イラン再訪(11)~バーザール、そして帰国
サアダーバード宮殿の次はバーザールに連れて行ってもらえるとガイドさんが案内してくれました。バーザール! 英語などを通じて、バザーやバザールなどの日本語にもなっているその元は勿論、ペルシャのバーザールから来ているのです。かつてエスファハーンは「世界の半分(ネスフェ・ジャハーン)」と言われ、ヨーロッパ人をしてエスファハーンを見ないでは世界を見たことにならないと言われた程で、それだけペルシャの市場というのは世界中のあらゆるものの集まるところとしてヨーロッパの人々に「バーザール」というペルシャ語のままに伝えられていったのでしょう。2004年にイランを訪れた時にそのエスファハーンのバーザールを楽しませてもらいましたが、何と言っても首都テヘランのバーザールはイラン最大と言われており、そこに行けるかと思うと思わず期待も高まるのでした。が、実際に訪れたのは、サアダーバード宮殿から比較的近いところにあるタジュリーシュ広場(メイダーネ・タジュリーシュ)にあるバーザールでした。比較的小さなバーザールで、なーんだ、という感じもしましたが、いわゆる旧市街の大きなバーザールは、一度迷ってしまうと元の場所に戻れないと言われているくらいのもので、今回訪れたところは、基本的に横道に入らない限り必ずバスのところまで戻って来られるシンプルな構造のバーザールだということでした。今回の旅行は飛行機の関係で1日短縮されてしまったこともあり、なかなかお土産などを買う時間もない中で、効率的に動きながら私たちツアー客に楽しんでもらおうと、旅行社とガイドの方々とで、苦心して作って頂いたプログラムであるとわかりました。小さいとは言え――。下の写真でおわかりのように、もう、人、人、人、すごい人混みです。通りの両側にびっしりと並んだ小さな店には、それぞれ取り扱っている商品が山と積まれているのです。以前、ラジオ「DAICHi-大地-」でこのバーザールを歩いている時の音を流しましたけれども、あそこで私が突然、「わぁーっ、これはすごい!」と叫んでいるのは、目の前にかなり大きなフルーツの山が見えてきたからなんです。バーザールの中は人、人、人!見よ、このうず高く積み上げられたフルーツの山を!こちらはパスタや調味料、バラ水などを売ってる食料雑貨店次の写真は、ナッツや種を扱っている店ですね。イランと言えばピスタチオが有名ですが、私と一緒に行動していた友人の一人は、ギリシャで大変おいしいピスタチオを食べたことがあるが、あのようなピスタチオがイランにもないかと、いくつかの店を回って探しておりました。そうそう! イラン人のお客さんの行動を見ていてわかったのですが、写真のように豆の類が盛ってありますでしょう? 勝手に少しつまんで試食していいのですよ。で、いろんなケースの豆を試食してまわりました。ひまわりの種あり、何だかカレーの味付けをした種ありといろいろです。こちらはナッツなどの豆や種、お菓子を売っている店値段はキロ単位で、それもトマーン表記で書いてあるというのがミソ。例えば、「4,000」と書いてあったら4,000トマーン、つまり40,000リヤールということになります。約500円くらいですね。なんですが、その4,000という数字もペルシャ数字で書いてあるのです。バーザールなどで買い物するんでしたら、ペルシャ数字はマスターしといた方がいいですね。私とその友人はこの時までには慣れていました。というのも、それまでの道中で見かける車のナンバーや看板に書いてある電話番号などで練習していたからです。ペルシャ数字です。何となく似ているような似ていないような。ただ、私自身はピスタチオばっかり1キロも要らないのですね。で、いろいろ見ているとミックスナッツがあったのでこれに決めました。ピスタチオは勿論、松の実や桑の実、小さな栗などいろいろ入っていて楽しめそうです。が、それでも1キロは要らない……。取りあえずこれ下さい、と指で差すと、「どれだけか?」と聞いて来る。そうか! 必ずしも1キロ買わなくていいのだ。量り売りなのだ。そこで思い切って英語で言ってみたのです。「ハーフ!」すると500グラム量って売ってくれるではないですか。勿論値段は値札の半分です。これに味をしめた私たちは、いろんな店に行っては「ハーフ!」を連発することになったのです。そんなこんなしているうちに、あっと言う間に集合の時間となります。バスに戻ると皆思い思いのものを買った様子。バスは南の市街地へと向かい、昼食を前にお話ししたアーブ・グーシュトを出すイラン料理店でとると、後はもう帰国の途に着くのです。南北の道が交差するメイダーネ・エンゲラーブ(革命広場)のロータリーを回って西の空港へと向かう道に入ります。市街地の西の端にあって、空港からテヘランに入る時、真っ先に私たちを迎えてくれたアザーディー・タワーが見えて来ると、いよいよテヘランともお別れだな、という気になってきます。空港へと向かう道の先には、朝とは違って力を失ったような淡い夕陽がゆっくりと沈んで行きます。エンゲラーブ広場のロータリーテヘランのシンボル、アザーディー・タワー空港へと向かう道の先に夕陽が沈むバスは空港の手前にあるというスーパーマーケットに寄ってくれました。正に、地元の人たちが使うようなスーパーそのものです。ここでやたら安い絨毯を見つけた話は前にしました。特に買いたいものもなく、ブラブラしてるうちに、そうだ! バラ水でもお土産に買っていこう! と思ったのですが、日本では特別なバラ水も、こちらの人はイタリア人がオリーブ・オイルをジャブジャブ使うように、バラ水をジャブジャブ使うからでしょう、私からすれば殆ど業務用と思えるような大きなポリの容器に入ったものしか売ってませんでした。さすがにこれはお土産としてはあんまり美しくないのと、第一、重いしかさばるのでやめて、前に来た時に食べた「マズマズ・チップス」というお菓子だけ買いました。前にも書きましたが、ペルシャ語で「マゼ」が「味」を表すことから、きっとこれは「ウマウマ・チップス」というニュアンスなのでしょうが――きっと日本では売れないでしょうね。ただ、一つ気づいたのは、スーパーなので全ての商品に値札がついているのですが、必ずしも安くない、ということです。地元の人たちもこの値段で買っているわけでしょうから、所得水準ということを考えると、テヘランは案外物価が高く、暮らすのは大変なところなのかもしれません。これはあくまでもこのスーパーで得た印象なので、実際にここで生活している人の話を聞いてみないことにはわかりませんが。スーパーでの買い物時間が終ると、いよいよ空港です。メフラバード国際空港の建物が目に入って来た時、私は妙な感覚にとらわれました。この空港が何とも親しみのある、懐かしい存在に映ったのです。それは丁度、東京にいてあちこち動く時に、必ず立ち寄ることになる新宿駅や渋谷駅に着いた時のような感覚です。前にこの空港に戻って来た時には、この国と、そしてこの国で出会った人々と別れるのがとても辛かったのですが、今回はそのような感傷は全くなかったのです。寧ろ――。寧ろ、またこの懐かしい空港に戻って来る、という感覚でした。そう、遠くない将来、いつかまたここに戻って来る。きっと――。