「求められるドイツ」独シンクタンク所長・ヤン・テッハウ氏、金沢大教授・仲正昌樹氏、独SWP所長・フォルカー・ペルテス氏の3氏に聞く・27日朝日新聞・「耕論」欄
私:戦後ドイツはナチスの反省から、隣国を攻撃させないこと、欧州共同体(EC)など西欧の枠組みに組み込むことで、ドイツの国益を考えない「控えめさ」が、「国際社会復帰」という国益をたまたまもたらした。 しかし、こうした態度の弊害は、今や随所に表れているとヤン・テッハウ氏はいう。 ユーロ危機では、ギリシャがロシアに接近してしまう地政学的リスクを考えず、ギリシャを怠け者扱いして突き放そうとした。 難民問題でも、道義的判断から大量に受け入れたが、そもそもの原因である中東での戦争には関与せず、ほぼ他人任せ。 A氏:ドイツは、2度の世界大戦での敗北から、「歴史的に間違った側に立ちたくない」という意識が強く、西ドイツ時代は主権が制限され、安全保障は米国任せ。 外交は「欧州を大事にする」と言っていればよかったから「一国潔癖主義」に閉じこもっていられた。 私:ドイツは経済的に指導力を持ち、そうした時代は終わりを告げようとしていると、ヤン・テッハウ氏はいう。 「ドイツのためにヨーロッパに尽くす」という奉仕的指導性こそが求められ、ドイツは今、こうした変革に向けた「陣痛」を感じているところだという。 A氏:2人目の仲正昌樹教授は、日本の戦後と比較しながら、論じている。 戦後のドイツは、ナチスと根本的に異なるとアピールして区切りをつけたことが、今日の国際的地位を支えている。 私:その点、日本は、天皇制などが存続し、新憲法は大日本帝国憲法の改正手続きに従って制定され、戦前の国家との連続性が残り、責任の焦点を当てにくい。 「人道に対する罪」が東京裁判の判決文では使われなかったし、ドイツとは戦争責任をめぐる取り組み、そして周辺諸国との関係に決定的な違いが生まれた。 A氏:日本がまだ、日韓問題で代表されるように、戦前の責任問題に決着がついていないのと大違いだね。 私:ドイツが反省と区切りをアピールするのに言葉の力も大きく働いていて、節目で要人が名演説を残しているとして、戦後40年の1985年、ワイツゼッカー大統領の「荒れ野の40年」は、過去の責任を直視する反省の重さを示したことで有名で、そこでは、ナチスとの決別と欧州回帰を印象づけた。 それと比較すると、日本のアピールはうまくないと仲正教授も指摘しているね。 そもそも、戦争責任の追及のされ方や周辺諸国との関係が根本的に違うからうまい発信をする必要がなかったのかもしれないが、日韓基本条約を結んだ佐藤首相や日中国交正常化を実現した田中首相が、気配りの行き届いた名演説をしていたら、過去の清算をめぐる国内外の状況は、その後大きく変わっていたかもしれない、と仲正教授はいう。 A氏:3人目のフォルカー・ペルテス氏は、ドイツ、欧州の外交・安全保障問題の権威という立場から欧州統合の推進がドイツの力の源であるとしている。 ドイツに求められる指導力とはサッカーチームの主将のようなもので、ボールを持っている時間は長いかもしれないが、得点するために隣の選手にボールを回すこともあり、チーム内での共同のリーダーシップなのだという。 そうでなければ、EUに加盟する残り27カ国が容認しうる指導者にはなれないという。 私:英仏独の協力関係は、(EUから離脱する)英国の影が薄れ、独仏が主導する形になり、欧州では独仏が互いによき、信頼できる、効果的なパートナーであることが大事になる。 メルケル首相の米トランプ政権に対する方針は, 正面からは反対しない、というもので, 米国なしには進展しない分野がある以上、実務的にできる限り協力した方がいいが、安倍首相のように個人的な信頼関係を築くため「ゴルフ外交」をするようなタイプではないとペルテス氏はいう。 アジアの安全保障問題では、南シナ海の航行の自由はドイツ、欧州と中国との貿易にとって極めて重要だが、ドイツは中国と非常に強い経済関係があるだけに、中国に対して国際法を順守するように促すことができるはずだとペルテス氏はいう。 A氏:ドイツにはイランとの核合意など長期間、多国間で隠密に外交を進めた技量と経験があり、ベルリンに南北朝鮮の大使館を持ち、北にとって敵ではない。 もし求められれば北朝鮮問題で仲介役を担える立場にあり、そんな国はそう多くはないとペルテス氏はいう。 私:戦後、米国との結びつきによって国際社会に復帰した日本とは異なり、ドイツは欧州の統合を通じて主権を回復してきた。 欧州統合の物語と歴史に対する率直な姿勢こそがドイツのソフトパワー。 外国人がベルリンに来ればナチスの犯罪について学ぶことができ、かつては悪い人で悪い国だったが、周辺国と友好関係を築き、統合したことで現在はいい国になったという物語が伝わるという。 A氏:日本の遊就館とは大きく違うようだね。 私:メルケル首相は、今度の総選挙結果を受け、内憂外患だが、この難局を乗り切ってほしいね。 3氏ともナチスの反省のための萎縮を克服し、ドイツの国際的なリーダーシップを期待しているね。