幕末・女医と剣士(3)
(前ページからつづき)〇鴨川沿いの道 梓が往診用の道具を抱えて歩いている。 少し先を沖田が1人歩いている。 梓が小走りになって沖田に追いつく。梓「追いつきましたわ。病人なのに足が速いのね」 梓は息をきらしている。 驚いて周囲を見る沖田。沖田「梓さん離れてください、京の町を私と一緒に歩いてはいけません」 沖田が梓に叱るように言う。 行く手から4人ほどの侍が歩いてくる。沖田「梓さん、急いで引き返してください」 そういうと沖田が河川敷へ降りていく。 前方から来た男たちが沖田の方に向かって走っていく。侍A「新選組の沖田だな」沖田「違うと言ったら」侍A「身のこなし刀の鞘は伝え聞いた沖田と見受けた」 沖田が梓と反対方向に駆けだす。 侍たちが沖田を追いかける。 梓は呆然と立ちすくむ。 沖田に追いついた男が背後から切りかかる。沖田が踵を返して刀を振り下ろす。侍A「ぎゃ!」侍Aが叫び声のあと崩れるように倒れる。他の侍たちがばたばたと逃げていく。立ちすくむ梓の傍に沖田が戻ってくる。梓「切った方の手当ては」沖田「絶命しています。近寄ってはいけません。私はこれから会所に届けてきます」 梓が悲しそうな顔で沖田をみる。沖田「私は人の命絶つのが仕事なのです。あなたは人の命を助ける人。違いすぎますね。あなたにこんなところを見せたくなかった」 沖田が梓の傍から離れていく。 沖田の姿が梓の視界から遠のいていく。 完4000字という枠内の作品で、梓と沖田の恋は表現不足と言う指摘を受けましたが(ゼミの中で)、早世の沖田総司にも淡い恋があったと書きたかった。京の町を焼け野原にして皇室を長州に遷そうと企てていた長州藩士の会合を未然に防ごうと「池田屋」に乗り込んだ新選組。正義のために行動したことが、時代のうねりの中で「勝てば官軍、負ければ賊軍」。池田屋事件で1人で数人を切って、労咳のために血を吐き倒れたと言われる沖田総司。新選組と会津藩士の悲劇は想像力を掻き立てます。