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スポーツ推進委員連合機関紙「みんなのスポーツ 2018年3月号」 「福島県民の手で『復興五輪』を成功させたい!!」 NPO法人うつくしまスポーツルーターズ 事務局長 齋藤 道子 私たちは福島県でスポーツボランティアを専門とする唯一のNPO法人「うつくしまスポーツルーターズ」として、2005年より活動しています。 ルーターズ(rooters)とは、英語で「根っこを掘る動物。転じて、何かに滑稽なほど夢中になる人たち」という意味です。ただひたすらにスポーツを愛し、支える。そんな熱い思いを法人名に込めました。 「復興五輪」というキーワードのもと2020年のオリンピックが東京に決まったとき、「私たちにも何かできるのでは!」と胸を高鳴らせました。2011年の東日本大震災、原発事故以来、福島には重い未解決の課題が山積しています。そんな中でのオリンピックというスポーツの祭典は明るく華やかな話題であり、私たちにとっても絶好の活動の場に思えました。 しかし、すぐにそれは幻想であると思い知らされます。オリンピックは資本主義の原理の下、巨額の協賛金や放映権で「儲けるイベント」と化し、その結果「オリンピックという言葉やロゴを自由に使ってはならない」「スポンサーの関係があるから、以前使用していた商品(ウエア等)は使えない」などスポンサーである大企業がすべて優先され、私たちのような地方の小規模団体は、あまりの規制の多さにあきらめムードとなっていきました。 一方で、私たちの住む福島では原発事故以降、資本主義では説明のつかないお金の流れが生まれ、住民の間にも見えない壁が出来てしまっています。資本主義とは、何かを作るのが得意な人が、自分の好きなものを作り、それを自由に売ることでお金が儲けられる。そのことによって企業や人々の間で健全な競争が起こり、世の中が便利に進歩していくというシステムのはずです。 しかし、原発事故の被災地となった福島では、支援金や見舞金、補助金などの名目で行政等から支給されるお金が一気に増え、住所のわずかな違いや申請方法によってお金をもらえたり、もらえなかったり、資本主義の〝あるべき姿〟とはかけ離れたところでお金が動いています。それ以外にも、原発事故の影響で避難を余儀なくされた人や自主避難をした人、避難しなかった人、福島県産の農作物を食べる人や食べないようにしている人など、さまざまな面でそれぞれの価値観が揺れ動き、それが見えない壁を作っています。また、そのようなナーバスな問題は互いに立ち入らない(直接言葉に出さない)という風潮も顕著です。 それでも、私たちルーターズはスポーツボランティア活動を続けてきました。スポーツの現場には元気な声が飛び交い、笑顔が溢れて、汗をかき、「ありがとう」と声を掛けられると清々しい気持ちになります。それは震災前と何ら変わりない光景です。 スポーツボランティアの魅力のひとつはそこに集まったボランティア同士の、バックボーンなど一切関係ないフラットな関係ではないでしょうか。年齢、出身地、職業、学歴、そんな情報を必要としない、同じ目標に向かって、ともに汗を流し笑顔を交わす…。「心」だけで繋がる無垢な関係性です。 2020年、「復興五輪」が開催されます。「それどころじゃないだろう、金儲けに走るやつらを助けるのがスポーツボランティアなのか?!」。賛否両論あることは承知していますし、立場や味方によっては正論だと思います。 それでもなお、私たちはこの復興五輪という機会をきちんと〝生かし切りたい″と決意しました。復興五輪は「福島の可哀そうな人たちを喜ばせてあげる」イベントではないはずです。福島がどんな地で、震災、原発事故を経て今どうあるのか、それを世界に発信する機会なのです。原発事故のもたらす恐怖も含めて、私たちが今生きているこの福島のありのままの姿を世界中の人に知ってもらうと同時に、世界中から受けた支援に対し、感謝を伝えるこの上ないチャンスなのです。 良くも悪くも自らを表現し、発信することが苦手な福島県民ですが、「主体的にこのイベントを生かさなければならない」と思っています。 オリンピックにおいてボランティアは唯一、お金とは別次元で動いている存在です。自ら手を挙げ、手弁当と笑顔でイベントをささえる縁の下の力持ちです。その数は9万人とも言われています。ボランティアこそ本当の福島の復興状況を誰にも気兼ねすることなく見たままに発信できる存在です。オリンピックの「良心」ともいえるボランティアが発信する情報は、世界中の人々が忖度なしに受け取ってくれるでしょう。そこで私たちは東京2020のボランティアについて、二つの提案をします。 1.ボランティアの事前研修を福島の被災地でも行って欲しい。 2.イベントの最後にボランティアのための「後夜祭」を福島で行いたい。 いつか人々がこのオリンピックを振り返った時、競技の名場面とともに、「ボランティアがあの「復興五輪」を創り上げたよね」、と思い出してくれたら、こんなうれしいことはありません。「福島はまだまだ大変だけど、福島で生きている人たちには笑顔が溢れているね」と世界の人が知ってくれたら、福島の子どもの未来に〝希望の灯″がともります。それはオリンピックという「世界最高のスポーツイベント」のみが持つ可能性です。そしてそれを体現するのはボランティアのパワーです。 福島県民がこの大きな力を生かし切ること、それが復興五輪の成功の鍵を握っていると思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.03.16 13:22:48
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