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山形達也85歳の心理学

山形達也85歳の心理学

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2013.04.20
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カテゴリ:研究室風景
さえ:

教授室の白板には、

要想成功 要提問題 (成功したければ、質問をしなさい)

と左側に、そして右側には

不提問題 不能成功 (質問も思いつかない人は、偉くなれませんよ)

と、中国でよく見かける対聯のように書いてあります。何年か前に、セミナーで学生の反応があまりにもないので、業を煮やして書き付けたのですよね。

学生は授業に出ると試験でよい成績を取らないといけないので、必死になって覚え込むという努力をしますが、セミナーでは試験をするわけではないので、当番の学生が新しい論文の紹介をしていても、聴く方はぼやっとしています。

何も理解しようとしないで、聞いているふりをしているだけみたいなのは、ぼくも発表を聴いているから、直ぐに分かります。

この前のセミナーで演者となった学生は、Nature Cell biologyに載った論文を紹介しました。

腫瘍細胞がばらばらになった一つずつの細胞ではなく、いくつかの細胞が固まりになって転移するとき、その固まりを保持している要因は何かという論文でした。細胞が固まりになって転移する方がばらばらの細胞が転移するよりもホストの体内で生き延びる確率が高いわけですし、逆にホストの方から見ると細胞が固まっていない方が良いわけです。

ですからこの細胞塊を維持する機構が分かれば、それを壊す手段も見つかるわけですね。

こういう前置きがこの論文の紹介には必要だと思うのですが、演者はそんなことなしに、話を進めていきます。

はい、それで第一図の顕微鏡写真は、左は細胞塊の3Dで、右は2Dの写真です、といって、輪切りになった細胞塊の細胞の間の仕切りのなっている細胞膜上の分子の発現がいろいろと違うという話をするのです。

え、え、一寸待ってよ、何が3Dでなにが2Dなの?どっちも2Dの顕微鏡写真じゃない?

いえ、この左は3Dで右が2Dです、の一点張り。図の説明書きも見せてくれないので、こちらはいろいろと想像して合理的な説明を考えるしかありません。聞いている学生達はただうつろな目をしているだけ。

この左は細胞の固まりを、Matrigelみたいなゲル(毛細血管の周りの結合組織-
細胞外マトリックスーと呼んでいます)の上に置いて、その中にこの固まりが入っていくときの顕微鏡写真で、右は培養皿の底に培地に浸ったまま存在しているときの写真じゃないですか、それ以外には考えられないとぼくは主張しました。

こういう風に、正解かどうか分からないにしても、何か合理的な説明が付けられることをしないと、合理性を欠いたまま実験の説明が進んでいくのですよ(話が進んでいけば、それが正しかったかどうか、自然に明らかになります)。

もしぼくが黙ったままでいたら、演者は自分も分かっていないことをしゃべって、聞いている方は何も分からないまま、ただ聞き流していると言うことになります。

セミナーは、演者となった学生が新しい論文を自分で探して選んで、それを読んできて皆に紹介し、ちゃんと内容を分かってもらえる説明をして、なおかつ、その論文の内容を批判できなくてはなりません。

著者の主張していることを、聞き手に正確に伝えないといけませんが(理解できずにいい加減な説明をするなんて、論外ですよね)、ただそのまま受け売りしていつだけではいけません。

何故、このテーマで研究を始めたか、どういう解決法を考えたか、それが論理的に正しい選択だったか、その実験手法と得られた結果が科学的に受け入れらるものであって合理的な解釈がなされているかを、批判的にみながら読むことによって、自分も研究者になるための洞察力が得られるのです。そしてまだ知らない実験方法を学ぶ良い機会でもあるわけです。

落ち着いて考えてみると、何故、研究論文を読まなくてはいけないか、その紹介をどうやってするのかは、この頃は学生に話したことはありませんね。

ぼくが演者となって話すときの話し方、内容の並べ方、どういう目で批判しているかを学んで欲しいと思って、月に一度の当番をこなしていますが(ぼくの知っている限り研究室の教授がセミナーで同じように話している例は殆ど知りません。ましてこの年齢になっては、いないでしょ、そんな人は)、ぼくの論文紹介を見習えと言う言う態度だけでは不十分なのでしょうね。

このセミナーの時みたいに、演者の見せている図の説明に耳と心を研ぎ澄まし、間違いと思われるものを指摘して正しい流れに乗るように、指摘し続ける消耗な2時間を過ごして、今のうちの学生のレベルでは、日本でやってきたような論文紹介は、ここでは高度すぎるのじゃないかと思い始めました。

でも、どうしたらよいのでしょうね。

一人一人、論文を読ませて試験みたいにチェックすることが彼らをやる気を振るい立たせるのでしょうか。

少なくとも、対聯の中の、

要想成功 要提問題 (成功したければ、質問をしなさい)



要想成功 動Ni的脳 (成功したければ、頭を使え)

に代えました。

演者の論文の読み方は、個別に指導することによって、あるレベルにするのは可能かも知れません

一方で聞き手の方の鍛錬ですが、具体的に彼らを鍛えるにはどうしたら効果的か、少なくとも聞いている人がぼやっとしているのを、そのままにして置くのは、教育という観点から見ると犯罪的ですよね。理解したかどうかを、計る方法を作って皆の頭を刺激しましょう。

でもね、どうやったらよいか。。。





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最終更新日  2013.04.20 17:59:06
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