「氷屋がやって来た」 その十二
ロッキー (もったいぶって」そうだ、君達に会ったが、銭の顔をまだ拝んじゃいないよ。パール (マギーにウインクして、宥めるように)仕事の事をいってるのでしょ、マギー。マギー そう、私らの小あきんど。それが彼よ。ロッキー さあさあ。当てこすりか。 (二人の娘はそれぞれがスカートを引き上げて、ストッキングからお金を取り出した。ロッキーはこの動きを注意深く見ている)パール (面白がっている)笛を吹いておやりよ、マギー。マギー (同様に面白がって)驚いてお金を差し出さなければ。パール 彼のひったくり方、仕事をくれているんだからね。(札を丸めた物をロッキーに差し出した)さあ、どうぞ、詐欺師さん。マギー (同様にして)喉を詰まらせないといいのだけれど。 (ロッキーは素早く金の計算をすると、それをポケットに押し込んだ)ロッキー (愛想よく)君達可愛子ちゃん達は俺に苦しみを与えるのだよ。もし俺がいなかったならば稼いだお金をどうするつもりなのだね。女衒にでも貢ぐつもりかい。パール (からかうように)同じことでしょうよ。(性急に)悪くは思わないで、ロッキー。ロッキー (目をこわばらせて、ゆっくりと)俺には違いはあるよ。パール 絡まないでよ。冗談くらいは許してよ。マギー そう、ロッキー、パールはちょっと冗談を言ったの。(慰めるように)定職を得たそうだね。だから好きなのだわ。あなたは私達を食いっぱぐれにはしないしょ。あなたはバーテンダーだからね。ロッキー (再び上機嫌で)確かに、俺はバーテンダーだ。俺を知ってる誰もが承知していることだよ。そして俺は君達若い娘をどう遇したらよいか熟知している。君らが俺に助けを求めるが、それはちょっとしたことだから、知恵を授けたりする。君らは気のいい娘さ。宝物なんだよ。パール あなたも私らにとっては宝物さ。そうでしょう、マギー。マギー そうよ、切り札だわ。 (ロッキーは独り悦に入って笑い、グラスをバーに持って行く。マギーが囁いた)おバカさんね。ああいう冗談めいた事を言って彼を怒らしてはダメじゃないの。彼が乱暴を働いても尽くさなければダメなのよ。パール (誉めそやすように)一度怒らせたら、彼はとことんあなたを打ちのめすに違いないのだからね。ひどく気性が荒いからねえ。マギー 私等には女郎屋の主人はいないのさ。古いタイプの売春婦とは違うからね。私等の方が程度はましだ。パール そう、売春婦さ。ただそれだけさ。ロッキー (バーの後ろでグラスをすすぎながら)コーラは三時頃に戻るだろうさ。彼女はチャックを起こして、引きずり出して干し草売り場へ行かせたよ。(吐き捨てるように)奴の突っ立っている様を想像してみろよ。マギー (同じく吐き捨てるように)私は賭けてもいいが、二人はじゃれあいながら結婚するパイプドリームを弄んじゃあ、農場で仕事しているさ。チャックがワゴンに乗っている時には二人は決して麻薬を手放さないから。誰かが話しかけさえしなければ、二人はダボラを吹くのを止めやしない。パール そうさ、チャックはあのブサイクな顔にバカ笑いを浮かべてるし、コーラは女学生気分で赤ん坊などは何かの妖精が煙突から投げ入れてくれるとでも信じているみたいに、振舞うのさ。マギー そして彼女はあんたと私よりずっと前に競馬業に携わっていた。そしてふたりは何時でも議論していた、コーラは怖いんだって。彼が飲んだくれてばかりだから結婚するのが。ほんの少しでも彼の飲酒はコーラを怯えさせるのさ。パール あの大嘘つきが誓約したりする、もう雑誌を買ったりはしない、と。そして彼女は騙されたふりをする。こうして話していても、苦しいんだよ。私たちは彼らを迎えに馬車を借り出す電話をする必要がありそうだ。 ロッキー (テーブルに戻って来て、憤慨して)そうだよ、このゴミ溜りの中で全部のパイプドリームが最悪の不潔さを露呈しているよ。何もそれを止められないのだ。彼らは何年も夢を見続けている。チャックがワゴンに行く毎にだ。俺はそれを誇大に飾り立てたりはしないよ。何が奴らを結婚に駆り立てるのだろうか。しかし農場の従業員は一番のろまな奴らだ。何時ふたりは此処を引き上げて、コニーアイランド付近の農場へ行くのだろうか。俺は一睡も出来ない。チャックがやっているようなバー経営を思い描くことが出来るかね。それと売春婦のねぐらだよ。神様っ、そいつあ美味しい想像図だよ。マギー (反駁して)コーラをそんな風に呼ばないでよ、ロッキー。彼女はいい子だよ。彼女は売春婦ではあるが…。ロッキー (思いやりを見せて)確かに、俺が言いたかったのは、売春婦だ。パール (クックと笑い)だけど彼は乳牛についても正しいよ、マギー。コーラは雌牛のどちら側に角が生えているか知らないのさ。彼女に訊いてみようと思っている。(ホールのドアのところで音がした。男と女の言い争う声が聞こえる)ロッキー 君のチャンスが巡ってきたよ。あの二人だからね。 (コーラとチャックが室内を覗き込み、入って来る。コーラは痩せて金髪に見えるように脱色している。パールやマギーよりは数歳年上で、同様の服装をしている。彼女の丸い顔は二人よりも更に商売上の辛さから来る疲労と涙を示している。が、それでも人形のような可愛らしさが見られる。チャックは頑健で、分厚い首、膨れた胸、イタリアとアメリカ人の混血で、肥満した愛想のよい浅黒い顔をしている。鮮やかなバンドの麦わら帽をかぶり、派手なスーツ、ネクタイ、シャツに黄色の靴を履いている。彼の目は澄んでいて、健康そうで、牡牛のように頑健である)コーラ (陽気に)今日は、怠け者達。(周囲を見回した)雨の土曜の夜の死体公示所だわね。(ラリーに手を振って,愛情を込めて)今日は、老賢者殿。まだ死ななかったの。ラリー (ニヤリとして)まだだよ、コーラ。くそ退屈だよ、最後を待っているのはさ。コーラ 大丈夫さ、決して死なないからね。あんたは誰かを雇って斧で自分を殺させないと死ねないね。ホープ (目をそばだてコーラを見て、イライラしたように)口の減らない女郎め。騒音を出すのをやめろ。ここは猫小屋じゃない。 コーラ (宥めるように)おや、ハリー。そんな事は言いっこなしよ。ホープ (目を閉じて、自身に対して満足げにクックと笑い)きっとベシーが墓場ででんぐり返りをしているさ。 (コーラはマギーとパールの間に座り、チャックはホープのテーブルから椅子を取り、彼女達の側に置いて座った。ラリーの傍らではパリットが拒絶するように娘達を睨みつけている)もしこのたまり場に派手な女が出入りしていると知っていたら、僕は決して此処には足を踏み入れなかった。ラリー (パリットを注視して)君は婦人方に屈してしまったようだな。パリット (復讐的に)僕はどんな淫らな女も憎むんだ。誰も同じようなものさ。(自身に罪を認めるように)僕がどんな気持でいるか分かるでしょう。僕が売春婦達と付き合っていたので、マザーと喧嘩になったのだからね。(拒絶的な冷笑を浮かべて)でも、それはあなたとは無関係だ。あなたは高見の見物をしているようなものだ。人生を降りてしまっているのだからね。ラリー (鋭く)君が覚えていてくれて嬉しいよ。君の事にちょっかいを出すつもりはないから。(目を閉じて、眠り込もうとするように深々と椅子に腰を掛けた) (パリッとは冷笑するようにラリーを見詰める。それから視線を逸らすと彼の表情は盗み見するかのように怯えている)コーラ ラリーと一緒なのは誰。ロッキー けちんぼうだよ。地獄に落ちろ。パール ねえ、コーラ。私に知恵をつけておくれよ。雌牛のどっち側に角はついているのさ。コーラ (困惑して)ああ、それを持ち出さないでよ。農場の話をするのは反吐が出るほど飽き飽きしてるんだ。ロッキー 俺たちとは無関係だ。コーラ (これを無視して)私とこの育ち過ぎの浮浪者はその事で喧嘩ばかりさ。彼はジョーセーは最高の場所だって言うのだ。私はロングアイランド、だって我々はコニーの側に行くからさ。それで私は彼に言うのさ、どうやって雑誌を生活の手段から遠避けるかを知らない、と。私らはいつだって酒びたりだし、結婚してからだってそうなるに決まっているの。チャック 俺は生活の為に酒をやめるよって言う。するとこの雌牛めは俺の面前でほざいたね、たった今断酒しなければ結婚なんかしないって。おい、かわいこちゃん。何だって俺は結婚なんかするのか。お前がそれを先延ばしするのを、のんべんだらりと待っている訳にはいかないよ。(彼は彼女に乱暴なハグをする)これが平均だ。(キスをする)コーラ (彼にキスする)ああ、このでかい浮浪者め。ロッキー (深い憎悪を込めて首を振り)結べるのかな。酒を一杯買おう。何でもしてやるよ。(立ち上がった)