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カテゴリ:エッセイ・随筆
夜、子どもを風呂に入れた後、子どもの歯の仕上げ磨きをしているときだった 2才の長女は、口を開いてもすぐに歯ブラシを噛んで喜んでいる 歯ブラシかじるな、口開けて、などと最初は言葉で教えていたが、いつのまにか、長女にお手本を示すように、あ〜んだよ、と言いながら自分の口を大きく開いたり、い〜して、と歯茎まで見えるくらい口を横に開いたりしていた そのとき、不意に何十年も前の幼い頃の記憶が蘇ってきた 幼稚園の頃だったか、小学生低学年の頃だったか、あるいは、もっと幼い頃だったか分からないが、母が私の顔の上で、あ〜ん、い〜などと言って必死に口を開いている様子が思い浮かんできた また、弟たちに歯磨きさせようと、同じように口を開けている母と母の膝下で口を開いている弟たちの姿も思い出した 何だか不思議な気がした 母に仕上げ磨きをしてもらっていた幼い自分と、子どもに仕上げ磨きをしている中年の自分と、同じ人間でありながら全く別人のような、遠い過去であるのに昨日のことのような、一瞬自分が誰でどこから来て今何をしているのかしようとしているのか分からない、旅行先の知らない土地のホテルで朝起きた瞬間のような、軽い錯乱の気分だった 淡い柔らかい懐かしい記憶が一瞬凝縮され、解き放たれたような、何十年もの時空を一瞬往来したようだった ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年10月09日 17時53分59秒
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