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カテゴリ:言語・文化・コミュニケーション
(下記はソフィア会SNSでのコメントを一般向けに編集・加筆したものです。)
英語は本当に世界共通語なのかという疑問や、あるいは世界が英語一辺倒になっているという批判があるが、私は実務翻訳者の立場から見て、やはり英語は世界共通語になっているし、英語が世界共通語で良かったとも思う。 まず、英語が世界共通語になっているという点: 実務翻訳でも、「英語以外の言語」を世界各国の言語に訳す場合、「まず英語に訳してから、次に英語から各国語に訳す」のが通常の手段である。 よく多国籍企業がこの手法をとる。たとえば、ドイツのグローバル企業がドイツ語の企業文書をまず英語に訳して、その英語版から各国語に訳していく。「ドイツ語→英語→日本語」、あるいは「ドイツ語→英語→中国語」へと、英語を経由して訳していく。 おそらく、そのフランス語中心主義から決して公にはしないだろうが、フランスのグローバル企業も同じ。まずフランス語を英語に訳して、その英語版から各国語に訳していくのだ。そう、「フランス語→英語→日本語」、あるいは「フランス語→英語→アラビア語」へと、英語を経由して訳していく。 この理由として、2つの「英語以外の言語」を完全に理解できる人が少ないことから、「英語以外の言語」間の翻訳レベルが落ちることが挙げられる。たとえば、日本語とエスキモー語のバイリンガル翻訳者なんて、おそらくほとんどいない。たとえ、いたとしても、その翻訳・通訳レベルは保証できない。日本語とエスキモー語の双方を学習している人の裾野の学習人口が少なすぎるからだ。 英語はこれと対照的で、世界の多数の国の学校で学習されており、英語の学習人口は非常に多い。英語と「英語以外の言語」の組み合わせのバイリンガル(例:英語とドイツ語、英語とノルウェー語、英語と中国語、英語と日本語の言語ペア)は、各国に山のようにいる。通常は学習人口の裾野が広い方が、トップ・レベルが高くなると共に、トップ・レベルの人数も増える。 つまり、たとえば日本語からノルウェー語に翻訳できるプロの翻訳者や、ノルウェー語から日本語に翻訳できるプロの翻訳者の数は、多分かなり少ないだろうが、ノルウェー語から英語に訳せる人なら、ノルウェーやノルウェー系米国人には、多数いるだろう。そして、英語から日本語に訳せる日本人も多い。そのため、当然のことながら、「ノルウェー語→英語→日本語」、あるいは「日本語→英語→ノルウェー語」へと、英語を経由して訳した方が、翻訳レベルが高くなる可能性が高い。 このように、多国語間の翻訳や通訳では、確かに英語は共通語になっている。英語が中間の媒体言語、つまり「英語以外の言語」間の橋渡しになっている。ただし、中間媒体である英語への翻訳がイマイチだと、英語版をもとに行われる「英語以外の言語」への翻訳・通訳など全てが崩れ、最初の言語(原語)の原本とかけ離れた内容になるのが難点である。 他の言語ではなく、「英語」が世界共通語であることの利点: 英語は他言語と比べると、比較的簡単な言語で、英語が母国語ではない人にとって学習しやすい。インド・ヨーロッパ言語の中で、英語は動詞の活用形も格変化も、かなり簡単な方である。中国語を世界共通語にすると、漢字圏の日本人にとって漢字は楽でも、非漢字圏の人が、あの膨大な量の漢字を覚えるのは大変である。しかも、たとえ漢字学習は楽でも、日本人にとって、あの中国語のイントネーションは難しい。アラビア語も文字自体がかなり難しそうだ・・・ 一部で世界で最も難しい言語(?)とも言われるフィンランド語や、言語人口は多くても、格や活用の変化が凄まじそうなロシア語、芸術的な文字のアラビア語、イントネーションが大変そうな中国語が世界共通語ではなくて、本当に良かったと思う今日この頃である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.11.30 02:09:09
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