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カテゴリ:笑いすごそう
学生時代、天王寺区で間借りしたおり、バイトとして年末の大掃除にかなり大きな民家に行った。数人の学生が来ており、すぐさま掃除が始まった。手ぬぐいを頭に巻いた余輩は居間のほうを担当させられ、当家の主人がいきなり「これかいて」と指図される。うん?このタンスをかく? どのあたりを掻けばよいのかな、なぜ掻くのやろ、と一瞬思案、躊躇していると、「なにをボヤボヤしとるんや」と主人の怒声が響いた。それは、タンスを動かすことを意味していたのである。
もうええわ!あんたは外に回ってくれ」ということで、玄関戸の水洗いに担当替えとなった。それ以外どんな作業をしたのか思い出せないぐらい大阪弁のショックを受けたが、後からは「かく」という言葉自体が可笑しいのとちゃうかと、自分を慰めた。 就職してからのこと、案件は未だに思い出せないが、船場のほうに売り込みに行った。相手の商人は「用件はなんや、ふんふん、うん、考えとくわ」と言わはるので、ああ良かったと喜び勇んで帰社した。翌日、「昨日の件はご検討いただいていかがでしたか?」と、良い返事を期待しながら電話をかけると、「ええっ、なんのこと」と埒が明かない。 大阪で仕事の経験のある方なら疾うにお分かりのことだが、「考えとく=断り」の婉曲な言い回しであったのだ。たしかに、はっきり拒絶する言葉は相手を傷つけるのを慮って編み出された大阪弁ではあるが、こんなのが人情的なのか疑問であった。 20数年ぶりに帰阪してからのこと、旧友にこの健康食品ええよと試食を勧めたとき、ちょっと考えとくということになり、後日、電話をしたら、そんなの要らんよと、今さらなに言うてんやという感じの素っ気ない返答に、こちらは言葉が詰まった。いまだに大阪人にはこの「考えとくわ」が生きていることを思い知らされたしだいである。 また、20数年前、上京して再就職したおりを振り返ると、大阪弁について周囲の東京人からなにかと注意された。商品についてのグループインタビューの司会を最終的には500回ほどこなすことになったのであるが、当初、ある食品類を机の上に並べながら主婦の意見を聴取したとき、「すみません、この食品を、いらわないでください」と話したら、一主婦が「それ大阪弁ですね、東京ではあまり気持ちよく聞こえない言葉です。さわらないでください、が普通です」と指摘された。この一言でかなり恥ずかしい思いをしたのを覚えている。 当時、大阪では「コミニュケーション」と発音、記述するようだが、東京での「コミュニケーション」が正しいのよ、と女子社員から教えられるなど、そんなこんなで大阪弁がええ加減身についてしまった余輩にとっては、気恥ずかしいことが多い東京生活であった。 なお、大阪弁に関しては、古本を50円で入手したものだが、生粋の大阪人、田辺聖子さんの『大阪弁おもしろ草子』(講談社現代新書)が楽しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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