『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』を読む
先日ブックオフでキングスレイ・ウォード著『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』を200円でゲットしたんですけど、ちょろっと読んじゃった。 ちなみに本書の訳者は城山三郎さん。城山さんって、かつて私の勤務先大学に勤めていたことがあって、その意味で職場の先輩に当たるんですよね。ま、それはともかく、この本は、カナダのとある会社の創業社長が、二代目社長になるはずの息子に宛てて、社長帝王学を伝授すべく書いた30通の手紙をそのまま本にしたもの(という触れ込み)。だから、経済小説を数多くものした城山三郎氏としては、興味があったんでしょうな。 で、本文読む前にまえがきと巻末の訳者解説を読んだのですが、父親が情愛たっぷりに綴ったこの手紙を読むと思わずほろりとさせられるとか、友人の誰それは本書を読んで落涙を禁じえなかったとか書いてあるので、ほう、そんなに感動的な話なのか、と、楽しみに読み始めたのですけど・・・ そんなでもないね。(ガーン!) っていうか、むしろうざい。(ガガーーン!) ま、結局さ、創業者社長の父親から見ると、色々な意味で息子はふがいないわけ。ふがいないし、頼りないし、危なっかしい。で、普通の親子関係だったら、親父が息子にガミガミどやしつけて、しばらく口もきかない仲になり、でももしその息子が多少なりともまともな奴だったら、次第に大人になって、いつしか一端の二代目になる、的なことで収まるわけでしょ。だけど本書の父親、つまり著者のウォード氏は、そんな普通の親父よりはもう少し冷静かつ粘液質の男だったので、息子に向って言いたいことをうだうだ文章に綴って手紙として息子に渡していたと(それも、自分の手元に記録を残して、ってことでしょうけど)。 だから、手紙の内容はねちねちと息子の欠点をあげつらい、こういう風にしろと命令する、父親のそれですよ。無論、オブラートに包んであるので、それを人によっては「ユーモアたっぷりに」と受け取るかもしれないけれど、そういうことならむしろズバッと直截的に言ってもらいたいと思う私のようなタイプの人間からすれば、「うざい」って感じになると。 例えば、同年代の友人たちが結婚し出したので、若干焦りだし、そろそろ自分もと嫁探しを始めた息子のうわさを聞き付けた父親が、「息子よ、焦って結婚したりすると後が怖いぞ。結局、離婚なんてことになったらえらい損失だ。結婚と言うのは、自分を投資するビジネスなんだからな。嫁にするなら性格が温かくて礼儀正しく、清潔好きな女にしろよ、それからその後一生添い遂げることを考えれば美人を選べよ。だけど、あらゆる側面でパーフェクトなんて女はいないから、ある程度のところで妥協しろよ。口説き落とす女が決まったら、用意周到で行け」とか、そんな盛り沢山なアドバイスをした挙句、最後の署名は「愛の天使より」と来たもんだ。 あるいは、親父の会社に勤めながら、友人たちに誘われ、新しいベンチャー企業を興そうと息子がたくらんでいると知った時は、「お前なあ、絶対だまされとるぞ。お前を起業に誘った友達ってのは、要するにお前を金づるにしようっていう魂胆なのに、お前にはそんなこともわからんのか。それでもどうしてもやるというのなら、騙される前に周到な手を打って、金を出す以上、俺がすべて監督するからなって言ってやれ。用心しろよ」ってなことをくだくだ言った後、最後の署名は「共同経営者より」。 それから多角経営をしている自分の会社を批判し、事業を整理して資金を一極集中させた方がいいんじゃないかと息子が言ってきた時には、「お前、ふざけんなよ。俺がどれだけ苦労して、この会社を経営してきたか、分かってねえだろ。一極集中して失敗したらどうすんだよ。多角経営して、1つが経営不振になっても他の分野でカバーするってのが、うちのやり方だ。アンドリュー・カーネギーだって言っているだろ、『初代と三代目は作業着を着る』って。初代が苦労して一から作り上げたものを二代目がつぶし、三代目はまた一から出直す羽目になるって意味だよ! 俺の目の黒いうちは経営方針についてお前にとやかく言われる筋合いはないんじゃボケ! 会社の進路を決めるのは俺だ。お前はただ俺の命令に従ってりゃいいんだよ」と言って、最後の署名は「ウォード船長より」。 こんなの延々30通読んで、ほろりと来る? 私は来ないよ。目頭なんか熱くならないし。 というわけで、どうしてこの本が父性愛の見本だ、みたいなことを言われるのか、私にはさっぱり。 でも、この本、1987年の1月に初版が出て、その年の11月までに31刷だからね。10カ月のうちに30回増刷って、どういうこと? わかんないわ~。それとも、この本にほろりと来ないワタクシがどうかしているのか? 私が唯一、面白いと思ったのは、父親が息子に向って「必読書10傑」を紹介している19通目の書簡ね。ウォードが息子に示した10冊は、以下の通り:1 バートレットの常用引用句集(ジョン・バートレット)2 広告業に生きる(クロード・ホプキンズ)3 家族経営会社の性格(レオン・ダンコ)4 医師と心(ヴィクター・E・フランクル)5 東洋の遺産(ウィル・デュラント)6 巨富を築く13の条件(ナポレオン・ヒル)7 ライジング・サン(ジョン・トランド)8 ブリタニカ百科事典一巻(どれでもいい)9 ローマ帝国衰亡史(エドワード・ギボン)10ラルフ・ウォルド・エマーソン(フレデリック・I・カーペンター) もちろん、私の目を惹くのは、ナポレオン・ヒルの『巨富を築く13の条件』が挙げられていること。これね、ヒルの『思考は現実化する』という本のダイジェスト版です。なんでウォードは『思考は現実化する』の方を推薦しなかったのか若干の疑問は残りますが、とにかく、起業家必読の本としてナポレオン・ヒルを挙げているのは興味深いですなあ。 あと、もちろん、エマソンを挙げているのも実に面白い。ちなみに本書では本文中でも一か所、第27通の最後に「健康と自由な一日を与えられれば、帝王の栄華も馬鹿らしく思われるほど幸福になれる(Give me health and a day, and I will make the pomp of emperors ridiculous.)←Nature からの引用」というエマソンの箴言の引用があります。「エマソンの引用のない自己啓発本はない」という私の見立ては、この本にも当てはまるわけよ。 私にとって面白かったのは、ここだけ。 あと、前にも書きましたが、この本の類書・・・というかご先祖に、フィリップ・チェスターフィールド卿の『わが息子よ、君はどう生きるか』という本があるので、その本と絡めることで、本書ももう少し面白く読めるかなと。それは今後に期待しましょう。 ということで、私にはちっとも響かなかった本ですけど、世間的には素晴らしい父性愛の本ということになっているらしいので、そういうのに興味がある方はどうぞ、って感じです。【中古】 ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫/G.キングスレイ・ウォード(著者),城山三郎(訳者) 【中古】afb