カテゴリ:研究室風景
さえ:
この9月で修士課程の二年生になった林音知が、ジャーナルクラブでCellに載った論文を取り上げたのですよ。Impact Factorが高いと言うことは内容もしっかりした良い論文の筈です。 Angelman Syndromeという遺伝子疾患では、ユビキチンリガーゼ3Aに欠陥があることが今では分かっています。 Wikipediaによると『Angleman症候群(AS)は、重度の精神遅滞・てんかん・失調歩行などを主徴をする奇形症候群. Happy puppet(笑顔の操り人形)とも称されるこの疾患の特徴は、意味のある言葉のでない重度の精神遅滞・小頭・両手をたたく動作・筋緊張低下・落ち着きがないこと・けいれん発作・笑い発作(誘因のない笑い)など.原因は、母由来15番染色体上のUBE3A遺伝子コピーの欠失または変異による機能不全とされる』 ユビキチンリガーゼ3Aの欠陥がなぜこのように重篤な神経疾患を引き起こしたかがこの論文の主題です。 この論文第1図では、ユビキチンリガーゼ3Aの転写制御因子がMEF2であることを示すのですが、第1図の先ずAでは新生児マウスの海馬細胞を使って、神経伝達物質の一つであるグルタミン酸の刺激で、NMDA受容体が活性化されてユビキチンリガーゼ3Aの生産が上昇することを見ています。 林音知はグルタミン酸の刺激でユビキチンリガーゼ3Aが増えたと言うだけで、どんな実験条件なのか、ちゃんと論文を読んでいないのですよ。実験条件が分からないでいて、結果だけを一生懸命強調しても、その意味はぼくたちには伝わりませんよね。結局18日のマウス胎児から取った海馬細胞を10日培養して、それに様々の薬物を与えてユビキチンリガーゼ3AのmRNAの増加を調べたことが分かりました。 マウスを新しい条件に置くと、ユビキチンリガーゼ3Aが増えるという話も、どんな条件なのか(きっと、Angelman Syndromeの子供では、新しい刺激に興味を示さないからでしょうね)知りたいですが、不明のまま話が進みます。 つぎは、何やらごちゃごちゃ言っているうちに、MEF2がユビキチンリガーゼ3Aのプロモーター配列に付くMEF2が話で出てきました。 詳しく追求していくと、ユビキチンリガーゼ3Aの発現を制御する転写制御因子TFが何であるかを知りたいので、ユビキチンリガーゼ3Aのプロモーター配列に付く可能性のあるTFを探したら(これはデータベースを調べることで予測可能です)MEF2が浮かび上がったと言うことでしょう。次はそれを証明することですね。 予想通り次の実験はMEF2のSiRNAを与えると、グルタミン酸によるユビキチンリガーゼ3AmRNAの増加が阻害されます。さらに、MEF2がユビキチンリガーゼ3Aの転写因子であることを言うために、次にはクロマチン免疫沈降ChIPをしたのですよ。 ところが、林音知はクロマチン免疫沈降をちゃんと理解していないのです。 細胞を可溶化して、MEF2の付いたビーズを入れるとこのDNAがくっついて沈殿するんだなんて言うのです。実験の目的と内容を自分が知らないのに、勝手に都合良く想像で実験を理解して、本文で著者が主張していることをしゃべっているのです。 ともかくふざけた話ですね。論文をいい加減に読んできて人前で話すなんて、科学をいい加減に扱っているふざけた態度です。これは、聴いていている人を馬鹿にしています。 ここまで、先ず著者の言いたい一つの内容(著者の主張)を裏付ける第一図の中に6個の図がありましたが、ぼくが黙っていると、林音知の意味不明の説明で話が進んでいくと言うことは、聴いている人も分からないまま受け入れていると言うことになりますね。 このところずっと、研究室の外から10人近くの学部学生が聴きに来ているのですが、このJournal Clubは国慶節休暇の始まる前日だったので、休暇を増やすためでしょうね、誰も来なかったからうちの学生だけでした。 ですから、遠慮なく話の筋をはっきりさせるよう、ぼくは質問をし、解説を加え、実験が実験として理解できるようにしました。第一図が全部済むまでに、2時間ですよ。林音知の面子を潰しっぱなしでしたが、こればかりはやむを得ません。 ともかく、ぼくが腹を立てずに二時間、たった一つのセクションの説明をさせるのに我慢強く付き合ったことを、褒めて欲しいものですね。まだあと図が6個残っていますが、来週に回しました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012.10.02 08:59:48
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