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カテゴリ:緑仙の日々是好日
夕方の5時前に 「一杯呑める」ところを探すのは 思っているよりも困難です。 ファミリーレストランならともかく 居酒屋とか小料理屋とか パブ、ビストロなど この時間帯は営業していないところが 多いのが普通です。 それでも、地元に詳しいYさんが ちょっとしたお店に 連れて行ってくれました。 「わぁ〜〜良かったわやってる〜〜」 カウンターとテーブル席が4つの小さなお店。 まぁ、兎にも角にも 冷たいビールで乾杯です お昼にはお寿司をいただき お茶のお菓子も月見団子も食べているので そんなにお腹は空いていません。 そんなタイミングのビールや冷酒は 特に美味しく感じるものなんですねー 少しずつおつまみを注文して 語り合いました。 煎茶道のご宗家のこと。 親先生のこと。 茶道具や着物、茶会のこと。 一人暮らしのこと、お勤めのこと。 そして、これからのこと。 長いお付き合いなのに 個人的に一緒に飲んだり どこかに旅行に行ったりすることも 今まで一度もありませんでした。 お稽古が終わればそれぞれに帰ってしまうし 私だけ、とりわけ遠くに住んでいるので 帰る時間を気に掛けていて下さったり いつもは車だからお酒は誘えないという お煎茶のお稽古や茶会の20年余りでした。 さてと‥ 一つのところで長く何かをやっていれば どなた様でも ちょっとぐらいは嫌なことは あるものですが、 うっかり誰かに打ち明けてしまうと 仲間内にヒビが入ることがあります。 だから、言いたくても言えない。 他の古くからの友達も皆そうなのですが 私には何を打ち明けても ほとんど問題が無いのです。 口が堅い‥とも言えるけれど 何しろ、友達と距離的に遠くに居るので バレる恐れがほとんど無いのです。 今住んでいるところにも 友人はいますが 東京や京都の友達とは無縁な人たちですから 誰かに話すこともなければ たとえ、話しても誰のことなのか 調べようもありません 月が昇ってきて辺りが暗くなってきた頃に Yさんがこう言いました。 「25年もいる会社だけど辞めようかと思ってる。」 「小さくて古いマンションだけど 売ろうかと思ってる。 安くたたかれてもいいんだけど 損しちゃうかしら」 「田舎に帰って母の介護を考えてもいる。」 「田舎に引っ越しか‥。 あの家に住むのはね‥あちこち痛んでるし。」 「お茶も止めようかと思ってる。」 「もう結婚はしない。」 「でも、親は放っとけないよね。」 「弟は当てにならないし、親戚や従兄弟に頼ると あとが面倒な気がして‥」 おやおや‥ まぁあ‥ あまり穏やかではありませんね〜 ずっとお天気がハッキリしなくて 十五夜の月は見ることが出来ないかも 知れないと言う天気予報だったのに‥ 夜空に神々しいほどに 輝いていた中秋の名月。 私は Yさんにどうしろ、こうしろと言うつもりは 毛頭無いけれど‥ たった一言、私は思い切って自分の意見を Yさんに伝えました。 「やっぱり、親は捨てられないもの‥ 母親でも父親でも自分の面倒は 娘に見てもらいと思ってるし 親って娘のことは自慢したいのよ。」 Yさんはぐ〜ッとビールを飲み干して‥ 「背中を押してもらったような気がします。」 と、腑に落ちた感じで 少し笑っていました。 「お腹、空いてきましたね〜 この店、お蕎麦もあるみたいですよ。」 「じゃあ、一人前頼んで 二人で分けましょうか」 「わぁ〜炊き込みご飯まで付いている」 二人で仲良く取り分け、 大きな天ぷらも半分にして 新蕎麦を頂きました。 「緑仙先生、旅しませんか そんなに遠い話じゃなくて‥ あ〜でも年内はちょっと難しいかな」 「どこに行きたいの」 「う〜〜ん、歴女なので先ずは京都、 それから阿智村‥」 「京都ならお任せを‥ 阿智村‥お星様」 「そうです。星です。」 そんな、月と星に囲まれて お喋りをして時間はあっと言う間に 過ぎて行きました。 家にたどり着いて門のところで 空を見上げると 満月と木星と土星がよく見えました。 Yさんは多分、田舎へ帰る気持ちを 固めたように感じました。 人生は長くやっていると 面白い‥ 長くお付き合いして いつからか信頼し合っているからこそ 言える話もあるのです。 今年のお月見は 思い出深いお月見になりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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