彼女が消えた。鎮魂歌
彼女が死んでいた。
あの心の上でとろけるような、素晴らしい言葉を書く彼女が。
優雅の奥に、人生の残酷を映した言葉を、さらりと現す彼女が。
今年の事だった。
癌だった。
昨日、書店で思う存分さぼり、外に出ようとしたその時だった、
絶筆となる彼女の最期の本を見つけたのは。
死者たる彼女にふさわしい本の名だった。
思わず手に取り、中身を開き出した。
残念だ。
また、本当の言葉を書ける人が、消えた。
私が、人集めの道具として、言葉を鞭打つすきに、
私が、心にもない、偽りの笑顔として、言葉を整形しているすきに、
私が、破廉恥で、フシダラナ言葉を、羞恥心のカケラもなく、こうしてネットの闇に、吐き散らしているすきに、
彼女は消えてしまった。
清流のように輝清み、我が心を甘く慟哭させた、本当の言葉を遺したまま。
悲しい。
その言葉が、残された私からの、彼女へのせめてもの、鎮魂歌(レクイエム)である。