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2024.07.09
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カテゴリ:学術




【特集:スポーツとサイエンス】

廣澤 聖士:テクノロジーがもたらすフィギュアスケートの発展


https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2024/07-3.html


三田評論ONLINEより転載



  • 廣澤 聖士(ひろさわ せいじ)

    桐蔭横浜大学スポーツ科学部特任講師、慶應義塾大学体育研究所兼任研究員、一般社団法人日本スポーツアナリスト協会理事・塾員

採点競技の判定におけるテクノロジー活用

フィギュアスケートは、指定された時間内で音楽に合わせて演技を行い、審判員の採点で順位が決まる。このような競技は採点競技(評定競技)と呼ばれる。皆さんもこの分類には馴染みがあるだろう。採点競技におけるテクノロジー活用となると、しばしば話題を呼ぶのが自動採点システムの導入である。競技スポーツである以上、審判員の主観的な判断による判定のばらつきをなるべく少なくするのが望ましいと考える人も多い。

採点競技における自動採点といえば、真っ先に思い浮かぶのが体操競技の事例ではないだろうか。国際体操連盟主導のもと、正確かつ公平な判定に加え、審判員の負担軽減のために自動採点化を目指し、AI採点システムが導入されている。2017年から開発に着手し、2019年より世界選手権をはじめとする国際大会の一部種目で活用され、2023年ベルギーのアントワープで開催された「第52回世界体操競技選手権大会」で、全種目への適用を開始した。このシステムを導入するにあたり、国際体操連盟は開発会社とともに、「まっすぐ」「わずかにまがる」のような数値化されていない採点規則を、「膝の角度が170度より大きいこと」など機械的な判定ができるように基準を定めていった。今後は関節の角度や手足の位置など数値を用いて、より具体的に技を判断するガイドラインを順次公開していくほか、専門的な解説や映像を世界中の視聴者に提供していくという。

このような体操競技の取り組みを受けて、同じ採点競技であるフィギュアスケートでも「自動採点システムを導入するべきではないか」という声が強くなってきているように感じる。一方で、「フィギュアスケートは芸術性を競っているのだから人間が評価するべきだ」という意見もまた耳にする。フィギュアスケートの判定において、テクノロジーはどのように活用されるべきなのだろうか。

芸術表現が求められるアーティスティックスポーツの在り方

1つのヒントとなるのが、國學院大學の町田樹准教授が提唱する「アーティスティックスポーツ」という新たなスポーツジャンルの考え方である*1。ソチオリンピック日本代表のフィギュアスケーターでもあった町田氏は、採点競技の中でも、「競技規則が主観的な解釈を要する芸術的な身体表現を求めている競技」を新たにアーティスティックスポーツとして細分化することを提唱した。フィギュアスケートや新体操の競技規則では、音楽とともに展開される表現行為や独創性が求められている。一方、男子器械体操で求められるのは「技の難度と質」であり、競技規則の定める理想形との比較によって採点されるため、競技者の独創性は求められていない。

このように、主観的な解釈を必要とする芸術性が問われるアーティスティックスポーツと、競技規則の定める理想形を求めるフォーマリスティックスポーツは、同じ採点スポーツでありながら異なる特徴を持っているといえる。

そのため、芸術性を要するアーティスティックスポーツの採点規則は、技術面を評価する「技術点」と芸術面を評価する「芸術点」を分けなければならない。技術評価については解釈の余地を残さず客観的な評価を下す必要がある。一方、芸術評価については競技者と評価者の両方に解釈の余地を持たせるべきだとされている。

つまり、フィギュアスケートの場合、ジャンプ・スピン・ステップの技術要素の難度認定や出来栄え評価については、客観的な評価のためのテクノロジー導入の余地があるだろう。しかし、音楽表現などの芸術評価にテクノロジーを導入して客観的な評価を行おうとすると、アーティスティックスポーツ独自の競技特性を損なう可能性がある。

メディアコンテンツとしてのテクノロジー活用の現在地

最近では様々なスポーツの競技会でトラッキングシステムが導入され、選手に実験的な介入をせずに選手のデータを取得することができるようになっている。

見るスポーツとして人気が高いフィギュアスケートでは、器械体操のような自動採点システムは導入されていないものの、視聴者の観戦体験を高める目的でトラッキングシステムが導入されている。放映権を持つ株式会社フジテレビジョンと画像処理を専門とする株式会社Qonceptは、これまでに2つのシステムを開発した。1つはジャンプを可視化するためのアイスコープ*2、もう1つが演技中の選手の滑走の軌跡を可視化するアイスタッツである。このシステムの導入により、これまで定量的な理解が難しかったフィギュアスケート選手の競技中のパフォーマンスを可視化することが可能になった(図1)。

図1  フィギュアスケートに導入されているトラッキングシステムアイスコープ。図面情報をもとに ピクセル単位の実寸を計測する(Qoncept提供)

私が着目したのはアイスコープだ。現在のフィギュアスケートの採点規則では、ジャンプの比重が非常に高くなっている。競技会で勝つためには質の高い高難度ジャンプを成功させることが重要であり、選手は単に転倒しないだけではなく、審判員から出来栄えが高いとされるジャンプを実施するために試行錯誤している。アイスコープは2台の4Kカメラでリンク全体を撮影し、ジャンプの高さ、飛距離、着氷後の滑走速度を算出する。ジャンプの踏切点と着氷点は運用担当者が定義する。スケートリンクの図面の情報から、撮影している画面の1つのピクセルが実際に何センチかを計算できるため、値が計測できるという仕組みだ。中継においては、ジャンプの放物線の軌跡付きの映像を別に用意して、計測結果を表示している。計測と軌跡映像の作成はおよそ1分半で完了し、視聴者に届けられる。競技会終了後には、飛距離ランキングや高さランキングが公開され、競技会の採点とはまた違った楽しみ方を提供している。このようなジャンプの数値のみを競うフォーマリスティックな競技会があっても面白いかもしれない。

アイスコープデータから紐解くジャンプの出来栄え評価の定量化

私自身は2010年に環境情報学部に入学するとともに、義塾体育会スケート部フィギュア部門に入部し、フィギュアスケート競技を始めた。競技をする中で「より良いジャンプを跳ぶにはどのようなことが必要なのか」という問題について研究したいと思ったが、実験環境でフィギュアスケートのデータを取得することは様々な面で難しかった。そのような中、競技会中の“リアルワールド”なジャンプの計測データは私にとって非常に魅力的だった。データをメディアコンテンツとしての活用だけで終わらせるのではなく、「競技力向上支援のための研究に活かすことができないか」と考え、慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程の指導教授である青木義満教授への相談のもと、システムの開発を手掛ける株式会社Qonceptとの共同研究契約を結び、研究に着手した。対象としたのは、客観的な評価が求められる技術点の中でも「ジャンプの出来栄え評価」だ。フィギュアスケートのジャンプの得点は、種類や回転数などの難度で定められている「基礎点」と、実施された技術の完成度を表す「出来栄え点」の合計によって決まる。出来栄え点は器械体操のEスコアとは異なり、満点からの減点ではなく、加点評価があるのがフィギュアスケートの特徴だ。審判員はジャンプを見て即座に0を含む-5〜+5の11段階で評価する。ジャンプの回転不足や踏切時のエッジの踏み分けなど基礎点に関する評価は複数の審判(技術役員)の意見を統合した上で減点の有無が判断される。一方で、出来栄え点は9人の審判の最高点と最低点を除外した上で平均するトリム平均が採用されている。このため、審判員によってある程度のばらつきがあることが許容されているのだ。判定基準も解釈の余地があるといえる。表1は加点面の評価基準である。例えば高さと距離については「非常に良い」と書かれており、「値が大きい」などとは書かれていない。

表1  プラス面の出来栄え点のガイドライン: +4、+5には最初の3つの項目が満たされていなければならない。

今回は「どのような特徴を有するジャンプが審判員から高い出来栄え評価を得られているのか」について検討するために、2019年世界選手権(さいたま)と2023年世界選手権(さいたま)で得られたジャンプのデータを分析した。図2は両競技会で実施された女子選手の2回転アクセルジャンプのうち、9人全ての審査員から出来栄え評価0以上と判定されたジャンプ計66件のデータである。各グラフの横軸はアイスコープから得られた値、縦軸はトリム平均後の出来栄え評価(5点満点)を示す。灰色の点と一点鎖線が2019年、黒色の点と一点鎖線が2023年のデータ、黒色の直線が全体的な傾向である。これを見ると、ジャンプの高さは出来栄え点の評価にほとんど関係がないことがわかる。一方で、飛距離については値が大きいほど出来栄え点が高くなる傾向(正の相関関係)にありそうだ。19年大会、23年大会共に同じような傾向を示しており、飛距離と出来栄え点の関係は試合によって傾向が大きく変わらないのも特徴だ。着氷後の滑走速度についても、飛距離ほど大きくはないものの19年・23年の両方で正の相関が見られる。つまり、ジャンプの出来栄え評価の基準には、「高さおよび距離が非常に良い」という項目があるが、審判員は飛距離が大きく着氷後にスムーズに流れるようなジャンプ、すなわち水平成分が大きいジャンプに高い出来栄え点をつける傾向があるといえる。

図2 アイスコープから得られるデータと審判員が付与した出来栄え点の関係性

このように競技会中のデータ取得が可能になったことで、審判員の主観的な判定の傾向を定量的に理解することができる兆しが見えてきた。しかし、システムが導入される競技会は少なく、ジャンプの種類や回転数によってはサンプルサイズが少ないため、定量的な評価が難しい。また、踏み切り方が異なるため、違う種類のジャンプの場合同一の傾向が見られるかはわからない。このようなシステムを継続的に導入し分析を続ければ、今後体操競技のように判定基準のデジタル対応を行う際に「競技として最良のジャンプはどのようなものか」を定量的に決めるための1つの目安となるだろう。様々な利害関係者が関わりながら開催されるスポーツ競技会でシステムを導入するには、計測精度などの技術面以外にも多くの課題を乗り越えなければならないが、競技の発展のためにも、より多くの試合で継続的にデータ取得が行われることが強く望まれる。

なお、トラッキングデータを用いたこれまでの関連の成果については、公開済みの論文を参考にされたい*3

データを活用したコーチングができる人材の必要性

採点に関するもの以外にも、欧米を中心にコーチング面でのテクノロジー活用について簡単に紹介する。1つは腰に巻くタイプのウェアラブルデバイスの導入だ。多くのスケーターは練習中に何回ジャンプを跳んだのかを把握していない。より高難度なジャンプが求められる現代のフィギュアスケートでは、ジャンプの着氷時に選手にかかる衝撃も大きく、選手が練習をしすぎることで疲労骨折の症例が増えていることが報告されている。米国フィギュアスケート連盟ではデバイスを用いて、練習量の管理やジャンプの定量的なデータに基づく指導を行っているという。これにより、怪我の予防やパフォーマンス向上に寄与することが期待されている。

もう1つはアナリストの登場だ。昨今、様々な競技で情報分析を専門とするスタッフの配置が進んでいる。一般社団法人日本スポーツアナリスト協会では、「選手及びチームを目標達成に導くために,情報戦略面で高いレベルでの専門性を持ってサポートするスペシャリスト」をアナリストと定義している。フィギュアスケートにおいては、フランスのArnaud Muccini氏が代表的な存在だ。彼はスポーツアナリストが分析に用いる専用ソフト、ダートフィッシュの画像処理技術を用いて、映像からジャンプのデータを数値化し、コーチングに役立てている。2022年北京オリンピックに向けては、中国代表チームのアナリストを務め、ペア競技で選手を金メダルへと導いた。そのスキルはダートフィッシュ社からも高く評価され、certified expertを授与されているなど、競技の枠を超えた、世界を代表するアナリストの1人である。

テクノロジーの発展は選手の健康を守り、パフォーマンスの向上にも寄与できる。日本国内でも、上記のような最新のテクノロジーを駆使して指導を行える人材の育成と環境の整備が求められるだろう。

フィギュアスケートは芸術性と技術の両方が重要視される競技であり、導入するポイントを見定めた上でテクノロジーを活用することで、その魅力をさらに引き出すことができるだろう。今後もテクノロジーの進化と共に、フィギュアスケートがどのように発展していくのか、その動向に注目するとともに、私も研究者として少しでも競技の発展に寄与できるように活動していきたい。

〈参考文献〉
*1 町田樹(2020)『アーティスティックスポーツ研究序説──フィギュアスケートを基軸とした創造と享受の文化論』(白水社)
*2 『フィギュアスケートLife Extra Professionals フィギュアスケートを支える人々』(2020、扶桑社ムック)
*3 Hirosawa, S., Watanabe, M., & Aoki, Y. (2022). Determinant analysis and developing evaluation indicators of grade of execution score of double axel jump in figure skating. Journal of sports sciences, 40(4), 470-481.

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。








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最終更新日  2024.07.09 08:28:40



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