テーマ:お勧めの本(7220)
カテゴリ:本
これは絶対に読むべき一冊!
以前から自分が読みたい本の上位にあったのですが、今回入院した病棟の面会室に共有図書として置かれていたので、この機会に読もうと、入院期間の後半はずっと読んでいました(読み出したら面白さに夢中でした!) 結果的には、歴史物のノンフィクションというのは過去の記憶から情報を呼び出してきて整合させるという作業が入るので、手術後読書再開時の娯楽小説から今後読む純文学などへの中継の一冊としてちょうどよかったかなと。 作品は、文藝春秋編集長などを歴任した作者の戦争末期を舞台にした素晴らしい超力作ノンフィクション 丁寧な取材で思い込みや推察をなるべく廃し、「事実」はどうだったのかに迫ろうとしていると思います。 予備知識としてこのあたりの歴史が全く分からないと難しく感じるかも知れませんが、詳しく知っていなくとも十分面白く読めるのではないかと思います。 自分は以前に「日本軍はなぜ敗れたか」というような本(組織論としての陸軍と海軍の対立などが書かれていたと記憶)を読んでいましたが、二・二六事件がどんな出来事だったかなどがなんとなくでも分かっていれば十分ではないでしょうか。 歴史物は、時間が経つと関係人物達の証言が得られなくなったりバイアスがかかったりすることで不明点が増し物語性が強くなっていく(例えば牛若丸のように)ので、この作品は終戦時の記録とそのときの日本人の意識が垣間見られる貴重な作品(資料)になっていると思います。 ■百田尚紀「影法師」をこの前に読んでいたせいか、(陸相を代表とする)登場人物たちの行動に侍から続く武士道を思い起こしましたが、逆に百田尚樹は(当然この本を読んでいるでしょうから)この本の登場人物達から昔の侍をイメージしていった可能性もあるのではないかなと思いました(武士道を象徴していると言われる書物がどこまでの客観性を持っているかは現代から計れない所も多いと思うので) 前半はポツダム宣言を受諾し敗戦を決定すること、後半は、その後勃発したクーデターという二つの読みどころがあるというのが自分が感じた大きな流れ。 全編を通して一番中心に置かれている人物は阿南惟幾陸軍大臣(陸軍大将) 前半は、国家の命運を左右する場面に立ち会うことになった重要人物たちの人間ドラマ。 後半は、事実は小説よりも奇なりというサスペンスドラマ。 自分が特に面白いと感じたのは前半。 各人物達の背負っているものは今では考えられないほど重い。 作中で新聞記者が「もっと早く戦いをやめられなかったのは重臣達の無責任からではないか」と思っていたとの文章がありますが、責任を一身に背負っていたからこそのドラマがここにはあったのだということが本当によくわかります。 その中でも徹底抗戦を叫ぶ者が多い陸軍を従えていた阿南大将の一挙手一投足が詳細に描かれています。 注に、志賀直哉の「鈴木貫太郎首相は日本という沈みかけの船を終戦という港に何とか漕ぎ着けた」というエッセイが取り上げられていますが、阿南大将は陸軍といういつどのように荒れ狂うか分からない暴れ馬を御そうとするために全てを尽くしたというのがよくわかります。 あっさりとポツダム宣言を受け入れたり、簡単に辞任や自刃の道を選ぶことが日本をさらなる混乱に陥らせてしまうことを十分に認識し、そのうえで閣議、御前会議に臨み、ギリギリの到達点を探る。 大きな力で動いているものを当初の目標とは違う結末へ帰着させることの困難。まして、それまでの統制の叱咤激励が現時点で帰着させようとしている点とは逆のベクトルになっている中で。 全てをかけて対処をしたにも関わらず(「聖断は下った。不服のものは阿南の屍を越えて行け」とまで言ったにも関わらず)、クーデターは起こってしまったので、これでもし阿南大将の尽力がなく早々に陸軍の統制が崩壊していたなら日本はどんな惨状になっていたのだろうと想像すると恐ろしい。 責任を取るとはどういうことなのか色々考えさせられます。 よく、責任を取って辞任(辞職)というのを聞くことがありますが、それは責任から逃れているだけのことが少なくないのではと、この本を読んだ後は感じてしまいます。 取りうる最善の到達点へ帰着するために尽力することが責任を取るということの最低限のステップかなと。 クーデター発生からの後半は手に汗握るサスペンス。 叛乱軍が宮城を支配するような状況、玉音放送の成否も反乱軍の手中に入りそうに。 こんなことが事実として起こっていたとはと、読みながらすごいドラマだったと改めて驚かされました! そして、全編を通じて印象に残ったのは、敗戦詔書作成に関わった宮内省職員や玉音放送に関わった放送局員、クーデターにより近衛師団長が殺害され情報が錯綜する中で着任していた軍人達。 歴史の中心にいた重臣達ほど個々に重い決断は迫られなかったかもしれませんが、失敗は絶対に許されない状況の中で各々の職務を忠実に正確に実行していく姿が感動的。 阿南大将はじめ重臣たちに「日本は必ず復興する」と思わせた(玉砕ではなくポツダム宣言を受諾しようと思わせた)のはこういう人々の存在が小さくなかったのではないかと思います。
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