専門建築家制度と確認申請書へのサイン
日本で言う、工学部の土木学科(dept.of civil engineering)は、欧米では、建築の構造(architectural structure)を扱っています。フランスの現場で聞いた話によれば、欧米では、土木技師(civil engineer)の優秀な人材は日本で言う土木(社会基盤工学:civil engineering)の構造に進み、優秀でない人材は日本でいう建築の一般構造に進むということです。日本で言う工学部の建築学科(dept. of architecture)は、明治の初めに建築学部(school of architectue)でなく、工部大学校に入れられてしまいました。欧米と違い工学部(faculty of engineering)に入ったた為に構造(civil engineering)・電気設備・機械設備などと、都市計画・建築計画・意匠・歴史が同所帯になってしまったという歴史があります。最近では、東大の2006年卒業名簿の記述でも、土木・建築・都市工学の再編を唱えるアメリカで教育を受けた先生の声が聞こえています。日本の一級建築士は、現在の工学部建築学科(dept.of architecture, faculty of engineering)に属する建築家・構造家・電気設備技師・機械設備技師の教育を受けた者の共通の資格となっていますが、欧米のように建築学部(school of architecture)と社会基盤工学(dept.of civil engineering)等々が別々であるとするならば、本来別の資格と責任を有すべきこれらの分野が渾然一体となっています。真の耐震構造偽装問題の解決には、教育システム自体が異なるわけですから、建築家・構造家・電気設備技師・機械設備技師・造園家などと欧米諸国のように厳密に資格を区分し、夫々の専門分野についての責任を負うとともに、確認申請書に夫々の責任者としてサインすることが必要です。私が関わったフランスの建築では、確認申請書に二十数名の専門家のサインがありました。建築家のサインはそのうちの一つにすぎません。現在のままの一級建築士制度では、設計元請の建築家が、専門分野で無い部分にまで全て責任を負わされることになってしまいます。私の理解するところでは、そもそも、建築家の資格というのは明治・大正・昭和初期の日本になく、田中角栄氏が建築士制度を作るまでは、ありませんでした。それでも、明治・大正・昭和初期の建築が今でも残っているのは、それぞれの専門分野の教育をうけた専門建築家が、十分に協力しあっていたからでした。建築家の資格制度が不十分であった国土交通省の責任は重いものがありますが、責任を担わされた各専門建築家が自立した責任を負っていない点については性善論を壊してしまった意味で、各専門建築家も応分の責任をおわなければならないでしょう。