こんな映画を観た~ザ・ディープ
「もう一つの北欧映画祭」3作目はアイスランド映画。予備知識なしに観たので前半は意味がよくわからなかったが、途中でこれは実話を再現した映画だと気づき、それからはがぜんおもしろく観た。アイスランド沖で漁船が沈没。北大西洋の冷たい海に投げ出された乗組員6人はつぎつぎと息絶えていく。しかし、凍てつく海を6時間も泳ぎ続けたひとりの乗組員が「奇跡の」生還をする。1984年ごろ実際に起こった事件を(たぶん)忠実に再現したものであることは、エンドロールの間にこの事件の生還者の実際のインタビュー映像がはさまれることからわかる。前半の遭難からのサバイバルを描いた映像は秀逸。真っ暗な場面がほとんどなので館内自体も暗がりの沈む。その中での海との格闘劇は迫真そのものだ。しかしこの映画の価値は後半にある。奇跡の生還劇を果たしたこの漁船員は国民的英雄になるが、自分ひとりだけ生き残ったという負い目もある。映画のタイトル「ディープ」にあるように、この映画の深さはこの後半に示されている。こういう映画こそ映画館で観なくては真価がわからない。前半の苛酷なサバイバルと後半の重い帰島の両方がまさに自分自身の体験だったかのような気がしてくるのには、バルタザール・コルマウクルといういささかおぼえにくい名前の監督の実力が表れている。