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カテゴリ:学術
【執筆ノート】『台湾のデモクラシー──メディア、選挙、アメリカ』
三田評論ONLINEより転載
移民社会の政治と移民の出身国の政治は、本来は別の専門領域である。だが、米国と台湾のように相互が二重国籍を認めているケースは必ずしもその「枠」に収まらない。 筆者は四半世紀前、米連邦下院議員事務所で台湾ロビーの窓口を、またニューヨークの上院選本部で中華系を含むアジア系票の取り込み戦略を担った。二重国籍である台湾系の多くは台北で総統選に投票した同じ年の秋に米大統領選にも投票する。大使館員ではない台湾外交官の背後には、米国籍の台湾系選挙民もいて地元対策では軽視できない。共和党と民主党の分断の中に、国民党と民進党の分断を純度高く持ち込み、アジア系集票では台湾政治を熟知する必要があった。 この米政治での実務経験がアジア系社会内での選挙民対策を事例とした博士論文の研究に結実した。その意味で、米移民政治と海外政治はタイワニーズに限っては表裏一体であり、本書は米国研究の「内的拡張」だが「原点回帰」でもある。 米国の政治コミュニケーション論には世界各地の「選挙とメディアの米国化」をめぐる研究がある。だが、先行研究は英語圏や中南米の事例に集中し、アジアとの比較は文化や言語の壁からも限定的だった。本書は「米国式」選挙やメディアが一方的な米国からの移植に限らず、在米移民ネットワークが触媒となって民主化過程で浸透する独特の作用を明らかにした。他方、「米国式」の輸入を拒むローカル固有の政治文化も見逃せない。支持者による戸別訪問は米国では盛んだが、台湾の対人関係に馴染まず、独特の「車乗街宣」を創造した。同じ多民族社会でも民族別多言語メディアの価値と制約は違う。演説の台湾語は「禁じられた言語」の復興で、米国でのスペイン語演説とは異質の歴史的政治性を抱える。 選挙運動とメディアの「米国化」に抗う「アジアの固有性」が面白くて調査にのめり込んだ。本書は10年におよぶ台湾での現地調査に基づく比較政治と地域研究に架橋する新しい米国研究であり台湾研究である。 日本の政治学・地域研究を牽引する慶應義塾で、学際研究の最先端SFCから本書を世に問えるご縁は光栄至極である。 『台湾のデモクラシー──メディア、選挙、アメリカ』
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最終更新日
2024.09.22 08:33:54
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