東京バレエ団のバレエを観た。バレエ団の代表である佐々木忠次氏の親友であり、一昨年に亡くなった世界的な振付師のモーリス・ベジャールに捧げる、「ベジャール・ガラ」というオムニバス形式の講演であるが、何といっても目玉はシルヴィ・ギエムの出演する「ボレロ」である。ギエムは世界の頂点に立つバレリーナだが、最近は体力的な限界のため出演は少なく、出ても短編のみである。ロンドンのロイヤル・バレエのゲスト・プリンシパルであるが、自分が滞在していたときには彼女がロイヤル・バレエの舞台に立つことはほとんどなく、結局観る機会のないまま終わっていた。今回、彼女が来日する機会に、首尾よくチケットを取り、しかも非常に良い場所で観ることができたのは幸運だった。「ボレロ」は、その名のとおり、ラヴェルのボレロを題材とした演目である。暗い舞台の中央に赤い円形の台が置いてあり、その台の上にギエムが立っている。その周囲を、上半身をはだけた数十人の男性ダンサーが取り囲んでいる。太古の宗教的儀式を思わせる作品で、「春の祭典」にも似ている。ボレロの旋律が流れる中、ひたすら台の上でギエムが踊り続ける。台の上は狭いので走り回ったりすることはできないが、それだけに、しなやかな手足の動きが注目される。何の苦もなく、脚を垂直に上げる身体能力はやはり驚異的だ。曲とともに、徐々に動きが激しさを増し、長髪を振り乱してジャンプする姿は圧巻である。そして、曲と踊りがクライマックスを迎えた瞬間に終了し、たちまち割れんばかりの拍手が鳴り響く。さすがに、熱狂的なフル・スタンディング・オベーションであった。感極まってステージの下に走り寄ってきたおばさんの手をとるギエムのサービス精神は素晴らしい。世界中で喝采を受け続けてきた彼女であるが、それぞれの観客にとっては、生涯に何度とない機会であることを分っているのだろう。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう