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2009.11.04
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テーマ:たわごと(26811)
カテゴリ:石田の日記

時は戦国。

圧倒的な武力が世を支配する群雄割拠の時代。

己が信念に命を懸け、天下統一の名の下に決起した幾多の武将たち。

そして儚く散りゆく夢、又、夢…。

戦が戦を呼び、血で血を洗う混沌の時世。
その渦中に、今まさに次なる台頭の好機を逃すまいと、
巣に掛かった蝶を見据える女郎蜘蛛の如く、
飛騨の山奥で息を潜める武将が居た。

名を、『冬将軍』と云う。


作州の山あいに存在する小さな農村で生を受けた一人の少年は、
いつしか天下統一を眼中に納める一端の侍となっていた。
彼は幼少の頃から、冬になると人一倍元気になる特異な気質により、
村人から「冬坊」と呼ばれ、たいそう可愛がられていた。
山陰の山々を越えてやってくる厳しい寒さの中でも、
決して絶えない彼の屈託のない笑顔が、貧しい山村で生きる人々の心を勇気づけた。
しかし冬坊の歳が十五を数える頃、
村の男たちの多くが、戦に駆り出された。
その男衆の中に、冬坊の姿があった。

冬坊は村が好きだった。
彼は持ち前の気質で、毎年、冬にはうんと働いた。
実り豊かな春を迎えられるよう、村中の畑仕事を手伝い、
子守りに手を焼く家があれば、子たちの世話を引き受け、家々の家事を助けた。
村人は皆、冬坊が好きだったし、冬坊も根っから村を愛していた。
やがて村を豊かにし、生涯、ここで平穏に暮らしてゆくことが、冬坊の望みだった。

しかし、現今に至るまで、冬坊が村に戻ることは無かった。

かつて、貧相な麻の着物一枚で雪の中を元気に駆け回っていた少年は、
今や荘厳な鎧と兜に身を包み、顎と上唇の上に黒髭を蓄え、
眉間に皺を寄せて世を見据えている。
夥しい部下を従え、決戦の火蓋を切って落とす瞬間を見計らっているのだ。
不動明王の如きその形相に、かつて冬坊と呼ばれた少年の面影は無い。

唯一、昔と今の彼を結ぶ共通点は、
その重々しい兜に大きく掲げられた「冬」の一文字のみ。

純粋無垢の権化のようであった一人の子を、
かくのごとく変貌させてしまったものは何なのか。
煩悩の赴くままに生きた者の成れの果てか、はたまた世の定めか。

幾つもの戦を征し、無数の武将を鎮めてきた彼が、限り無い戦火の果てに何を見るのか。


ただ「冬」のみを背負った、悲しき孤独の武将、冬将軍。



彼がその後、如何なる戦歴を残し、
如何なる生涯を全うしたのかは、歴史の闇に葬られている。
現存するどの文献にも、「冬」の文字を掲げた将軍の記述は残っていない。
天下を取ったのか、それとも生まれ故郷の村に戻ったのか、
今となっては、確認する術もない。


ってなことを考えていたところで京阪バスが来た。

「なんのこっちゃ」って心の中で突っ込みながら、

僕は座席に身を沈めた。

おお、寒い。

秋将軍よ、もうちょっと頑張って!










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最終更新日  2009.11.05 04:30:49
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