確か、ちょうど10年前の12月だったと思うが、
チック・コリアが彼のメンバーを連れて、宇都宮市文化会館でコンサートを行なったことがある。地元にこんなビッグアーティストが来るというので、私は早くからチケットを買い求めていた。で、実際にステージで本人を見たのだが、若い頃のひょろひょろっとした体型ではなく、ずいぶんとでっぷりと下腹が出てしまっていた。5年前にどうしてもチックの年齢を知りたくて、内田修ジャズコレクションのサイトの掲示板で書き込みをして聞き回ったのだが、親切な方が書き込みをしてくれて、誕生日が1941年6月12日とわかった。するとこのコンサートの時で、58歳だったことになる。なるほど若き天才もお歳を召されていたのだな思ってしまった。だがどうだろう、
ひとたびチックがピアノの前に座り、ジャズピアニストがよくやるような自分の得意なフレーズ(というか手ぐせ)を弾き始めると、にわかに回りの空気が変わってくるのだ。冬の朝のような張り詰めた空気の中に、湯気のような音が漂うというのだろうか。そんな感じの貴重な体験をしたのだった。その日のコンサートが素晴らしかったのは言うまでも無い。
さて、この
Now He Sings, Now He Sobs であるが、私はLP盤でしか持っていないので、最初の五曲ぐらいしか聴いていないのだが、中国の高僧の義浄(I.Ching)の書物にインスパイアされて作られた音楽のようである。
ミロスラフ・ビトウス(b)と
ロイ・ヘインズ(ds)とのトリオによるインタープレイが素晴らしいが、テーマとかアイデアとかはスタジオに持ち込んでるのだろうが、全編がスピード感のあるインプロビゼーションのようなこれらの曲で、ソロのタイミングとかを、どうやってキューを出してるのだろうと不思議に思うぐらいにうまくいっている。まさに神業といわざるを得ない。CD盤の方は私の聴いたことの無い曲と合わせて13曲入っているので間違い無く「買い」のアルバムだろう。
■チック・コリア/ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・サブス