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カテゴリ:園芸
中日春秋 (書写) 土用鰻高嶺の花となりにけり 作家の井伏鱒二が『荻窪風土記』に、戦争中に通ったおでん屋さ んのウナギのことを書いていた▼食料が手に入らない時代にもかか わらず、この店ではどういうわけか、ウナギの蒲焼きだけはいつで もあった。喜んで家族に買って帰る人も多かったそうだ▼その「か らくり」を戦争の後で店主が井伏さんに説明した。ウナギと称して 売っていたのは実は雷魚。これを細めに割いて出していた。知らな ければ、よかった話だろう。井伏さん、まったく気がつかなかった そうだ。うまくだましたもんだとあきれると店主は「たれの工夫が 大変です」▼ほめられた話ではなく、今なら大騒ぎになるが、例え ば、父親の買ってきた蒲焼きに大はしゃぎする子どもの顔を想像す ると、あの時代に店主は小さな幸せを売っていたのではないかと弁 護したくなる▼土用の丑の日となった。さて今年のウナギはといえ ば相変わらずの高値である。稚魚のシラスウナギの高騰に加え、養 殖場の光熱費、輸送費も上がっており、やむを得ないのだろうが、 こう高いと雷魚の味はどうなのだろうと真剣に考えてしまう▼ウナ ギの値がうなぎ上りの時代には一尾を買って家族で分け合うのが当 たり前のスタイルか。〈ゆふぐれし机のまへにひとり居りて鰻を食 ふは楽しかりけり〉。ウナギが好物の斎藤茂吉。ひとりで食べると は。ずいぶんとぜいたくに聞こえる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.07.30 05:35:04
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