カテゴリ:コードギアス
ルルーシュとオデュッセウスを擁するアッシュフォード騎士団は領地を出発後、ヴァインベルグ侯爵を始めとする有力貴族の諸侯軍と合流し総勢を一万近くまで増して街道を南に下っていった。
またエニアグラム、エルンストといった北東寄りの貴族軍、さらに遠方より出向く貴族の軍などの別動隊もそれぞれ別ルートでヴィンドボナへの進軍を開始。 これらの軍は正式にゲルマニア帝国軍を称し、道中の街々にその正当性をアピールしていった。 一方これに対抗してアルブレヒト三世も航空戦力を含む一万の兵を敵本隊がいる北西部に派遣し、多方面からの攻撃は主要街道の封鎖や砦での防御といった防衛策に出る。 これはすなわちカラレス将軍率いる一万の軍でルルーシュ率いるゲルマニア軍の本隊を叩き、その勝利を持って日和見の貴族達の参戦、あるいは懐柔を狙うものである。 かなりギャンブル性の高い策であるが、それが第一手第二手で後手に回ってしまったアルブレヒトにできる現状を打破する為の唯一の策であった。 カラレス達北西部討伐軍がオデュッセウスを擁する敵本隊を補足したのは進軍を開始して三日目の事であった。 予想よりも進んでいない敵に少々戸惑いながら偵察部隊を出してみれば広い平原部に堂々と陣を構えて待ち受けているらしい。 罠かと一瞬考える状況であるが、時間が長引けば不利になるのはこちらだ。 部隊を展開しつつ、カラレス達は平原に進む。 平原に着いた彼等の目に飛び込んできたのは整然と横に大きく広がる形に敷かれた陣形であった。 いわば包囲殲滅型の陣形である。 「ふん、所詮は子供浅知恵か・・・」 この手の陣形は真正面から突っ込んでくる敵に対して他方向から攻撃できるという利点がある。 しかしどうしても軍の厚みが減ってしまうという欠点をも合わせ持っていた。。 おそらく囮として中央にあるだろう敵の司令部を魔法の圧倒的火力で突き破れば、この程度の陣形は問題ない。 そう判断してカラレスは攻撃の開始を宣言した。 まず巨大なゴーレムを錬金した土メイジの部隊が火砲の援護と共にゴーレムを的にぶつける。 それに呼応して敵方も地面から錬金されたゴーレムが立ち上がった。 数体のゴーレム同士がぶつかり、互いに押し合う。 その足元を幾筋もの砲撃が行きかった。 爆発が上がるが、敵の陣形に損傷はない。 「それなりに防御は分厚いと言う事か」 ならばとカラレスは中央に突破力に長けたメイジ中心の突撃部隊を呼び寄せる。 狙うは敵陣の中央、ゲルマニア皇帝の旗印がはためいている本陣である。 カラレスの合図と共に突撃が開始される。 それと共に他の左右両翼が突撃部隊の包囲殲滅を避ける為に、敵両翼の抑えつけに回った。 だが次の瞬間、誰もが予想だにしなかった事が起こる。 突撃部隊が銃や魔法の砲撃を掻い潜り中央に向けて攻撃を放とうとした瞬間、突如地面から巨大な火柱が上がったのだ。 平原に響き渡る大爆発、上空へ向けて立ち上っていく黒い塊のような煙と炎、そして突風となって襲いかかって来る衝撃波。 カラレスの鼓膜を巨大なハンマーが叩いたかのような衝撃が走った。 地面を舐める衝撃波が兵士達を吹き飛ばし、陣形を突き崩す。 どうにか顔を起こし、平原を見たカラレスは唖然となった。 突撃部隊が向かって行った先に生じた巨大な穴。 平原の地面が大きく抉り取られてた。 誰もがこの予想外の展開に身動きが出来ずにいた。 そして敵はその好機を見逃さなかった。 横に広がっていた陣形が素早く三つに分かれそれぞれが突撃用に攻撃的な分厚い陣形に変わる。 先ほどとは打って変わった様に攻撃的に砲撃が始まった。 「カラレス将軍!?」 動揺した声が発せられる。 精鋭のメイジ部隊が一掃され、残っている主力部隊はカラレスが護衛代わりに用いている精鋭の部隊のみ。 その騎士団を即座に反撃に用いていればまた運命も変わったかもしれない。 だがカラレスは瞬時に判断を下す事は出来なかった。 自身の保身が頭を過ったのである。 これが全ての決着となった。 「ふははははッ!カラレス将軍、君の考えはその程度だったんだよ。教科書通りに中央に火力を集結させてくれてありがとう。一気に敵の主力を吹き飛ばせたよ」 ルルーシュは爆発が収まるや否や、矢継ぎ早に指示を出していく。 「左右両翼を突撃用陣形に変更。ヴァインベルグ騎士団およびアールストレイム騎士団を中心に敵の戦力を分断せよ。クルシェフスキー卿は敵後方へ回り込みカラレス将軍へ圧力をかけろ。各軍全力で敵を掃討せよ!」 「「「Yes, your highness!」」」 「アッシュフォード騎士団はこのまま本陣と共に緩やかに前進。崩壊した戦列を押しつぶす!」 爆風は風のメイジ達による結界によって大きく緩和され、衝撃で身動きがとれなくなった敵を尻目に動き始める。 ロイド達に作らせた高性能爆薬を土中に埋めただけの策であったが、メイジの突破力を過信したカラレスはルルーシュの予想通りに中央突破を狙ってくれた。 その精鋭のメイジ達の集団を爆破壊滅し、勢いを挫いた後はもはや追撃戦の要領である。 総崩れになり始めた敵を確実に仕留めていくだけである。 「東側の包囲を解け。そちらに敵を逃がせ」 敵には自棄になられては困る。 これはかつてのルルーシュの兄の言葉であったが、『希望を摘み取り過ぎてはいけない』 多少意味合いは異なるが、逃亡のという希望を見出した兵士達は自滅覚悟の抵抗よりも逃亡を選ぶだろう。 逃亡した先にはエ二アグラム卿やエルンスト卿の軍が待ち構えているとも思わずに。 味方の犠牲を減らして最大限の戦果を上げる。 ルルーシュはこれをいとも簡単に実行してみせた。 本来地上軍を援護するはずの航空戦力もガニメデを中心とした艦隊に押され連携は取れていない。 それどころか、地上軍の崩壊を見て撤退すらも始めていた。 勝利の見えた戦い、司令部に安堵が漂い始める。 だが戦いはそこで終わりではなかった。 「兄さん!」 「どうした、ロロ」 「アッシュフォードの前衛が!」 ハッとルルーシュがロロが指差す方向に顔を向けた。 巨大な土煙りを上げる一帯、そこから悲鳴が上がる。 爆発にも似た衝撃音が走り、地中から何本もの柱が立ち上がった。 前衛の兵士達が瞬く間に吹き飛ばされる。 「なッ!?あれは何だ!」 「我が君!」 突如何処からともなく始まった攻撃に慌てる様子を見せるルルーシュ、そこへジェレミアが進み出た。 「敵です。おそらく最強の敵でしょう。私が戦って参ります。ここはどうかお下がり下さい」 「お前が行くのか・・・、分かった。だが勝て。これは命令だ」 「Yes, your highness! 必ずやルルーシュ様に勝利をお届け致しましょう」 踵を返したジェレミアがフライで戦場へと飛んでいく。 それを見ていたルルーシュの袖をロロが引っ張った。 「兄さん、今の内に」 「分かってる。陛下、マルディーニ卿、我々はこのまま後退します」 「あ、ああ。しかし大丈夫なのかい?」 「ジェレミアが必ず勝つと言ったのです。私はその言葉を信じます」 「分かったよ、ルルーシュ。我々は後退しよう」 前線は地獄と化していた。 平民もメイジも関係なく、その土の刃の前に無慈悲に命を刈り取られていく。 悪鬼の如く数千の軍の前に立ち塞がったのはたった一人の男だった。 十数メイルのゴーレムに乗って大剣を振り回し暴れる一人のメイジ、ビスマルク・ヴァルトシュタインである。 戦闘に長けたメイジといえば大抵が炎か風の系統を得意とするメイジの名が上がる。 だがビスマルクが得意とするのは土の系統だ。 個人の圧倒的な剣技、身体能力、土の魔法の応用性を利用して彼はゲルマニア最強のメイジを名乗り続けてきた。 「こりゃ本気でヤバいぜ」 ジノはウィンド・ブレイクで飛んでくる人ほどの大きさもある礫を撃ち落とす。 次の瞬間視界一杯に広がるゴーレムの腕を体を屈めてどうにかかわす。 だがすぐに詠唱の暇を与えずに足元の地面が一斉に槍へと変わり付きだしてくる。 慌てて宙に飛び上がったジノは己の迂闊さを悟った。 剣を振り被ったビスマルクが目の前に正面に現れる。 ビスマルクの剣に纏わりつくブレイドの魔法。 その巨大なオーラに圧倒される。 フライで移動しようとするも、それすら間に合わない。 「やばい!」 大剣を受け止めようと杖を構えるがジノの脳裏を死が過った。 そこへ赤い光線がビスマルクへ向けて発射される。 ビスマルクはそれをブレイドで受け止めた。 視線の先ではアーニャが再度炎の光線の詠唱を行っていた。 その隙にジノは大きく距離を取った。 「助かったぜ!アーニャ」 「迂闊過ぎ」 アーニャの辛辣な言葉も今は気にならなかった。 一瞬でも気を抜けば死ぬ。 それが肌で感じられた。 ビスマルクは次第に集まりだしたメイジ達を睥睨した。 破壊されたゴーレムの上に立つ。 そして彼はゴーレムの残骸に剣を突き立てた。 砂となり崩れ始めたゴーレムの中にビスマルクの姿が消えていく。 やがて砂の波は周囲一帯を全て砂地に変えていった。 「これは・・・」 次々にメイジ達が上空へ飛びあがる。 だがそれすらもビスマルクの想定していた範囲内であった。 巨大な竜巻が上空へと砂塵を運び上げていく。 一面砂嵐と化した空間に次々と悲鳴が飛んだ。 ジノは周囲の風を押しのけた。 一瞬視界に煌めきが走り、ジノは反射的に身構えた。 全身に走る衝撃。 自分の身に何が起きたのかも分からずに、ジノは地面に落下していった。 大地に叩きつけられる。 「がはッ!」 口内に血が混じった。 激痛の走る腹部には一本のナイフが刺さっていた。 刃には何やら緑の液体が塗られている。 「ちくしょう・・・、毒かよ。なんてえげつない戦い方なんだ・・・」 本来のメイジの戦い方とは違った型。 あらゆる手段を持って敵を倒すと言う強烈な意志を感じた。 視界の隅でアーニャが吹き飛ばされるのが見えた。 彼女もまたやられたらしい。 「強過ぎだろう」 砂嵐が止んだ後にはビスマルク以外の誰一人も立っていなかった。 皆大地に倒れ伏し命の終焉を待っている。 ジノは両手に力を込めようとするが、自身の意志に逆らって腕は動かなかった。 ビスマルクの隻眼がジノを見た。 ゆっくりと歩み寄って来る。 「ヴァルトシュタイン卿、そこまでにして頂こう」 不意にジノの前に誰かが立ち塞がった。 レイピア状の杖を抜き放ち、彼は続ける。 「このジェレミア・ゴットバルト、貴殿との一騎打ちを所望する!」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.08 15:06:07
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