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2023年10月29日
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カテゴリ:音楽
先週木曜日の夕刻、東京文化会館小ホールで行われた表記演奏会に出かけました。宣伝チラシによると、ロンドー氏の来日公演は4年ぶりとのことですが、亭主共が聴いた日本デビューリサイタル(2017年4月)からは既に6年も経っていて、久しぶりに彼のハープシコード生演奏に接する機会になりました。

ところで、当日JR常磐線で18時半過ぎに上野駅に到着し、6年前とは大きく変わっている駅前を通って会場に近づいてみると、案内の人が「大ホールの入り口は向こうの側面からで〜す!」と連呼しています。そのまま正面入り口からロビーに入ったところ、中で長蛇の列ができていてびっくり。何が起きているのかよくわからないまま列の最後尾に並んでいると、開演10分ぐらい前になってようやく入場券のモギリが始まったようで、その後は意外と超速でホールに入場できました。先に着いていた連れ合いに訊いたところ、天皇・皇后陛下が隣の大ホールの催し(熊川哲也さんが主宰するバレエ団による「眠れる森の美女」の公演)にご来場とのことで、暫時人払いが行われていたタイミングと重なったようでした。

さて、同じ小ホールで行われた6年前のリサイタルでは、亭主共の席は正面に向かって左手のやや後方だったため、音が遠くから聞こえる感じでした、そこで今回は右手の前から4列目の至近距離から拝聴することに。とはいえ、着席してみると舞台の床がちょうど視線の正面で、楽器や演奏者を斜め下から見上げる感じになり、会場のざわめきの中では調律師(梅岡さん)が楽器を鳴らす音もやや遠い感じです。「あ〜、やっぱりハープシコードはこういう大会場での演奏には向かないねぇ…」と、半ば諦めながら開演を待つことしばし。ところが、いざ会場が静まり返って演奏が始まると、ロンドーの手の下から実に朗々と音楽が流れ始め、その響きを大いに楽しむことができました。




今回の日本公演で、ロンドーは2つのプログラムを用意しており、亭主共が聴いたのは「パルナッソス山への階梯」と題された〈Aプロ〉。こちらはハイドン、クレメンティ、ベートーヴェン、さらにはモーツァルトといった18世紀末から19世紀初頭の音楽で構成されています(以下に具体的な曲目)。
・フックス: アルペッジョ

・ハイドン: 鍵盤楽器のためのソナタ (ディヴェルティメント) 第31番 変イ長調 XVI:46

・クレメンティ: 「パルナッソス山への階梯」作品44より 第45番 ハ短調

       序奏 アンダンテ・マリンコーニコ

・ベートーヴェン : ピアノまたはオルガンのための前奏曲 第2番 作品39/2

・モーツァルト:ピアノのためのソナタ ハ長調 K.545

・モーツァルト:ロンド イ短調 K.511

・モーツァルト : 幻想曲 ニ短調  K.397
実はこれ、彼がこの春にエラートからリリースしたCDのタイトル(亭主はまだ未聴)と同じで、そこで取り上げられている曲ともかなり重なっています。(ちなみに〈Bプロ〉は本邦デビューリサイタルの時と同じバッハのゴルトベルク変奏曲一本。)

ピアニストにとって、「パルナッソス山への階梯」(ラテン語でグラドゥス・アド・パルナッスム)といえば、ムツィオ・クレメンティ(1752 - 1832)がその晩年に作曲・出版した100曲からなる練習曲集が有名です。ただし、こんにち我々がよく目にする版は、タウジッヒがそれらの中から29曲を選んで並べ替え、最後に自身の手になる並行3度の練習曲を1つ加えたもので、言ってみればタウジッヒによる指体操本というべき代物。後年ドビュッシーが「子供の領分」の第1曲「グラドゥス・アド・パルナッスム」で、その退屈な練習に閉口している子供たちを描いており、亭主もこの曲に出会った学生時代に音楽之友社版の楽譜(やはりタウジッヒ版、井口基成編)を覗いてみたことがあります(が、すぐにうんざりして放置)。




では、ロンドーがこのプログラムで意図したのはそのような「練習曲」へのトリビュートかというと、もちろんそうではなさそう。実際、ロンドーが取り上げたクレメンティの第45番は前述のタウジッヒ版には収録されていません。その理由はフーガだからで、井口基成の解説によると「フーガを勉強するならやはりバッハだろう」ということで除かれたとのこと。




また、プログラム冒頭に置かれたヨハン・ヨーゼフ・フックス(1660 - 1741)も、1725年に「グラドゥス・アド・パルナッスム」と題した著作を出していますが、こちらはラテン語で書かれた対位法の教科書です。ウィキの記述によると、この本はバッハの蔵書にもあり、モーツァルトやベートーヴェンもこれで勉強したと伝えられるとのこと。

こうして見ると、どうやらプログラムの隠れたお題は「対位法」と関係しているようにも思われます。

さて、肝心の演奏会についてですが、まず冒頭のフックスによる作品、ロンドーの演奏でワラワラと立ち現れたのは17世紀フランス・クラヴサン音楽のプレリュード・ノンムジュレ(小節線なしの前奏曲)のような音楽。どうやらこれは「指慣らし」のようなものかも。

次のハイドンのソナタは亭主には馴染みの作品で、とりわけその第2楽章は美しく、若かりし頃のイーヴォ・ポゴレリチによる演奏をCDで聴いて以来、自分でも時折ピアノで弾くことがあります。最近はハープシコードでのハイドン演奏には珍しくありませんが、ロンドーのそれは最初の音が鳴ってからのテンポ(間)の変化が独特で、音楽が波のように揺らめくのが面白いところ。(後から思うに、この曲こそは今回のプログラムの眼目の一つ。)

ただ、この演奏で気になったのは、ウィーン原典版とは異なる版を用いていた点で、マルティエンセン編のソナタ集 第2巻(ペータース版、ポゴレリチもこちらを弾いている)に準じているように聞こえました。(特に異同が大きいのが第2楽章で、亭主の好みはウィーン原典版の方。)

続いてクレメンティのフーガ、およびベートーヴェンの前奏曲と来ますが、これらは亭主には初耳の作品。フーガはもちろんのこと、後者もやはり対位法的な書法の作品です。前奏曲は、彼がボンの修行時代に書かれたものらしく、もしかすると前述のフックスの教科書を勉強しながら作曲したものかも?いずれもハープシコードでの演奏に全く違和感がなく、作曲者を明かさずにバロック期の音楽だと言われてもわからないでしょう。

これらに比べると、選曲という観点からやや謎めいているのが引き続くモーツァルトの作品群。K. 545は典型的なギャラント趣味のソナタで、バロック音楽のスタイルとは対照的な感じもします。それに比べると、ロンド(K.511)と幻想曲(K.397)は、いずれもバッハのような半音階を多用している点がバロック的に感じられ、古の音楽と彼との紐帯を感じさせる作品と言えるかも?

いずれにしても、これらの選曲とその演奏から感じられるのは、18世紀末から19世紀初頭の音楽をそれ以降の音楽の黎明と位置付けるのではなく、それらに先行するバロック音楽の延長として捉えよう、というメッセージです。これは造形芸術において「ルネサンス」を「近代の夜明」けではなく「中世の秋」と捉える見方とも似ています。

というわけで、いつもながらあの風体でスフインクスのごとく我々に謎かけをしてくるロンドーの演奏会、実に刺激に満ちた体験でした。





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最終更新日  2023年10月29日 22時15分44秒
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