カテゴリ:ファンタジー連載小説!『カオス』
残されたレックスはしばらく呆然と立ち竦み、自分自身を嘲ると、 ゆっくり壁を滑るように座り込み、その壁にもたれた。 そして全身で孤独感を味わった。 頭の奥が痛む。 現状を受け入れなくてはならない。 ・・・今、一番側に居て支えとなってもらいたいヴェルジェはここにはいない。 シュヴァーリエのところだ。 放心状態・・・途轍もない孤独感。 それはレックスにとって、今までまったく無縁の状況だ。 活気に満ちた城の面影等、もう何処にもない。 シュヴァ-リエが兵を殺した等、そんなことをする筈ない事くらい、百も承知だ。 が、あの状況で彼に八つ当たりでもしなければ、この悪夢の様な惨劇を、 受け止める事等出来なかった。 それが自分の弱さだと言う事くらい、気付いている。 彼の力量がシュヴァ-リエに叶わないのも、我のままに育ってきたが為だろうか。 堪らなく辛い時、現状から逃げたくなる時、今まで何度かあったが、 レックスはいつもその感情を剥き出しにし、シュヴァ-リエに当って来たのだ。 それでもシュヴァ-リエは、いつも無言のまま自分の怒りを、 傲慢さを、まったく何一つ文句も意見すら言わず、仕打ちに黙って応えて来た。 レックスが彼にそうしたのは何処かで彼を疎ましく思う所があったからだ。
ずっと子供の頃から武神を崇め、飾りの王子にはなりたくないと、 この国に似合う、この国で一番強い男になりたいと、常日頃思って来た。 毎年この国では武闘大会が行なわれる。 レックスが十歳の時、初めて武闘大会に出た。 丁度その歳から参加する事が出来たからだ。 レックスは何故かその時の事を思い出した。 レックスはシュヴァ-リエを無理矢理バトルに参加させた。 レックスとシュヴァ-リエは同じ師に剣も武道も習い、 彼が長けている事を知っていたからだ。 決勝に残ったのは勿論レックスとシュヴァ-リエだった。 これから最後のバトルに向かうと言う道中、レックスの耳に見物客の声が聞こえた。 『王子を勝たせる為、シュヴァ-リエが必ず負けるだろう』と。 レックスは子供心に、王子であるが故のコンプレックスを抱いていた。 自分は違うと、王子だから一番なのではなく、真の一番強い男になりたかったのだ。 そしてレックスがバトルフィ-ルドに上がった際、シュヴァ-リエにこう言った。 『もし、王子と言う相手に、くだらない手加減等すれば、それは俺に対する 最大級の侮辱とみなす。これは神聖なる武闘大会だ。正々堂々と本気で闘ってくれ』と。 バトルが始まり、シュヴァ-リエはレックスの攻撃を交わすが、 シュヴァ-リエからは仕掛けてこない。 勿論、王家の側近達にシュヴァ-リエは、当然の如く負ける様に言われていた。 それでもレックスの眼差しに、シュヴァ-リエは、その真剣さに 応えない訳にはいかなかったのだ。 シュヴァ-リエの反撃技は一瞬で決まった。 レックスが空を舞った。 あの時、レックスは負けた悔しさの中に、真剣に応えたシュヴァ-リエの 気持ちが嬉しくさえ思った。 素直にそう思った。 自分を王子としてではなく、一人の武道家として扱った彼にたいして、 初めて心が打ち解けたような、そんな充実感すら幼いレックスには感じられたのだ。 そして奴にいつか必ず勝ってやると、心で誓った。 しかしシュヴァ-リエが武闘大会に参加したのは後にも先にもそれ限りだ。 あの後、シュヴァ-リエは酷く大人達に避難され、罰を受けた。 そしてシュヴァ-リエの真の強さを封印させるかのように、 ナイトの為の武道も剣の稽古もさせず、単なる下僕にさせた。 そして月日は流れ、レックスが十五の元服の儀を迎えた歳、 王より自分の部隊を持つ事を許された。 レックスは選りすぐりの精鋭部隊を作り、そして迷わずシュヴァ-リエに 精鋭隊長の一の座を与えた。 五年もの月日の間、剣すら手にしていないと言うのに、 シュヴァ-リエには天分の才が備わっていた。 一の座を狙う者全てに圧倒的な差を見せ付けた。 もはや恩師の心・技・体・全てを彼は遙かに上回っていた。 レックスが稽古をつける時、何度となくシュヴァ-リエに『本気』を出せと言ったが、 彼がレックスに本気を見せたのは十歳のあの時、ただ一度だけだった。 それが悔しくて堪らなかった。 シュヴァ-リエに、何も気にせず本気で向き合わせたい。 ずっとそれだけを願っていた。 そして必ずいつか奴を追い抜くと、それだけを目標に今の自分があったのかもしれない。 そう気づくと、より心が空っぽに感じた。 レックスのその想いをシュヴァ-リエが知らない筈がない。 自分はこんなに奴を信頼し、嫉妬し、そして悔しいくらい憧れて来た。 それなのにシュヴァ-リエはまったく自分に心を開かず、自分の陰に徹して来た。 そして今、自分の最愛の人、ヴェルジェの心が、シュヴァ-リエに奪われていたことを知った。 そんな自分がより馬鹿げ、自分こそ本当は陰だったのではとさえ思えた。 そしてシュヴァ-リエの事を嫉妬の渦で憎く、疎ましく許せない想いで 煮えたぎっている自分が、何より情けなく、疎ましく、全てが許せない想いに苛まれていた。
それからレックスは、その事実から逃げるかのように、残された王族として、 この城の現状を正す為、城外の兵を呼び集めるべく、指示を出した。 そんなレックスの姿を、『次期王は流石だ』と兵も民も思ったが、 彼にしてみれば違う事を脳裏に置かなければ、自分が可笑しくなりそうだったのだ。 その姿が痛々しく見えたのはソシエやアリス、そしてヴェルジェ達くらいだろう。 『カオス47』へ・・・・To be continued このお話は私が作成したものなので、勝手に他へ流したり、使用するのは絶対止めてね。 ★初めから読むなら1 朱鷺色の章 1 Prologue の扉へどうぞ★★続きを読むなら 『カオス47』 へどうぞ★ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
October 19, 2006 03:48:12 AM
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