カテゴリ:連載小説-no title-
身体の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。
耳を塞ごうとすることさえ、できなかった。 何も、聞きたくない。 だが無情にも男の声は耳に滑り込み、脳内をかき乱す。 朔は、始めに質問を全て言った。 途中で、聞きたくないことや信じたくないことを聞いてしまい、聞かなければならないことを聞きそびれるのを防ぐためだ。 だが、それを心から後悔していた。 低い聞き心地の良い声が、今はただ恐怖の対象でしかない。 (い、や…だ…………) 口が震えながらも微かに動くが、乾ききった口内から声はでなかった。 内側から、壊されていく気がした。 カイの口から出る『シンジツ』は飛び出て刃となり確実に朔を傷つけた。 信じられないのではなく、信じたくないかった。 朔はあまりに突飛な話を、頭から否定できなかった。 否定できたら、どんなに楽だったか。 朔は嘘だ、と心の中で何度も呟きつつも頭がそれを許さなかった。 これは真実だと、何故か確信して告げるのだ。 直感でなく、カイを信じているからでもなく。 漠然と、だがはっきりと分かっていた。 知らない自分が頭の中にいて、語りかけてきている。 ぞわり、と悪寒が走る。 全身に虫が這い回っているような嫌悪感がした。 思わず両手で身体を抱きしめる。 話し終わったのか、カイの声がふと止む。 朔はただ、話し終わっても動かけなかった。 カイの言葉を否定することも、してもらうことさえも。 ただ漆黒の闇に彩られた真実に、押しつぶされそうだったのだ。 見下ろしてくる視線に、朔は気づかない。 その視線には同情の念も、哀れみもない。 ただ、カイは朔を見ていた。 「おい、カイ!」 暗く重苦しい雰囲気を切り裂いて、リベールが走りこんできた。 カイに耳打ちをして、二人で険しい顔で黙り込む。 「わかった。俺が行こう」 カイはそのまま走り去っても朔は身じろぎ一つしなかった。 「おい」」 不振に思ったのかリベールがうなだれ、膝をついている朔の肩を掴む。 朔はその温もりに思わず縋った。 「お、おいッ!」 狼狽しているリベールの胸元のシャツを掴み、引き寄せる。 (あ、たた、か、い) 服越しだが、確かに人の温かさがあった。 それがぼろぼろに崩れ壊れそうだった朔の心の壁を溶かした。 気が狂いそうなほどの激しい感情が、引きずり出された。 激情は悲しいからからでも、つらいからでもなかった。 ただ濁流のごとく、様々なものが濁って、溢れ出し、全てのモノを飲み込んでいく。 朔は絶叫した。 「わああああぁぁぁぁぁ!!」 不思議と涙はでてこなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年06月07日 21時24分35秒
コメント(0) | コメントを書く
[連載小説-no title-] カテゴリの最新記事
|
|