２日。ＧＷの真っ只中。
　館内に１０人いるか、どうかと
　いう大阪の映画館で柳町光男監
　督の新作を見た。

　映画の題名は「カミュなんて知らない」。
　学生が映画制作をする、というだけの話だ。
　柳町監督の作品から、僕などがイメージする
　暗くトーンを落とした寒々とした画質、
　というのはいきなり冒頭のシーンから
　裏切られる、というか姿を消している。

　明るくカラフルなシーン。
　前田愛と柏原収史の会話。携帯電話を
　使ったり、決して背景に観客の目が
　いかないほどスピーディに長回しの
　映像はスタートする。

　「十九歳の地図」や「愛について、東京」
　といった僕の、本当に好きというしかない
　過去の柳町作品では考えられないような
　始まり方を映画は見せ、そしてカミュの
　「異邦人」が出てくる辺りでは、終幕まで
　予想できる、予定調和の展開になっていって。

　前田愛や吉川ひなの、の好演に引き換え、
　おそらく柏原収史はへぼ演技と言わざるを
　得ない、と僕は思った。この柏原が演じる
　映画監督がつまらないから、どうしても
　意外な面白さ、というものを映画はもたらさない。

　なんであんな、印象に残らない俳優を重要な
　役で使ったのだろう？という僕の疑問は、
　ひょっとして僕の感性の問題もあるのでひとまず
　置いて置く。

　それにしても。
　期待通りに見れなかった映画に関して、
　嫌でも？の疑問が沸き起こる。
　第一に。
　今の大学生は本当に、こんなにエネルギッシュ
　なのだろうか？
　
　大学時代、ほんの少しだけ自主映画制作に係わった
　経験から考えると、信じられないのだ。
　あの前田愛のテキパキした行動。
　あんなきちんと進行をやってくれた方って
　いたのかな、と。

　それと。
　あの生活感のなさ。
　彼らは男女関係と映画のこと以外、生活には
　ないのか、と思うぐらいで。

　バックボーンがなさ過ぎると実感を伴って
　出演者のことが考えられなくなる。

　だから。

　ラスト。僕にはおそらくこうするだろう、と
　分かっていたラスト、意外性もないし何の実感
　も伴って伝わって来ない。

　「すべてがホントで嘘かもね」って、昔、米米クラブ
　が歌っていた歌があったが、それを狙っただけなら
　長すぎる。

　群集劇での突然の波乱、というのは
　僕らは４年ほど前に、吉田修一という作家の
　小説「パレード」という傑作を持っている。
　あの小説で、吉田修一は丁寧に登場人物一人一人の
　生活環境、性格を描写して【日常】ってこうだ、
　と描きつくした挙句に波乱を用意した。

　それに比べると。

　比べてはいけないのだとは思う。
　芸術に年齢も関係ないから、どちらが
　年上だから、っていうのもないし。

　ただ。
　「カミュなんて知らない」に多大な期待を
　抱いていたのは事実で。この映画。ニューヨークでの
　上映も決まっているそうだから、成功はして欲しい。
　
　でも。
　僕がこの映画に抱いた失望は、
　日本映画のレベルにも関係するとなると
　嫌だな、とも思うところがあって。

　前田愛、という女優の存在を僕に教えてくれた
　だけで本当は満足しないといけないのかもしれ
　ないのだが。

　（写真＝「カミュなんて知らない」の前売り半券、
　　青と白が初夏に似合っていたのは確かだったけど）