2024/03/12(火)05:13
(令和6年3月11日)中日春秋丸写しで一句 震災の痛み抱えてなを芽吹く♪
中日春秋 (書写)
震災の痛み抱えてなを芽吹く
『審判』などの作家、フランツ・カフカがある日、公園で泣いて
いる少女に出会った。大切な人形をなくしたという。一緒によく捜
したが、見つからなかった▼翌日、カフカは人形から預かったと一
通の手紙を女の子に手渡した。「悲しまないで。世界が見たくて旅
に出ました。また手紙書きますね」。別の日には「学校に入って、
いろんな人と出会いました」。また、別の日には「あなたが大好き
です」―。もちろん手紙はカフカが書いていた。カフカと交際のあ
った女性の回想に基づく物語だそうだ▼東日本大震災から13年とな
った。ハクモクレンが真っ白な花弁を広げるころだった。震災の日
にカフカの手紙の温かさを思う▼真偽は分からないが、カフカは作
品の執筆以上に手紙に熱心だったそうだ。何かを失う。誰かと別れ
る。女の子の悲しみが寂しい幼少期を送ったカフカにはよく分かっ
ていたのだろう。あの手紙のようにわれわれは震災の痛みの背を今
もさすり続けているか。もう大丈夫と決めつけてはいないか▼現地
の痛みは歳月の分、薄らぐことはあっても帰らぬ人、かつての故郷
を思い出せば、その悲しみは何年たとうと消えることはあるまい▼
遠ざかる記憶に被災地への関心や思いやりまで遠ざけたくない。わ
が身に置き換え、あの日起きたことを思い続ける。それは決して災
害への備えとも無関係ではあるまい。