘形の先端にホワイトチョコレートがちょこんとのっている。 同じくジョニー・デップ主演の「チャーリーとチョコレート工場」(2005年、アメリカ。監督・ティム・バートン)もあげておこうか。 お菓子と言えば、「アマデウス」(1984年、アメリカ。監督・ミロシュ・フォアマン)の中で、サリエリがモーツァルトに最初に出会うシーン。甘いものに目がないサリエリが宮廷の一室に用意された山と積まれたチョコレート菓子をつまみ食いする。その部屋で、悪ふざけをするモーツァルトとその後彼の妻になるコンスタンツェをみかけるのだ。そして妻となったコンスタンツェがサリエリ邸を訪ね、夫の宮廷音楽家への就職を懇願するシーン。サリエリはコンスタンツェに「ヴィーナスの乳首」を勧める。『ショコラ』にも登場したお菓子である。恥ずかしげに、しかしやはり甘いものに惹かれて手を出すコンスタンツェ。 そうそう、料理もお菓子も登場しないが、背景にその存在を暗示して人物描写をしている作品がある。ヴィスコンテ監督の『ルートヴィッヒ、神々の黄昏れ』。ババリア国王ルートヴィッヒの歯がボロボロだった。ときどき歯痛に顔をしかめる。これについて映画は何の説明もしはしないが、宮廷の食事が美食と、当時はまだ庶民には手のとどかなかったお菓子がルートヴィッヒの虫歯をつくりだしたのである。 近年の作品に目を向けると、「マリー・アントワネット」(2006年、監督・ソフィア・コッポラ)の中のお菓子を思い出す。現在のフランス菓子のルーツとも言うべき美々しきお菓子の山。・・・王妃マリー・アントワネットに臣下が、「国民にはパンがありません」と進言すると、「それではお菓子を食べるといいわ」と言ったとか言わなかったとか。歴史的には1789年10月5日、サン・タントワーヌの6,000人の主婦たちが市庁舎前に結集し、パンと小麦をよこせと叫びながらパリへ行進した。当時、小麦とパン焼窯の権利は教会が握っていて、庶民は自宅でパンを焼くことができず、教会にそのつど金を払って焼いてもらうほか日々のパンを得ることができなかったのだ。 ところで視点は変わるが、「ジュリー&ジュリア」で、私が「アッ」と記憶にとどめたシーンがある。パリの有名な古書店「シェイクスピア・カンパニー」の店先がミドル・ショットでほんの1.5秒ほど映されたのだ。みなさんお気づきになりましたか。 この短いワン・カット、ジュリアが退屈しのぎにパリの街を歩くという意味付けながら、じつはこの後につづく夫ポールが妻に「ラルース料理百科事典」(プロスペル・モンタニェ著、Larousse Gastronomique)を贈る、その伏線とも考えられる。ミドル・ショットで撮ったのは、店の入口上部に掲げられた「シェイクスピア・カンパニー」という看板を入れるためであったろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Feb 20, 2013 10:45:58 PM
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