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**************** カレーを煮込みながら、おじやじゃなくて玉子丼でもいけると言われたので、美並は準備を進めて行く。 以前は部屋になかった炊飯器が湯気を上げ、増えた二人分の色々な形の食器から丼を選び出し、テーブルに並べて行くと、真崎が箸を並べ始める。お仕置きはどうしたのかと突っ込みたいところだったが、美並も少し疲れて来たから、真崎の気配はありがたかった。 カレーは冷めてから冷凍にすることにして、鍋を火から下ろした。ちょうど仕上がった玉子丼をテーブルに置く。 「……何かありましたか?」 いそいそと前に座った真崎に尋ねてみた。 「うん。恵子さんが電話して来た……いただきまぁす」 さらりと真崎が言い放ってぎょっとした。 「いつものつまらない遣り口だよ………あつっ」 急いで口に運び過ぎたのだろう、蓮華から口を離しながら、真崎が少し涙ぐむ。 「……でも、もう掛けてこない」 「…どうして?」 恵子のことだ、よほどのことがない限り、撥ね付けられた程度では怯まないだろう。 「…ふふっ」 真崎がまたもや妙に色気のある笑い声を零した。 「何?」 尋ねながら気づく。 「悪いこと?」 「うん」 珍しくしっかり丼を片付けていきながら、真崎が目を細め、とんでもないことを言い放った。 一体何をしでかすのやら。と言うか、何だろうこの限界突破暴走傾向は。 水を流して食器を浸し、はたと気付く。 いや確かにこう言うキャラだった。むしろ、最近がいろいろなことが重なってへたっていただけで、真崎京介と言うのは元々こう言う男だったのでは? 「じゃあ…本来の姿に…戻ったってこと……?」 頭が痛くなる。元気なのは嬉しいが、それにしても。 「……ごめん、美並」 慌てて近寄って来た真崎が後ろから抱きついて来て固まった。 「あんな人に美並とのこと聞かせちゃってごめん」 きゅううと抱きしめてくる力は強い。声が蕩けている、首筋に当たる息も熱い。それでも美並が答えずじっとしていると、やり過ぎたと気づいたのだろう、見る見る背後の気配はしょんぼりした。 「でも、もう二度と掛けてこないと思うから」 それはそうだろう。誘惑しようとした相手から、別の女を想っての声を聞かされるなど、恵子にとっては屈辱でしかない。同じことを繰り返されると思うだけで、番号を見るのも不快だろう。 「……はぁ…」 思わず深く溜め息をついた。 理屈はわかる、恵子の気性を知っていれば、一番効果的な方法だ、だが。 「美並?」 すりすり、と真崎は抱き竦めた美並に頬をすり寄せる。 「……お仕置き、諦めるから」 間違っていないか、そもそも『お仕置き』の概念が。 溜め息を重ねる。 とりあえず、真崎は真崎なりに反撃し撃退したのだ、いつも飲み込まれて良いように扱われてきた相手に対して。しかも美並の存在を主張してくれつつ。 それは単純に嬉しい。やり方に問題はあったとしても。 「お仕置きは、しません」 「うん」 「怒ってますから」 「……うん」 抱きしめる力は弱まらない。むしろ、ぴったりくっつく体から主張する熱がある。 どこが『諦めている』のか。 「…京介」 「はい」 「私は怒ってるんですよ」 顎を上げて見上げる。見下ろした京介が目元を染めて不安そうに瞬く。可愛い。そうだ、美並もまた、真崎を欲しているし、愛したい。 「どうして私以外に、そんな声を聞かせたの?」 「……っ」 真崎の顔にぱああっと明るい朱色が広がった。 「寂しかったから」 「やっていいことと悪いことがあるでしょう」 「うん」 にこにこ嬉しそうに崩れた顔がキスを求めてくるのに応じる。口を離した真崎が甘えた声でねだる。 「うんと慰めて、美並」 「いいえ、一人で頑張って」 「…っ」 「どうやって気持ちいいことしたのか、ちゃんと見せて」
一瞬強張った真崎は、微笑む美並になお濃い紅に染まりながら、はい、と小さく頷いた。 **************** 今までの話はこちら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2019.04.22 16:48:59
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