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2019.04.22
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 カレーを煮込みながら、おじやじゃなくて玉子丼でもいけると言われたので、美並は準備を進めて行く。

 以前は部屋になかった炊飯器が湯気を上げ、増えた二人分の色々な形の食器から丼を選び出し、テーブルに並べて行くと、真崎が箸を並べ始める。お仕置きはどうしたのかと突っ込みたいところだったが、美並も少し疲れて来たから、真崎の気配はありがたかった。

 カレーは冷めてから冷凍にすることにして、鍋を火から下ろした。ちょうど仕上がった玉子丼をテーブルに置く。

「……何かありましたか?」

 いそいそと前に座った真崎に尋ねてみた。

「うん。恵子さんが電話して来た……いただきまぁす」

 さらりと真崎が言い放ってぎょっとした。

「いつものつまらない遣り口だよ………あつっ」

 急いで口に運び過ぎたのだろう、蓮華から口を離しながら、真崎が少し涙ぐむ。

「……でも、もう掛けてこない」

「…どうして?」

 恵子のことだ、よほどのことがない限り、撥ね付けられた程度では怯まないだろう。

「…ふふっ」

 真崎がまたもや妙に色気のある笑い声を零した。

「何?」

 尋ねながら気づく。

「悪いこと?」

「うん」

 珍しくしっかり丼を片付けていきながら、真崎が目を細め、とんでもないことを言い放った。
(中略)

 一体何をしでかすのやら。と言うか、何だろうこの限界突破暴走傾向は。

 水を流して食器を浸し、はたと気付く。

 いや確かにこう言うキャラだった。むしろ、最近がいろいろなことが重なってへたっていただけで、真崎京介と言うのは元々こう言う男だったのでは?

「じゃあ…本来の姿に…戻ったってこと……?」

 頭が痛くなる。元気なのは嬉しいが、それにしても。

「……ごめん、美並」

 慌てて近寄って来た真崎が後ろから抱きついて来て固まった。

「あんな人に美並とのこと聞かせちゃってごめん」

 きゅううと抱きしめてくる力は強い。声が蕩けている、首筋に当たる息も熱い。それでも美並が答えずじっとしていると、やり過ぎたと気づいたのだろう、見る見る背後の気配はしょんぼりした。

「でも、もう二度と掛けてこないと思うから」

 それはそうだろう。誘惑しようとした相手から、別の女を想っての声を聞かされるなど、恵子にとっては屈辱でしかない。同じことを繰り返されると思うだけで、番号を見るのも不快だろう。

「……はぁ…」

 思わず深く溜め息をついた。

 理屈はわかる、恵子の気性を知っていれば、一番効果的な方法だ、だが。

「美並?」

 すりすり、と真崎は抱き竦めた美並に頬をすり寄せる。

「……お仕置き、諦めるから」

 間違っていないか、そもそも『お仕置き』の概念が。

 溜め息を重ねる。

 とりあえず、真崎は真崎なりに反撃し撃退したのだ、いつも飲み込まれて良いように扱われてきた相手に対して。しかも美並の存在を主張してくれつつ。

 それは単純に嬉しい。やり方に問題はあったとしても。

「お仕置きは、しません」

「うん」

「怒ってますから」

「……うん」

 抱きしめる力は弱まらない。むしろ、ぴったりくっつく体から主張する熱がある。

 どこが『諦めている』のか。

「…京介」

「はい」

「私は怒ってるんですよ」

 顎を上げて見上げる。見下ろした京介が目元を染めて不安そうに瞬く。可愛い。そうだ、美並もまた、真崎を欲しているし、愛したい。

「どうして私以外に、そんな声を聞かせたの?」

「……っ」

 真崎の顔にぱああっと明るい朱色が広がった。

「寂しかったから」

「やっていいことと悪いことがあるでしょう」

「うん」

 にこにこ嬉しそうに崩れた顔がキスを求めてくるのに応じる。口を離した真崎が甘えた声でねだる。

「うんと慰めて、美並」

「いいえ、一人で頑張って」

「…っ」

「どうやって気持ちいいことしたのか、ちゃんと見せて」

 一瞬強張った真崎は、微笑む美並になお濃い紅に染まりながら、はい、と小さく頷いた。

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Last updated  2019.04.22 16:48:59
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