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濡れねずみに裸足で、真夜中に飛び込んできた源さん。 かくまってくれ・・・・とは尋常にあらず。
仔細を聞く前に、なにはともあれ源さんを強引にシャワールームにぶち込む。 ぶちこむとはいささか手荒だが、風邪でもひかれたら・・・という心遣い30%に腹立ち70%。
なんせ七十を越した老齢の身、風邪をこじらせると恐い。といえども、源さんが飛び込んでくると間違いなく騒動も一緒だ。安らかな日常は、あっという間に翻弄される。今度は、何をしでかしたのか・・・・。
シャワーから出てきた源さん、狭いアパートの中を難しい顔してそそくさと歩きまわり、道に面したところの灯りを消して、ドアは二重ロックの挙句にチェーンまでかけ、 『マモさん、携帯電話の電源切ってや』 『えっ・・・・・?』 『いくら居留守をつこうても、ドアの外から携帯鳴らせばばれるやろ』
なんとも切羽詰った用意周到である。
源さん、なにやったんだよ! と、即座に畳み掛けたいところだが、ぐっとこらえて熱い緑茶を淹れる。 バクチでトラブルか・・・、麻薬がらみのトラブルか・・・。 もしそうなら追っている相手は面倒である。が、源さんは知っている限りでは、バクチはやらないし、麻薬などに手を染めるジジイではない・・・・。となれば、金のトラブルか、酔った挙句のたわいない喧嘩か・・・・。 それも、どうもないと踏む。 源さんに最もあり得るのは女とのトラブルだ。 といってもあなどれぬ。 殺傷事件、傷害事件の大半が、怨念、恨みのインドネシアである・・・・。
『女か・・・・?』 『なんで判るんや!』 『判らんでかいな、この助平ジジイ』 『あんなあ、何度も言うとるやろ、気色悪い関西弁やめときいな! それに、助平ジジイに助平ジジイと言われとうないわい』
『デウィちゃんがいるのに、他のねえちゃんに手を出したんだろう?』 『図星や。それだけならまだええが、そのねえちゃんにやや子が出来たんや。それがバレてしもうた・・・・』
なんというジジイだ・・・・。 あんた遊びなはれ、酒も呑みなはれ・・・と大阪の古女房に芸のためではなく、年老いてなお盛んな源さんが煩わしくなって凧の糸を切られ、ここバリ島で、二十歳そこそこのデウィちゃんと暮らし、いまでは二歳になろうとする大五郎という息子までいるというのに・・・・。
いくらその大五郎を認知し、デウィちゃんには一生暮らすには充分な金を渡してあっても、他でまた子供を作ったとなれば激怒するのは至極当然。
『ほいでな、殺したると包丁振り回すもんだから、必死に逃げてきたんや。頼む、助けたってえな、この通りや』 源さん深々と頭を下げる。 と言われても、どうしたものか。この源さんに、道理や人の道を説いたところで埒が明かぬのは百も承知。
その時である・・・・。 廊下を歩く足音がかすかに響く。日頃、その足音だけで、どの部屋の主が帰ってきたのか判る。だが、それは聞き覚えのない足音であった。しかも、複数の足音である。
息を潜めて耳をそばだてる。
複数の足音は、僕の部屋の前でぴたりと止まった・・・・。
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