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次なる挑戦 ・・・ 日本人の技

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2011.09.23
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(この内容は、月刊「左官教室」No.596に掲載された内容を、筆者の許可を得て
 そのまま掲載したものです。)

     aaea.jpg  左官職 品川博   ・・・・・http://www.shinagawa3.com


 今、ひとつの新しい鏝が誕生した。名前は、「漆喰押エ鏝」と命名された。

第1章 新鮮な土と漆喰仕事

 バタバタとセメント相手に年中走り回る時代も終わり、急激な仕事不足の時代を迎え10年は過ぎた。 この間、仕事をいただいていた建設会社の倒産も3社を数える。 仲間も少なくなり、大きなビル工事から離れて久しい。

 そんな中、約2000平方メートル、荒壁漆喰押え仕上げという仕事が、わがグループ(代表・品川房男)に舞い込んできた。 建設会社は、以前(2002年5月9左官教室表紙に取上げていただいた、らせん柱の富嶋建設だった。)お寺の本堂、客殿、庫裏、新築工事である。

 来る日も来る日も荒壁づけから始まったこの仕事も、中塗り乾燥を終えた6月、いよいよ仕上げの初日を迎える。 作戦としては、まず、噴霧器で水やり → 砂漆喰を強くふせこみ → 仕上げ漆喰を薄く下こすり → おっかけ薄く仕上げぬり → ならし鏝を十分にし、タイミングを見て押え仕上げ。

 最終仕上げ鏝は、ビル工事の私たちの経験から、0.5mmの角鏝に決めていた。材質のステンレスか本焼きかは様子をみて決定する。 この0.5mmの角鏝に決めたことには、私たちなりの理由がある。 どんなに頑張ってみても、磨き鏡のような平らな壁は塗れない。 水しめしも100%のムラなくなどできない。 当然、仕上げにも微妙なひきムラは考えられる。 このひきムラは、言い換えれば、乾燥とともに収縮率が変わり微妙な凹凸となる。 そこをしなりのない押エ鏝を使えば、当然押えムラとなることが予想されたからだ。

 仕上げ当日、本殿外部の上からかかる。 なかなかいい仕上がりだ。 すっきりした壁だ。 こうなると、気分は上々。 仕事の進行状況は、本殿 → 客殿 → 庫裏へと流れていく。 従って、荒壁づけ、中塗り、仕上げと乾燥を見ながら重複した状況になる。 大工仕事待ち、土の乾燥待ち等で度々現場を空けることもある。 土や漆喰仕事がこんなに楽しいものだったかと、初めて気づく。

第2章 事 件

 仕上げも暑い夏を迎えたある日。 前日仕上げた壁に、横ら目を向けると、くもりのムラが見えた。私の仕上げた壁だ。「あれは何だ?」。近づいてよく見ると、「表面ひきおこし現象」(私が勝手に言っている言葉)が起きていた。 うまくいってた筈が、何ということだ。悔しさがこみ上げてくるが、他の壁も?と気になり、見回る。 何枚かあったが、前半の壁には何もない。 暑くなってきてからの壁に、所々見受けられる。 乾きの早さだ。 私の塗った壁の日のことを思い出す。 着手から押えまで、一気に仕上げた壁だ。 水しめしも十分にしていた。 これから先、もっと大きな壁もある。 何とかしなくては・・・・。

第3章 過去の出来事から

 以前、漆喰系の講習会(磨き)に入った息子、福太郎が「どのタイミングで鏝を変えればいいんだろうか」と、誰に言うでもなく疑問をなげかけてきた。 ただ傍観者の私は「いけるところまで、その鏝でいけばいいんだよ。そして無理を感じたときに、次の鏝を使えよ」と思わず言っていた。 今思えば必ずしも間違いではなかったと思う。 何を思ったのか、その場には不釣り合いな大きさ8寸ほどの塗りつけ鏝を取り出してきて、その壁を押え始めた。 「何がしてみたいのだ?」と思いながら黙って見ていると、それが的確にうまくあたっているのだ。 加えてぬけもない。 とりあえず、平らに塗りあげていることだけは、なかなか成長したなと親バカな私を喜ばせてくれる。

 ところがその鏝がいつまでもうまくあたっているのだ。辛抱がきれたのか、使ってみたかったのか、買ったばかりの磨き鏝(2,3本は持っていただろうか)を使い始めた。 その瞬間から表面ひきおこしが起こり始めた。 思わず「裏のサビ止め(ニス)は、落としているのか?」と聞いた。「そんなもん、前日からちゃんと落として砥石までかけた」と言い返された。 うまくいく筈と思っていたことが、思ったようにならないことへの悔しさを感じていると事を察すると同時に、私の中で大きな疑問が生じる。

 左官仕事の進め方は、柔らかい鏝 → 硬い鏝へと進めていくもの。 仕上げは、硬い金属のものと思い込んでいた。 長い時間やってきたセメントモルタルは、それでよかったと思っている。 安来ハガネも、何本もモルタルに使ったこともある。 (セメントモルタルには必要以上と判断した)

 ところが漆喰は違う。 福太郎が使ったちびた塗りつけ鏝は、半焼きなのだ。 それが、青紙と呼ばれる最も硬い仕上げ鏝よりうまくあたっていた。 ちびかたなのか? いや、絶対それだけではない。 柔らかい鏝 → 硬いだけでなく、こと漆喰の場合その逆さまなのでは? と思ったが、答えを追求しないままでいた。

第4章 問 題 解 決?

福太郎のその光景を傍観者のように見ていたのは私だけでなく、兄・清志も同じだった。 今ここで起きている現象について全く同じことを考えていたようで話は早い。 早速その日の午後より、「硬い → 柔らかい」の仮説をたて、一番柔らかい鏝で押えを実行することにする。 中塗りのみに使っていた鏝に、少し手入れをし、塗りつけ地ならしを終えワクワクしながら押えに入る。 何という気持ちのいい感触だろうか。 これだ! 同じ条件の壁に鏝の種類を取り換え、しつこく比べる。 ひきおこし現象についても間違いない。 タイムリミットが相当伸びる。 その日から鏝を取り換え、即作戦変更。 またまた楽しくなってきた。

 ところが、問題は、これだけでは終わらなかった。 白(漆喰)というものは、光りによって本当はみえにくいひきおこし現象も、仕上げた時には気付かなかったものが後日見えた。 私に老眼鏡が入ってきたせいか、バタバタと気走っていたせいか、経験回数のせいか、 いずれにせよ、またまた気に入らないものを見つけてしまった。 横からの鏝の圧力による、光りムラである。 全部目立つわけではないが、光りの横から入る壁は見苦しい。 ひきおこし(タイムリミット)を鏝の材料によって、良い結果に乗り越えた結果が・・・・。

 最初の作戦の0.5mmの角鏝、これを決めたのは全体にムラなく鏝があたるようにということだったのに、そのことをすっかり忘れていた。 答えはすぐに出た。 材質と適度なシナリ(0.5mm)、この2つを合わせ持つ鏝を作ればいいのだ。 とはいえ、どう考えてみても鍛冶屋さんにありそうなものではない。 そこで、話をはやくするために、自ら見当をたて材料を入手に走る。 3ヶ所目で入手できた。 その板にとりあえず使えるように手を加え、鏝屋さんへと走り、理由を話すと快く引き受けてもらえた。

                            ・・・・次回へ つづく

月刊「左官教室」No.596(2006年2月)掲載

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Last updated  2011.10.12 12:40:49



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