ある夫婦の闘病記。
朝からあまりヤル気もなく職場でボーっと座っている夫の胸ポケットで携帯が震えていた。着信画面を見ると家で子供の面倒見ているハズの妻の名前が表示されている。何だろうと思いデスクを離れ携帯を受ける夫の耳元に聞こえてきたのは、子供の泣き声にかき消されて小さく届く妻の弱った声だった。 妻「仕事中にごめんなさい。ずっと我慢してたんだけど、、、とても体調が悪くて・・・。」夫「わかった。なるべく早く帰る。」妻「本当にごめんなさい。ただの風邪かも知れないけど、前にもあった原因不明の体調不良だったら長引きそうで心配で・・・。」 職場には急用が出来たと伝え早退して帰宅した夫は、弱った妻の代わりに子供に昼食を与え妻には粥を作って食べさせた。そして自分も何か食べなくてはと昨夜の残り物を適当に昼食とし、その後片付けを終えたあたりで自分もなんだか体調が悪くなってきていることに気付いた。 妻の不調を感じ取っているかの如く機嫌の悪い子供を、少し昼寝させようと寝かしつけているうちに夫の体調はどんどん崩れていった。 夫「ダメだ。俺も調子が悪くなってきた。」妻「えっ?あなたも?」夫「あぁ、なんだか体がダルくて嫌な痛みも出てきた。」妻「あら、じゃぁ私と似た症状ね。やぱり風邪かな?二人とも風邪ひいちゃったのかしら。」夫「いや、まてよ。風邪だったらこんなに急に症状が悪くなってくるか?」妻「でも、私だって今朝までは全然平気で家事をやってたのよ。」夫「だから二人とも何か別の・・・。」妻「とりあえず風邪薬でも飲んで横になってる?」 はっきりと風邪であるという根拠もないまま風邪薬を飲んで気休めとする二人。 夫「まずいな・・・。」妻「え?」夫「こりゃ何かヤバイ病気だな・・・。ウイルス性の急性胃腸・・・、いや、悪性肝機能障害・・・、、、」妻「何それ?」夫「それとも何か細菌兵器の類(たぐい)か・・・。」妻「・・・。」夫「とにかく狙われているのは俺か、それともお前か、、、いずれにせよ特に思い当たる感染ルートも無いとすれば空気感染か、、、となると益々厄介だな。感染源はいったい・・・、保菌者は・・・。」妻「何言ってるの?」夫「おい、この子は平気なのか!?」妻「そうね。特に普段と変わり無くヤイヤイ言ってるわ。」夫「そうか。子供はまだ抵抗力も低いからな。空気感染だとしたら真っ先にやられるのはこの子だろう。」妻「・・・、・・・。」夫「畜生。どこでしくじった!裏で動いてるのはどこの組織だ!?KGBか?CIAか?狙いはたぶん俺だろう。いや、お前は何も心配しなくていい。ただこの子の様子だけは気を付けていてくれ。」妻「あんた、何処を敵に回して戦ってるのよ。」夫「とにかく体がこのままぢゃ戦おうにも動くこともできねぇ。まずは体力の回復を図るべきだ。今日はもう寝るぞ。」妻「・・・、・・・、・・・。」 翌朝、昨日飲んでおいた風邪薬が効いたのか、随分とスッキリとした目覚めと体調の良さに昨日の心配など何処へやらといった雰囲気の夫。 妻「ねぇ、体はもういいの?」夫「ん?何が?」妻「KGBとCIAには勝ったのね♪私はまだ風邪が治らないみたいだけど。」