第14回チャイコフスキーコンクールの覇者をうらなう その2
本選で弾かれたコンチェルト2曲。これまでのソロ&モーツァルトのコンチェルトとは印象がガラッと変わりました。過去のアーカイブで聴けなかったロマノフスキーのソロがアップされたことも大きいです。1回のコンクールで3曲のコンチェルトを弾かせるということを考えると、入賞者に求められる要素としてコンチェルトに重きが置かれていると思われます。本選で弾かれたコンチェルトに抱いた感想に重きをおき、大胆にも入賞者を予想します^^; Alexander Romanovsky (Ukraine)TCHAIKOVSKY Concerto for Piano and Orchestra No. 1 in B-flat minor, Op. 23RACHMANINOFF Concerto for Piano and Orchestra No. 3 in D minor, Op. 30個人的には一番印象が変わりました。こんなに熱い人とは思っておらず、律儀なロマン主義を引き継ぐ古き良きピアニストの末裔と思っていました。インテンポで攻めるチャイコフスキー。爆音で攻めるタイプではなく左右の音の絶妙な掛け合いを得意とします。冒頭の有名な和音の正確さ、続く主題の掛け合いも説得力あり。少し飛びますが3楽章の冒頭からインテンポで攻め続け、早めのオクターブ連打からクライマックスへ一気。スマートでクールな好演です。ラフマニノフも冒頭からインテンポで攻め続け、彼への印象が変わりました。カデンツァは大カデンツァ。ここは高音のメロディーを意識したカデンツァでちょっとバスの物足りなさを感じましたが彼の特色でしょう。小カデンツァの方が似合うかもしれません。しかしラフマニノフ特有の妖しいメロディーライン、特に左右の手の駆け引きと微妙な内声の浮き立たせ方は彼に分がありました。また終始インテンポで攻め続けるものの、乱れぬ髪形はさすがのものでした。そんな頃ソロのブラームスのパガニーニもアップされ、なるほど熱い人だったのかと気づきました。過去1位無しの2位になったルガンスキーと印象が重なります。 Seong Jin Cho (Korea)RACHMANINOFF Concerto for Piano and Orchestra No. 3 in D minor, Op. 30TCHAIKOVSKY Concerto for Piano and Orchestra No. 1 in B-flat minor, Op. 2315歳の頃から見続けているので好みが入っていましたが、本戦では評価を下げました。若気の至りを感じさせるラフマニノフ。特有の妖しい旋律が奏でられず終始元気かそうでないかの演奏だったと思います。テクニシャンの彼らしくなく、大カデンツァも手につかない感じでもったいない演奏でした。チャイコフスキーの冒頭の和音もワンテンポ遅れる感じで拍子抜け。恐らく大音響のオーケストラの音と意識して半音ずらしていたのでしょう。逆効果に感じます。続く主題や3楽章ではようやく彼らしいインテンポを突くメロディーラインになりました。とはいえ終始もたつきが感じられ、3楽章のオクターブ連打はやや遅め、バスの音量重視で爆裂タイプの演奏はちょっと違うかなぁの印象。極端なアゴーギグ、またバス効果は聴衆に影響があったようですが。個人的には感心しませんでした。いつもの彼のインテンポ・オラオラS系演奏からすると想像し難い内容でした。Daniil Trifonov (Russia)TCHAIKOVSKY Concerto for Piano and Orchestra No. 1 in B-flat minor, Op. 23CHOPIN Concerto for Piano and Orchestra No. 1 in E minor, Op. 11地元で大人気かつ秀演。優勝候補ナンバーワンのダニイル君。チャイコフスキーは冒頭から煌びやかな和音でホール中を輝かしい色合いに染めていました。演奏は熱狂的でこの曲の本質を肌で感じてきたのでしょう、文句のつけようがありません。「全編ダニイル色」で想像がつくと思います。聴衆の拍手もしばらく続き、指揮者もメロメロでダニイル君の腕を上げちゃったりして。コンテスタントの中で唯一弾かれるショパン。チャイコフスキーとラフマニノフが続き食傷気味の皆様がさぞ堪能するであろうショパン。しかし聴衆の拍手が思ったほど盛り上がらなかったのを見ると現地の人たちも感じたかもしれません。ダニイル人気の中であえて申し上げると、ちょっと凡庸か。きっちり弾いているのだけれど、ややもするとラブソングに繋がるショパンのコンチェルトをきっちり弾きすぎている感がありました。特には1楽章、2楽章。面白みに欠けるといえば欠けてしまう、コンテスタントレベルではなくプロのピアニストレベルからすると「普通」。3楽章もクライマックスのコーダは煌びやかな聴かせでしたが、そこに至るまではピアニストのレベルとして「普通」と感じました。2010年ショパンコンクール、幸福のピアニスト唯一スタンディングが止まなかったヴンダーの1番。2005年2位無しの1位で圧巻の真珠の粒をぶちまけたブレハッチの1番。ショパンというとどうしても彼らが脳裏に思い浮かんでしまいました。これまでの演奏を聴くにダニイル君の立ち位置は間違いないのでしょうけれど、欲をかくとこんなことが感じられました。お辞儀をしながら上着を脱いじゃうあたりが彼らしくてかわいかった^^ 熱演でした。Yeol Eum Son (Korea)RACHMANINOFF Concerto for Piano and Orchestra No. 3 in D minor, Op. 30TCHAIKOVSKY Concerto for Piano and Orchestra No. 1 in B-flat minor, Op. 23ラフマニノフはスタインウェイ、チャイコフスキーはヤマハで演奏。3人弾いたラフマニノフは一番妖艶な演奏でこの曲を引き立てていました。テンポもメロディーもラフマニノフ特有の内声も左右の掛け合いも絶妙。大カデンツァは今回一番の壮大なドラマを演じ高音に続くバスの爆音に手に汗握りました。男の英雄が奏でるこのコンチェルトを最後まで揺ぎ無く弾いたものです。チャイコフスキーはヤマハで演奏。冒頭の和音が何とも重厚でヤマハ新型グランドCFXのポテンシャルを聴いた思いです。このコンクールこれまで聴いたチャイコフスキーで一番素晴らしく王道ど真ん中のテンポ、メロディー。女性ながら十分な音量。地元贔屓なモスクワの聴衆も静まり返って聴き入っていました。個人的には3楽章。オクターブ以降の圧倒的な演奏には感極まって涙ながらに聴いていました。韓国ピアノ界若手最高峰、ソンさん圧巻のコンクール最後の演奏でした。ダニイル君にも無かった花束、舞台上へのサイン攻撃が、ソンさんが今回つかんだモスクワの聴衆心理でしょう。クライバーンが当時得た心境を思い浮かべます。Alexei Chernov (Russia)TCHAIKOVSKY Concerto for Piano and Orchestra No. 1 in B-flat minor, Op. 23BRAHMS Concerto for Piano and Orchestra No. 1 in D minor, Op. 15チャイコフスキー、冒頭の豪快な和音で審査委員のブロンフマンを思わせる!しかしそう思ったのも序盤のみ。序奏のこの和音、後半では遅れ出す・・・。うむむ、彼の実力はそんなもの?その後もなんとなく音符♪に対して半分くらい遅れるような演奏スタイル。冗長で緩慢に感じてしまいます。まあ、聴かないわけにいかないので聴いてますが、均質でない音質、音量、テンポに苦痛です。そしてまたもやスタインウェイにFAZIOLIの椅子を使う^^; アレックさんに怒られるぞ。ブラームス、冒頭から耳に入ってこない。もさくさしていて凡庸な演奏に終始している感。マイク位置も変わっていないのでしょうが、音が飛んできません。恐らくメロディーライン、特に和音続きでメロディーを奏でる際にひとつ一つの和音の強弱が違いすきてメロディーにならないことが原因だと思います。リハーサルでオケの皆さんが寝てしまった理由がここにあるような気がします。これを書きながら2楽章を聴いていますが私ものめりこめません。リハの時もひたすら楽譜を見ていたなぁ。まだ弾きなれていないのかもです。3楽章もブラームスの特色ある旋律が出てこず、遠慮している感じ。カデンツァもなんら秀でず。コンクールでは番狂わせがありますが、彼が本戦に残ったこともそういうことなのでしょう。地元にしては拍手が淡白でしたかね・・。身内みたいな人が陣頭指揮とって盛り上げてましたが。で、本選の演奏から入賞者をうらなう。ダニイル君は聴衆贔屓もあり優勝間違いないでしょう。本音申し上げますと、演奏は過去のクライバーンに始まりアシュケナージ、ソコロフ、ガブリーロフ、プレトニョフといった優勝者と比べちょっと大人しかったことは否めないことはないです(上原さん除く)。ただ過去チャイコフスキーコンクールでは聴衆に人気があるものの入賞できない者には特別賞を与えていますが(スルタノフなど)、ダニイル君のポテンシャルをもってしては別です。男の目から見て、かわいいし、演奏も上手だし、悔しい(笑) このコンクールで並ぶ人がいないです。二位は、ソンさん。またはソンさんとロマノフスキー。三位は、ロマノフスキー(ロマノフスキーが二位なら、三位は空位)。四位が、チョ君。五位は、ここにいるのも不服ですがチェルノフです。前回予想と比べ、だいぶ変わりました。果たして結果はいかに!!