わたしはときどき貝になりたい
母が亡くなって1年4か月。たまに、まだ母の死を知らないひとから、母はどうしているのかと尋ねられることがある。もちろんはっきりと「亡くなりました」とは伝えるが、それに重ね、あれこれ詳しく訊きたがるひとがいる。はたしてこちらはそれにいちいち答えねばならないのだろうか?返答するたびに、母が弱っていった日々をおもいだし、まるで自分の無力さを責められているようで、かさぶたの傷口から、再び出血しだすのだ。もちろん相手に悪意はないだろう。が、「親父さんのほうが先(に逝く)とおもっていた」などと言われると、正直、怒りがわく。亡くなった母より6才年上の父は持病はあるものの存命。杖が手放せない今も、なるべく自分のことは自分でしようと日々生活しているのだ。なので、”あなたに何か迷惑でもおかけしましたか?”と問いたくなる。そんなわけで、自分にそんな負の感情が湧き立つくらいなら、最初から、「おかげさまで、両親ともに元気です」と、何食わぬ顔で言ってもいいのじゃなかろうかともおもうのだ。