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旧暦明治2年5月11日夜、北海道は函館の一本木関門。 騎馬に跨(またが)った土方歳三が佩刀「和泉守兼定」をギラリと引き抜き片手八双に構えて官軍兵士を威嚇する。 「新撰組副長土方歳三である。皇軍の大将西郷クンに挨拶に行く。道を開けよ」 官軍兵士は土方の名前を聞いて一瞬ギョッとし、口上を聞いてたじろぐ。 「使者でござるか」 戦場の作法で使者なら関門を通さなければならない。 「使者にあらず、刺客である。罷(まか)り通る」 言うなり、土方が騎馬の横腹に蹴りを入れると嘶(いなな)きとともに高く上げた前足に官軍の兵士たちが退くのを見てニヤリと笑った土方が次の瞬間、背中に焼けるような激痛を感じる。 「ムウウウッ、榎本(武揚)、貴様ア・・・」 さらに、ドドーンと火薬の破裂音が続いて背中に軍服の焦げた煙がたつと、土方は馬上から崩れ落ちる。 後方から進んできた幕府軍兵士が土方に止(とど)めの弾丸を撃ち込む。 「官軍の将に申し上げる。旧幕軍総裁榎本武揚閣下は賊軍首謀格である新撰組副長土方歳三の首級を帝に献じ奉り降伏し奉る。左様、御取次願いたい」 官軍の小隊長らしい武骨な田舎侍らしい風貌の士官が、 「確かに口上は承りもした。じゃっどん、こん土方どんに鉄砲ば放ちたるは誰け?」 「拙者でござる。元幕府徒歩組 斎藤一之進でござる。よしなに覚え置きくだされ」 「卑怯千番じゃっど」 言うなり、 「ちぇすとーっ」 斎藤一之進を肩口から斬り倒してしまった。 「こん土方どんは敵ながら義に生きた武人と聞いておりもす。こぎゃん匹夫小人の手にかかって果てるとはさぞや無念のこっでござりモソ。せめて我らが手で供養してやりもんそ」 土方が夢見た「蝦夷共和国」建国予定地だった北辺の血に夕日が静かに沈んで行った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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