044663 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

綴

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2005年06月07日
XML
カテゴリ:連載小説-no title-
身体の力が抜けて、膝から崩れ落ちた。
耳を塞ごうとすることさえ、できなかった。
何も、聞きたくない。
だが無情にも男の声は耳に滑り込み、脳内をかき乱す。
朔は、始めに質問を全て言った。
途中で、聞きたくないことや信じたくないことを聞いてしまい、聞かなければならないことを聞きそびれるのを防ぐためだ。
だが、それを心から後悔していた。
低い聞き心地の良い声が、今はただ恐怖の対象でしかない。
(い、や…だ…………)
口が震えながらも微かに動くが、乾ききった口内から声はでなかった。
内側から、壊されていく気がした。
カイの口から出る『シンジツ』は飛び出て刃となり確実に朔を傷つけた。
信じられないのではなく、信じたくないかった。
朔はあまりに突飛な話を、頭から否定できなかった。
否定できたら、どんなに楽だったか。
朔は嘘だ、と心の中で何度も呟きつつも頭がそれを許さなかった。
これは真実だと、何故か確信して告げるのだ。
直感でなく、カイを信じているからでもなく。
漠然と、だがはっきりと分かっていた。
知らない自分が頭の中にいて、語りかけてきている。
ぞわり、と悪寒が走る。
全身に虫が這い回っているような嫌悪感がした。
思わず両手で身体を抱きしめる。
話し終わったのか、カイの声がふと止む。
朔はただ、話し終わっても動かけなかった。
カイの言葉を否定することも、してもらうことさえも。
ただ漆黒の闇に彩られた真実に、押しつぶされそうだったのだ。
見下ろしてくる視線に、朔は気づかない。
その視線には同情の念も、哀れみもない。
ただ、カイは朔を見ていた。
「おい、カイ!」
暗く重苦しい雰囲気を切り裂いて、リベールが走りこんできた。
カイに耳打ちをして、二人で険しい顔で黙り込む。
「わかった。俺が行こう」
カイはそのまま走り去っても朔は身じろぎ一つしなかった。
「おい」」
不振に思ったのかリベールがうなだれ、膝をついている朔の肩を掴む。
朔はその温もりに思わず縋った。
「お、おいッ!」
狼狽しているリベールの胸元のシャツを掴み、引き寄せる。
(あ、たた、か、い)
服越しだが、確かに人の温かさがあった。
それがぼろぼろに崩れ壊れそうだった朔の心の壁を溶かした。
気が狂いそうなほどの激しい感情が、引きずり出された。
激情は悲しいからからでも、つらいからでもなかった。
ただ濁流のごとく、様々なものが濁って、溢れ出し、全てのモノを飲み込んでいく。
朔は絶叫した。
「わああああぁぁぁぁぁ!!」
不思議と涙はでてこなかった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年06月07日 21時24分35秒
コメント(0) | コメントを書く
[連載小説-no title-] カテゴリの最新記事


PR

フリーページ

カテゴリ

お気に入りブログ

コンドルの系譜 第… 風とケーナさん

茜夜さん
リセット zakkballanさん
片桐早希 おむすび… 片桐早希さん

コメント新着

砂葉@ Re:青空ちゃん。さん こんばんは。 こちらこそご訪問、ありが…
青空ちゃん。@ Re:【幻】 序章 「原初の夢」(01/11) こんばんゎ♪ 砂葉SAN,訪問ありがとぅ…
砂葉@ Re:こもも2055さん こんばんは。 いつも感想ありがとうござ…
こもも2055@ こんばんは。 拝読するたびに、自分がいかに素人で戯言…
砂葉@ Re:こもも2055さん いつも感想、ありがとうございます。 感…

プロフィール

砂葉

砂葉

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.