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2011年10月13日
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エル・フィンとともに銀髪の上司殿と正対したオーディンは思わず舌打ちした。

長い銀髪を背に流した流麗な余裕のある立ち姿には、まったく隙がない。
いったいどこから仕掛ければいいというのだ。

目の隅でエル・フィンの気配を追うと、じわじわと相手の背後に回りこんでいるところだった。
彼が上司の死角に入った瞬間、オーディンは仕掛けた。

しかし斜め上から振り下ろした剣は、なめらかに踏み出しながら突き出された木刀に軌道を変えられてしまう。
アルディアスは踏み込んだ片足を軸に回転しつつエル・フィンの剣を鮮やかに受け流し、そのまま円弧を描いてオーディンの胴を攻撃した。

ガキン、という音とともに黒髪の男が下げた鍔元で受け止める。同時にエル・フィンが猫のように背後から飛びかかった。

上司が長い銀髪を風になびかせ、斜めに一歩退くと同時に下から上にすくいあげるように刃がエル・フィンを襲う。
彼は咄嗟に飛び退り、ぎりぎりでそれをかわした。

「さすが、なかなかいいコンビネーションだね」

アルディアスの眼が楽しそうに細められる。

「恐れ入ります」

ひそかに息を整えながらエル・フィンは応じた。
上司の剣筋は優雅といってもいいほどでありながら、スピードは恐ろしく速い。
二人がかりでもついてゆくのが精一杯だった。

しかしこの人と対戦していると、少しずつ自分の動きにも無駄がなくなってゆくのがわかる。
それがエル・フィンには楽しかったが、もしかしたら上司はそれを承知で導いてくれているのかもしれなかった。

厚い掌をうちわにして顔に風を送りながらセラフィトが笑っている。

「オルダス、まだスピードが落ちねえのか。お前の体力も半端じゃねえな、相変わらず」
「君に言われたくないね、セリー。私ひとりだったら、対戦はせいぜい三十人が限度だよ。誰のせいで倍になったんだい」
「もちろん合同演習のせいだな。いいじゃねえか、半分こで一人頭はやっぱ三十だ」

飄々と責任転嫁をしておいて、セラフィトは二人の対戦者を見た。
はずみかけていた息を整えることには成功したようだ。もっとも、アルディアスにとっても休憩時間になってしまっただろうが。

「二人とも頑張れよー。オルダスに勝ったら好きなもん奢ってやるからなー」
「あんた、絶対ないと思ってるだろ」

ぼそっと呟くオーディンに、セラフィトが悪びれず歯を見せて笑う。

「ばれたか。じゃ、オルダスを本気にさせたら、にハードル下げてやるから、とにかく頑張れ」
「セラフィト様……それも怖いんですが」
「大丈夫、死にやしねえよ。よかったな、味方で」

物騒なことをさらりと言って、開始の合図というようにセラフィトは軽く首を振った。
いっときリラックスした三人の集中力が、またぴんと高められてゆく。

友人と部下の漫才に笑っていたアルディアスは、流れるような動作で木刀を構えた。
今度はこちらから攻めてゆこうか。

「では行くよ?」

穏やかな声とともに、ふ、と上司殿が微笑んだような気がした。

次の瞬間、頭の上に危険を感じてとっさに腰を落とし、左手で構えた剣の平に右手を添えて防御する。
びりびりと腕を伝う重い衝撃が、エル・フィンのその行動が正しかったことを証明した。

「よく止めたねえ」

おっとりした声が降ってくる。

「恐、縮、です」

三段階に力をためて、覆いかぶさっている長身を渾身の力で押し戻す。
同時に立ち上がり、背後に撃ちかかるオーディンの剣と挟撃すべく間髪入れずに斬撃を放った。

退路を絶たれたはずの上司殿は、しかし焦りもせずに反転しつつ木刀を斜めに構えると、さらりと二人の攻撃を受け流した。

オーディンは右利き、エル・フィンは左利き。つまり通常、剣筋はほとんど左右逆になるため、挟撃されれば同じ回転方向に両方を受け流すことは難しい。
そこは二人の有利な点であるはず……なのだが、こうも素早くあっさりとかわされると、何がどうなってそうなったのかもよくわからない有様だった。

「オーリイ、今のわかったか」
「わからん。挟み撃ちにできると思ったんだが、気づいたらこうだ」
「……だよな」

二人は首を振った。
観客席に視線を流すと、にやにや笑っているセラフィトを除き、皆それぞれ首を横に振っている。どうやら解説してくれそうな人間はいないらしい。
それでも一応、エル・フィンは声をかけてみた。

「セラフィト様……聞いても無駄ですよね」
「おう。だが約束どおり奢ってはやるよ」

言われて銀髪の上司を改めて見れば、その夜空の瞳からわずかに色が退いていた。
どうやら半分ほど本気にすることはできたらしい。
わざわざ自分達の退路を絶ってしまったような気もするが。

オーディンは剣を構えながらじりじりと半円を描くように移動し、タイミングを計っていた。

上司殿の立ち姿は、相変わらず舞の一場面のようだ。
その微笑がにっこり、から凄絶、に印象を変えつつあるように見えるのは、たぶんこちらの気のせいだろう。
気のせいであってほしい。

せっかくその微笑から逃れたと思ったのに、ふいと明るい空色になった瞳が楽しげにオーディンを捕らえた。

「次はオーリイだね。いいかい?」

オーディンは返事をしなかった。
それどころではなかったからだ。

すべるように間合いを詰められたと思う間に、右、左、右と鋭い斬撃が立て続けに襲ってくる。
ほとんど本能と歴戦の反射神経で防ぎながら、それでもオーディンはブルースピネルの瞳を細めて反撃の機会を狙った。

ここぞと思った一瞬、大きく踏み出し正面から本気の一撃を放つ。寸止めできるかどうかも危ういスピードと重さ。

しかしアルディアスは逆に半歩踏み出したと見るや、刃をあわせながら上半身をひねってその勢いを見事にいなした。
力いっぱい撃ちかかった分、いなされれば自分の力の慣性ではじかれてしまう。

「エル・フィン!」

斜め遠くに軌道をそらされ、よろめいた体勢を立て直しつつ、オーディンは叫んだ。
上司は彼の一撃をいなした勢いをまったく殺さずに僚友に撃ちかかっていったのだ。

エル・フィンが危ういところで斬撃を防ぎ、ほっとしたのも束の間、今度は電光のような突きがオーディンを襲う。
慌てて身体を開いて避けようとしたが、気づくと木刀はぴたりと彼の心臓の上に切っ先を構えていた。

(うへえ、かなわねえ)

避けられるかと思ったのだが、これは完全に勝負ありだ。

固唾を飲んで見守っていた観衆から拍手が沸き起こり、オーディンは息をついて剣を下ろす。
そのときにはもう、上司殿は金髪の青年と剣を合わせている最中だった。

一合、二合。そこまでは防ぎきったエル・フィンだったが、応援のいなくなったところで三合目に剣をはじきとばされた。

試合終了。

三人が顔を合わせて一礼すると、周囲から大歓声があがった。

















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アルディアス部隊ではこういう試合が日常で、とても楽しかったですw



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最終更新日  2011年10月13日 15時36分20秒
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