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カテゴリ:books, movies
Mitch Albom
『The Five People You Meet In Heaven』 Hyperion NewYork/YOHAN 【つづき】 それはエディの33才の誕生日でした。家を出た彼はマーガレットと結婚し幸せな家庭を築いていました。しかし夜にはまだあのフィリピンでの悪夢をたまに見ました。彼の足は依然として不自由でした。妻にはそれを知られまいと明るく振る舞いましたが、時にはどうしてもダメでした。 仕事はタクシーの運転手をしていました。ある日悪夢で朝4時に目が覚めると、そのまま起きてキッチンへ行きました。昨日の晩、タクシーの仕事を終え、車を駐車して家に帰ってくるとマーガレットが誕生日の準備をして待っていました。二人でささやかな誕生パーティーを開いた後がキッチンに残っていました。 その時、ドアを叩く音がしました。「エディ?起きてるか?!」下の階に住むパン屋さんでした。電話はまだ下のを借りていたのです。「エディ!家から電話なんだ。すぐ来てくれって。お父さんが大変らしいぞ。」 電話に出た母親は取り乱していました。父親が夜遅くずぶぬれになって帰って来たのです。長年のアルコールとタバコ、それに加えてずぶ濡れです。「きっと酔っ払って海に落ちたんだ」エディは考えました。彼は肺炎をこじらせてしまいました。体力が持つかどうかという歳になっていました。 絶対安静の入院が続きました。母親はほとんど毎晩病室に通いました。しかし父親の仕事も手伝わなければなりません。兄はセールスマンとなって家にはいませんでした。エディは昔手伝ったこともあり、タクシーの仕事が終わると夜には遊園地に行き、父親の仕事を少しだけ仕上げるようにして頑張りました。オーナーも長年の勤めを評価し父親のお給料を半分出してくれました。 一度母親の代わりに病室を訪れました。そこには力なく寝ている父親がいました。一言の声もかけられませんでした。あの爪にグリースのこびり着いた手を布団の中に入れました。父親は相変わらず冷たい壁の様な存在でした。 父がベッドから落ちて死んだという知らせを聞いたのはアパートに戻ってからでした。母がちょうど家に帰っていた時でした。怒りの感情が湧きました。子供は普通父親をヒーロー視します。ヒーローの死は格好良くなければなりません。しかし父親の死はドロ酔いの惨めな老人の死そのものでした。情けない思いでした。同時に壁がなくなった様で何だか心にポッカリ穴が開きました。 お葬式の後母親は少しずつ変になって行きました。夕食を父親の分まで作ってかたずけようとしても「まだお父さんが済んでいないのよ」と言い出しました。エディは同居するしかないと考えました。同時に遊園地の機械メンテナンスの仕事も全てエディが責任を負わされることになったのです。 まだティーンエイジャーの頃、父親に当然の様に仕事を次ぐよう言われて「何が不満なんだ?」と問いつめられたのを思い出しました。「結局おやじは死んでも俺をコントロールするのだな」エディは腹立たしい毎日が過ぎて行きました。 結局その後エディは遊園地と桟橋と実家に縛り付けられた様に生活していました。『遊園地さえなければ』という思いはずっと付きまとったのでした。 「ではこの話はどうかしら?」ルビーは雪の上に円を描きました。するとその中には一つの別の世界が見えて来ました。 それは嵐の夜でした。エディの実家でした。父の昔からの仕事仲間ミッキーと母が居間にいました。母は困っていました。ミッキーは酔っている様でした。母が寝室の方へ行くとミッキーが追って来ました。そして興奮したミッキーは母親に襲い掛かったのです。母親は必死に抵抗しました。ミッキーが頬擦りして来ました。母親の服が破れ乱れました。 母が叫んだ時、玄関のドアが開きました。父親がバールを持って入って来ました。寝室の二人に気が付くとミッキーをぶん殴って引き離しました。ミッキーは慌ててドアから転がるように逃げて行きました。父親は母親に怒鳴りました。母親は泣きながら気丈に応えました。父親はバールを握りしめるとドアを開けミッキーを追い掛けて行きました。 「これは一体どういうことだ?!」エディはびっくりして叫びました。「こんなことホントなのか?!」 続きがありました。雨の中桟橋まで追い掛けた父親は、桟橋から転げ落ちておぼれているミッキーを発見しました。ドロ酔いで海に落ちたのですから命はありません。父親は叫ぶと靴を脱ぎミッキーを助けるために海に飛び込みました。 二人で嵐の大波の中をもがきました。父親もあまり水泳は得意ではありませんでした。大分時間がかかって偶然浜辺まで辿り着きました。ミッキーが生きていることが分ると父親も砂浜にぐったり倒れてしまったのでした。そのまま長い時間が立っていました。 「その後はあなたの知っている通りよ。入院して病院で死んだわ。」 「知らなかった。こんなことだったなんて。何で父はあんな糞っ垂れのために死んだんだ?」 「友情のためよ」 「友情?人は友情のために死ねるのか?」 「では何のため?国のため?宗教のため?友達のために死ねる方がよっぽど良いわ。」 「お父様とミッキーの間には皆が知らない長い間の友情があったのよ。あなたが生まれて病院代がない時になけなしのお金を貸してくれたのはミッキーだったわ。お父様に新しいアパートを世話したのも。仕事を紹介してくれたのもミッキーだったのよ。一度の過ちを許せるお父様は偉かったわ。その後この件に関しては一言も口にしなかったのよ。」 「そしてミッキーにも知られざる話はあったわ。最後のチャンスの大事な仕事に遅れたのよ。それも避けられない用事だったのにね。大酒飲みだったのも悪かったわ。クビを言い渡された。ミッキーは仕事上の上司となったお父様にクビを繋げてくれるように頼みに行ったのね。偶然は重なりお父様は遅番だった。それにお母さまが美人だったのも悪かったのね。ミッキーはもう破れかぶれになったわ。まさに『魔が刺した』のね。」 「ミッキーは?」 「後悔して、その2,3年後にやっぱりお酒の飲み過ぎが原因の事故で死んだわ。あの日の自分を許せなかった。後悔の一生だったわ。」 【つづく】 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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